67.昇級試験2
一旦自宅に戻って、仕事を片付けてから宿に舞い戻ってきました。
時差が無ければ、本当に楽なのにね!
愚痴っても仕方がないので、頭を切り替えて働きアリの如くキリキリ働いている。
昇級試験の時間は決めてなかったので、人が掃けて暇している時間をピンポイントで狙ったつもりだった。
私達は、十時半キッカリ冒険者ギルドに到着した。
空いていると思ったのに、昨日より人が多くいる。
思わず口をへの字にしていたら、ジョンが直々に出迎えてくれた。
「待っていた。もっと早くにくるかと思ったよ」
「時間指定されてましたっけ?」
私は、すっ呆けるように首を傾げた。
「してないな。地下一階の訓練場で試験を行う。こっちだ」
ジョンの先導で、私達は地下一階の訓練場へと案内された。
私達の後ろには、冒険者がゾロゾロと付いてきている。
「なあ、あれどうにかならないの?」
ヒソヒソと小声で話す容子に対し、
「Aランク以上は、不正防止の為に一般公開されてますから無理ですよ」
とアンナが答えた。
思わず、
「暇人が多いのな」
と口を滑らせてしまったのは御愛嬌。
殺気を感じたので、顔だけ振り返ってニターッと笑みを浮かべたら物理的に引かれた。
殺気や威圧をしたわけじゃないのに、そんな態度を取られると、ちょっと傷つくなぁ。
訓練場に入り、冒険者達がグルッと私達の周りを囲んだ。
ジョンと私達の周りは、ぽっかりと円を描くように空いている。
「昇級試験の説明を行う。まずは、個別戦とパーティー戦を行い、総合を評価してランクアップするかどうかを決める。元Sランクの私が直々に相手になろう」
「一応、確認何ですけど良いですか?」
「何だ?」
冒険者を指さして、確認する。
「見物は構わないんですけど、魔法に巻き込まれて死んでも良いんですかね?」
私の言葉に、ジョンの眉がピクリと動く。
「少なくとも此処にいる奴らは、セブールの冒険者よりは強い。魔法に巻き込まれて死ぬような奴は居ない」
一応、忠告のつもりだったんだけどなぁ。
巻き込まれない自信は、一体どこから来るんだろう。
「一応、念のために従魔に結界を張らせます。個人戦・パーティ戦共をするに当たって、休憩を取りますか?」
「問題には及ばない。こう見えても頑丈で体力はあるからな」
ガチな脳筋だ。
サシの戦いなら、カルテットだけで十分戦闘不能に出来る。
「この場合、アンナ・容子・私+カルテットになるのか……」
「過剰戦力はダメ」
「そうですよ。うっかり殺したら、ダメですよ」
と二人に止められた。
アンアも容子も、ジョンが脅威にならないと分かっての言葉だろう。
「私が手出ししなきゃ、問題ないでしょう。威力を誤って殺さないようにね」
大丈夫だとは思うが、ギャラリーも巻き込んだ上で半殺しは覚悟した方が良いだろう。
私達、手加減なんてスキル持ってないからね!
