66.マサコ作の装備品はチートだった
宿に戻ると、容子とカルテット達は案の定と言うべきか、街へと繰り出していた。
子供ではないんだ。
放っておいても、夕飯時には戻って来るだろう。
私は容子に内緒で買ったYビールを空けて、アンナと乾杯しつつ今後について話していたら、思ったよりも早く戻ってきた。
戻ってきた容子の機嫌が悪い。
カルテットは、いつも通りだ。
聞いてよ、とばかりにオーバーリアクションで捲し立ててくる。
「防具屋、服、アクセサリーと色々店を見て回ったのに、物凄くクオリティが低いんだよ! 王室御用達の防具店に入って品物を見たんだけど、どれもこれも最悪!! 竜皮を使った胸当てが、防御力+980・弱点特効+30・火耐性+30と低品質なの。その程度の防具なら、私でも作れるわ。それにさ、店員の態度が明らかに客を見下してるっていうか、本当あれで商売が出来るっておかしくない?私が作った防具を売りに出してよ」
と文句を垂れ流しつつ、容子が作った装備品を手渡された。
ベッドの上に、並べられる装備品を鑑定したら、どれも高品質・高性能だった。
「色々と作っているとは思っていたけど、装備品というより装飾品メインだね。性能は文句なしだけど、売り出すのはちょっとなぁ」
「ヒロコ様、素晴らしい出来ですよ! お二人とも、冒険者らしからぬ恰好ですのに身に着けられている装備品は一級品です。指輪一つとっても、王室御用達で扱っている品よりも上! これは、売れます」
ギラリと目の色を変えたアンナに、私はあーあっと呟いた。
変なスイッチ入った彼女を止めることは、非常に面倒臭い。
「私や容子の服は、楽白の糸あってだからね。前にも言った通り、武器は市場に出さないよ」
「分かってます。武器ではなく、これは防具です。装飾品としても、着けられますので豪商や貴族子女には売れます」
鼻息を荒くして容子の作った物を売れると断言する彼女に、私は少し考えて言った。
「販路は? 幾ら性能が良くても、ポッと出の人間が売るとなれば買い叩かれるのは目に見えている。売るなら、利益が出ないと許可出来ないよ」
「お任せ下さい。一旦、私経由で商業ギルドに卸して売りましょう。話題作りの為に、夜市場で露店を出すのも良いでしょう。詳細は、後で詰めましょうね」
と、私を巻き込む気満々で話を進めている。
ちょっと、止めてよね。
容子の作った物は、カルテットと比べて性能は落ちるがデザインが万人受けするだろう。
国宝級とまではいかないが、ダンジョン産のレアドロップ並の性能はあるだろう。
高ランク冒険者やギルドマスターの所持している武器は、どれもダンジョン産で性能もそこそこ良かった。
ダンジョン産より容子が作った装備品の性能が良かったら、確実に絶対目を付けられる。
最悪囲おうと追い回される未来が見える。
時間を見つけて、一度ダンジョンダイブする必要がありそうだ。
どんな装備品がドロップするのか、この目で確かめる必要がありそうだ。
「OK、その辺は二人に任せる。人気の品は、量産できるようにするよ」
ベッドの上に並べられたアイテムを拡張空間ホームに収納する。
「容子は、見本の劣化版を作れ。商業ギルドに卸す物とは別に、夜市場で露店する時に売り出すから」
「何でクオリティ下げる必要あるのさ?」
「性能がチート過ぎるからだよ! 上に目をつけられたら、色々と面倒臭いでしょう」
行動範囲が狭まるとか、本当に無理!
私の言いたい事を理解したのか、容子は成程と頷いた。
「話は変わるが、私達三人はチームで活動するって冒険者ギルドに報告した」
「元より、そのつもりでアンナを引き込んだんでしょう? それ、私に言う必要ある?」
「容子は、黙って聞く。コホンッ、セブールの件を報告した際に私のレベルもバレちゃった。レベルとランクが見合ってないから、Sランク昇級試験を受けろって言われたわけよ。一人だけSランクになっても、組めるパーティーが限られてくる。そこで、パーティー全員Sランク昇級試験を受けて貰う事になったから宜しくね」
ニッコリと今後の予定を話したら、容子はウヘェな顔になった。
「ランク上げる必要なくね? 断れば良かったのに」
「レベル三桁台の奴が、低ランクのままは良くないと思われたんじゃない? ランクが上がれば、柵は増える分、やれることも増える。悪いばかりじゃないと思うよ」
それに、Sランク冒険者に手を出そうとする貴族は早々いないだろう。
「それもそうだね。ああ、一つ報告なんだけどさ。面白い本を見つけたから購入した」
渡された本の表紙には、何も書かれてない。
題名も作者も無名の本だった。
パラパラと捲ると、見慣れた日本語と和製英語が記載されている。
どうやら、サイエスに召喚された日本人の日記だった。
軽く目を通すと、効率よいレベル上げの仕方や、ボスの倒し方など色々書かれている。
全体的に二病臭がする本だ。
「容子、よくやった。後で、金一封あげる」
「お小遣いゲット♪」
ひゃっほいと喜ぶ容子を放置して、アンナに本を渡した。
「容子は読んだみたいだから、アンナも目を通しておいて」
「了解です」
アンナは、早速パラパラと本を捲っている。
それを横目で確認しつつ、商業ギルドに卸す基礎化粧品セットの検品をしていると、容子がアホな事を言い出した。
「今度こそ、ドワーフの洞窟に行けるよね?? 私、物凄く楽しみにしてたんだから。それで、いつ行けそう?」
ドワーフの洞窟! と連呼する容子に対し、キュッと眉間に皺が寄る。
「人の話聞いていたか? まずは、Sランク昇級試験です。後、上級ポーションのスクロールの取得。直ぐは無理。お前の都合を優先すんな。色々やることやって、全部用事が終わってからに決まってるでしょう」
自作の装備品を売り込んでくれと言った矢先に、ドワーフの洞窟に行きたいとほざくか?
無いわぁ。
こっちでもCremaの知名度を上げたいのだ。
容子の要求を聞いている暇はない!
「酷い!! こんなに待ったのに!」
容子からグチグチと文句の荒らしが飛んで来たが、ニッコリと笑みを浮かべて言ってやった。
「じゃあ、容子が面倒な商談を纏めて来るか?」
「無理です。ごめんなさい」
シクシクと泣きだした容子に、私はフンッと鼻で嗤う。
商業ギルドで基礎化粧品セットの流通させる予定だったのを、容子の思い付きで装備品の流通まで確保しなければならなくなった。
容子が、一人で有利に商売できるなら口を挟まなかったが、例のAランク冒険者達との一件で彼女は商売に向いてない。
商談になれば、絶対に買い叩かれる。
材料費にすらならない金額で売りそうで怖い。
「明日は、全員で昇級試験を受けます。その後、商業ギルドに商品を売込みに行くよ」
私は、サクッと明日の予定を伝えて一日が終わった。