72.マサコ逃亡する
私達は、自宅で黙々とそれぞれの仕事を捌いていた。
一人、逃亡した奴がいる。
そう、容子である。
露店用の商品を追加発注の件で、相談しようとアトリエを覗いたら逃亡していた。
あいつ、帰ってきたら簀巻きにして庭に一時間放置プレイの刑だ。
仕事放棄は、絶対に許さん!
販路拡大のために、私もリポピタンDを飲んで徹夜で作業しているんだから!
アンナの目力に勝てなかった。
お金が絡むと性格変わる人っているけど、アンナも多分その手のタイプだと思われる。
自分で取ってきた仕事だが、馬車馬のように働かざる得ない状況に頭を抱える毎日です。
何で会社なんか立ち上げちゃったんだろう。
当初、ポーションも化粧品も作る予定なんて無かったのに!
容子のゴリ押で調合を取得したのをきっかけに、あれこれ手を出して自分の首を絞めている状況に陥った気がする。
今では、自作ポーションは当たり前。
更に基礎化粧品を作ってしまう、私スゲー。
効果が思った以上にあったから、商売にしようと考えちゃったのかー。
愚痴っても何の解決にもならないので、アンナと一緒にミニカタログを作りながら愚痴という名の呪詛を吐いて容子の帰りを待った。
容子が逃亡して三日後に、容子から連絡を受けてサイエスまで迎えに行った。
容子の後ろには、小汚いおっさんが居た。
兎に角臭い!
清掃を数回掛けて、漸く臭いがマシになった。
「その小汚いおっさんの身なりを何とかしろ」
と怒鳴りつけて、石鹸とシャンプー&リンスと体を洗う垢すりスポンジ・着替え一式を渡して宿の風呂に叩き込んだ。
最低、泡立つまで洗えと厳命付きである。
髭剃りも入れてあげたのはプライスレス。
おっさんが入浴している間に、容子の尋問開始である。
「あんな汚いもん連れて来るな! 元居た場所に捨てて来い!」
小汚いおっさんを拾ってくるなよ!
犬猫じゃないんだから。
ブチブチお説教をしていると、
「あのおっさん、とっても面白い称号を持ってたからさ~! 是非とも仲間に欲しいと思って連れて来た。それに、面白い情報も持っていたよ。三日後に行われる闇市で、ハイエルフが奴隷として出品される。見たくない?」
エルフか……。
見たいと言えば、見てみたい。
獣人なら冒険者ギルドで見かけた事があるが、エルフは見たことない。
人手を増やすのに、アンナに奴隷を勧められたっけ。
購入云々は置いておいて、闇市を見るのも社会見学になるだろう。
容子の考えは一考の余地ありと判断し、まずは男から情報収集だ。
尋問グッズを用意していたら、何か小ざっぱりとしたイケメンが部屋に入ってきた。
「おー姐さん、サッパリしたわ」
「あんた誰?」
警戒心MAXにして不信者を見る目で男を睨んでいたら、容子が拾ってきた男と判明した。
「宥子、あれは小汚いおっさんで私の下僕一号ワウル君です」
と言われ、ビックリした。
やっぱり私の感覚は間違っていなかった!
全くの別人なんですが!?
無精ひげを剃って、ボサボサの髪を櫛で梳かしたら、こうなるのか。
「本気か!? 詐欺じゃん」
吃驚している私を無視して、容子はアイテムバッグと予備の着替えを渡している。
「ばっちぃ服は捨てたからね。予備で、この服あげる。身だしなみには注意しないと、鬼女が二人いるから気を付けなよ。今から闇市の暴露話と、ワウルの自己紹介言ってみよう!」
何か物騒な物言いに、ワウルの顔が青くなっている。
「えーっと、容子の下僕一号。取り合えず、闇市でハイエルフが売り出されるって話は本当? 後、面白い称号を持ってるって聞いたけど。嘘偽りなく喋ってね♡」
防衛本能が働いたのか逃げようとしたので、
「拘束」
無属性魔法の拘束で、ワウルの身体の自由を奪った。
「宥子、ワウルは私の奴隷にするんだから。絶対に逃がさないでよね!」
と物騒な事を言っている。
「そんな、話が違うじゃないですか!! 姐さんの下僕になるとは言いましたけど、奴隷になるとは言ってない!」
「私を売り飛ばそうとした奴に言われたくないわ。無理矢理性転換手術すんぞ、ゴルゥァ! 温情かけて下僕にしただけでも有難いだろうが! あ? 私は、残りの仕事を片付けて来るから後は宜しく」
とワウル置いて、容子は自分のアトリエにそそくさと引っ込んだ。
どういう経緯で、ワウルを下僕にしたのか何となく分かった気がする。
大方、容子が過剰な正当防衛をしたんだろう。
「容子を売り飛ばそうとした経緯から喋って貰おうかなぁ」
逃げようともがいているワウルの顔を、水玉で覆う。
息が出来ずもがく様はゴブリンと余り変りないが、死なれても困るので、窒息寸前で消しては覆いを繰り返す。
大人しくなるまで続けたところで、本題に入った。
「さてと、そろそろ大人しく私の質問に応えなさい」
尋問を開始して、彼の持っている情報を根こそぎ頂きました。
容子に逃がすなと言われたので、仕方なく契約する事にした。
おっさんを契約するのは嫌だったが、育てれば有能な諜報員になれる。
これも金のためと思ってやりましたよ。
ワウルのステータスも、なかなかの極振りの縛りプレイスタイルだ。
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名前:ワウル
種族:人族[サイエス人]
レベル:40
職業:何でも屋
年齢:28歳
体力:50
魔力:39
筋力:34
防御:32
知能:617
速度:1036
幸運:999
■装備:白のシャツ・黒のジーンズパンツ
■スキル:情報収集9、俊足15、索敵10、隠蔽30、生活魔法1
■ギフト:韋駄天・[経験値倍化]
■称号:情報通
■加護:なし[須佐之男命・櫛稲田姫命]
[■pt統合]
所持金:金貨1枚、銀貨2枚、銅貨11枚、青銅貨9枚
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楽白ほどではないが、速度が著しく高い。
知能と幸運も高いが、それ以外はカスだ。
本当に私のパーティーは偏りがあるよね!!
奴隷にはしない代わりに、誓約魔法で名前を縛った。
拡張空間ホームを使えないように願ったら、恩恵受けられずにいたのには驚いた。
「スキルポイントを振り分けるから、索敵と隠密はレベル15まで上げること」
ポイントを譲渡して、スキルレベルを上げさせる。
気になるのが情報収集というスキル。
情報操作の上位スキルだ。
初対面ではゴロツキかと思ったが、ゴロツキはあくまで副業で。
本業は、何でも屋だと言っていた。
何でも屋と云っても殺しとかはしない。
必要な情報を集めるだけという。
ステータスに物騒な称号が無いところを見ると、殺しはやっていないのだろう。
おっさんの人生語りなんて話半分で十分だ。
「大体、お前の半生と容子との馴れ初めは分かった。闇市について詳しく話して貰おうか」
床にへたり込むワウルの前に、態々かがんで視線を合わせてあげたのに、
「キャァァアアッー」
という女性のような悲鳴を上げられた。
キモイ!
思わず手が出てしまったのは条件反射だ。
「サクサク情報を吐け」
警棒を手に持って、ワウルの顔に当たらないギリギリを攻めながらブンブンと振り回す。
最初から当てる気はないのだが、音だけでビビったのかあっさり白状した。