「私は魔物使いなので、従魔の参加を許可して下さい」
「構わないよ」
よし、言質は取ったぞ。
「レベルの低い順から行いましょうか。先鋒アンナ、次鋒容子、最後は私の順番で良い?」
皆に同意を求めると、それで良いとお返事が返ってきた。
「容子、M85とドラゴンフライの使用は禁止な」
異世界から持ち込んだ武器の使用禁止令を出したら、
「そんな! どうやって戦えば良いのさ」
と憤った。
「初級魔法の使用は可。自作の武器で戦っても良い」
初級魔法でも魔力量によっては、中級にも勝る。
ハンデは必要だろう。
ドラゴンフライやM85、HK416Cカスタム、テーザー銃はオーバーキルになるから却下だ。
人間相手に使ったら、確実に死者が続出する。
<ポイントを振るから、それで攻撃系スキルを適当に取得しとけ>
念話で伝えたら、渋々だが了承した。
はー、やれやれ。
面倒な事になった。
「私からお願いします」
アンナが前に出て、一礼した。
私達は、入り口付近まで下がって折り畳みの机と椅子を出してお茶をしながら観戦モードに突入した。
立ち合い人の職員が、
「始め」
と言った瞬間、アンナの放った影拘束で首を絞められ、窒息狙いで落とした。
戦い方が、確実に相手を仕留めに掛かってきている気がするのは何故だろう。。
アンナの初撃で、ジョンが早々に戦闘不能になってしまった。
仕方がないので、気付け薬を飲ませて叩き起こした。
「はい、次は容子」
強制的に選手交代し、容子は肉球斧を引きずりながら使いたくないとぼやく。
「宜しくお願いします」
「ゲホゲホッ、……ああ」
それぞれ位置に着き、「始め」の合図と共に容子の怒涛の攻撃が始まった。
肉球斧を振り回して、訓練場の床をボコボコと叩いている。
床を陥没させる気か?
「一応言っておくけど、この部屋に掛けられた結界は容子が攻撃しても壊れないから床を陥没させるのは諦メロン」
「ちょっ、それを早く言ってよ!」
私のアドバイスに、容子は肉球斧を仕舞って鉄バットを拡張空間ホームから取り出した。
何をするのかと見守っていたら、ジョンの腹目掛けて思いっきりフルスイングしている。
「フンッ!」
ドゴッと嫌な音と共に、巨体を軽々と打ち飛ばしている。
ビタンッと結界にぶつかり、ベチャリと音を立てて床に落ちた。
ズルズルと鉄バットを引きずりながら、ジョンの元を歩く容子の姿はホラーだ。
ツンツンと、バッドでジョンを突いているが反応がない。
容子が焦った様子でこちらを見てくるので、私はサクラにジョンの回復を頼んだ。
復活と完全治癒を掛けて貰い、ジョンの命は守られた。
「弱くね? カルテットを嗾けたら、ガチで殺してしまうんじゃない?」
「手加減出来ないからなぁ。一旦、叩き起こすわ」
水玉をジョンの顔面にぶつけて、覚醒を促す。
「ううっ……」
「目が覚めました? 後は、私だけなんですけど。休みます?」
「……」
ジョンの顔色が悪い。
一応、自己申告しておくか。
「メンバーの中で一番強いので、死ぬかもしれませんよ? 私も従魔も手加減が出来ないので、うっかり殺したらごめんなさい」
手加減出来ない出来ないですよアピールをしたら、真っ青だった顔が真っ白になっている。
周囲の冒険者達もドン引きしていた。
「分かった。十分、分かったから! 全員Sランク昇格だ」
これは、ちょっと意外な展開だ。
日にちを開けて、手合わせするかと思っていたのだが、こうもあっさりとSランクの昇級するとは思わなかった。
「私、戦ってませんけど?」
「瀕死の俺を完全回復させれる従魔がいるだけで、十分資格があるからだ」
納得は出来なかったが、手間が省けて良かったと思う事にしよう。
「ふぅん。カードの更新お願いします。後、素材の買取もお願いしますね」
「あ、ああ」
無事昇級試験を終えた私達は、訓練場を出て買い取りカウンターへ直行した。
王都に来るまでに狩ったモンスターの素材を半分だけ放出したら、また驚かれた。
王都に来る間に、私達はA~Sランクに該当するモンスターを狩っていたらしい。
魔石以外の素材は、全てお金に変わりました。
何もせず討伐達成してお金が入るって、本当に素晴らしいね!
一気にお金持ちになりました。
手元に金貨100枚残して、それ以外は全て貯金させて貰った。
勿論、容子が商業ギルドに売ったデタラメ仕様な杖の代金白金貨150枚もだ。
結構貯まったわ。
ウハハハッ。