63.マサコ、新しい魔法を覚える
王都への近道ということで、穴倉に潜っております。
地図で確認すると、洞窟を直進で突き抜けた方が早いと判断したからだ。
ダンジョンまではいかないが、人が寄り付かない場所であるこには変わりない。
近くの村では、死霊の洞窟と呼ばれ恐れられているらしい。
オカルト絡みに縁がある私達に死霊は、全く恐ろしくもなんともない。
「私達は慣れているけど、アンナが怖がらないのは少し予想外の反応だわ」
死霊系モンスターの生息地は、ゴーストやグールが行く先々で出会う。
アンナは、顔色一つ変えずに淡々とサクラが生成した聖水を振りかけている。
「死霊如きに恐れをなしていたら、商人の名が廃ります。洞窟内で火魔法を使えないのが歯痒いですね」
と返された。
「この閉鎖空間で火魔法をぶっ放すと酸欠になるし、氷魔法でも覚えてみる? グール相手なら、牽制くらいにはなると思うよ」
「ちょっと、そこ! 喋ってないで戦闘に集中してよ」
容子が、ギャーギャーと喚いている。
「死霊系モンスターは、聖魔法が有効だと知ってるでしょう。キリキリ倒して、新しい魔法の一つや二つ覚えなさいよ」
「ギャーッ! 治癒! 治癒!!」
涙目になりながら、モンスターに治癒を連発している容子を見るのは楽しい。
サクラがフォローに回ってくれるので、私達はのんびり後ろを歩いていられる。
「レベルが、400超えた時点で人間辞めているよね~。この世界の標準的なレベルって幾つなの?」
標準レベルをアンナに聞いてみたら、
「一般的には、3~10前後になります。冒険者ギルドのマスターは、相応にして100前後です。過去に冒険者として活動されていた勇者様は、レベル500を超えていたそうですよ」
と返された。
「勇者が500前後なら、私も勇者を名乗れるんじゃない?」
勇者ではないが、レベルだけで言えば500に到達するのも時間の問題だ。
「お前が、勇者とか無いわ。つか、邪神の使徒の間違いだろう」
容子のツッコミに、アンナがフォローにもならないフォローをする。
「それは、言い過ぎでは?」
おいおい、二人して私をどう思っていか良く分かる言葉だな。
アンナも何気に酷いね!
そこは否定してくれても良いじゃん。
私の配役は、悪役決定ですか。そうですか。
「悪い事していないのに、何でそんな認識なのよ!! ちょっと酷くない?」
「いや、全然。だって、お前の考える戦術ってえげつない上に容赦ないじゃん」
「そうですよねぇ。火責め、水責めで一掃しちゃいますしね。流石に森の中で火責めしそうとした時は、ちょっと肝が冷えました」
単身でウロウロすると、もれなくモンスターが襲い掛かってくる。
それを効率よく排除するのに、何故私が手心を加えなくてはならないのか。
全くもって理解できない。
「労力が最も少く、効率の良い方法を取っただけだよね」
魔力が多くなければ出来ない技だが、効率よく駆除して無傷で勝てるなら良いじゃん。
水責めで殺しきれなかった奴は、火責めでこんがり黒焦げにしている。
一度火責めでモンスターを駆逐した際に、森に飛び火して山火事を起こしそうになったことはある。
洒落にならない事をした自覚があるから、それ以降は火以外の魔法を使って戦っているのに酷い言い草だ。
「威張って言うことじゃないと思う」
はぁ、と大きな溜息を吐かれた。
失礼な!
「私のことは良いの! それより、容子の聖魔法を伸ばす為に魔法攻撃主体に切替えたのに、全然役に立ってないでしょう。サクラの治癒に劣るだけでなく、私の下級ポーション(劣)より酷い治癒! 聖魔法の才能ないって認めなよ」
「うっさいわ! 今勉強中なんだから仕方がないでしょう」
ギャイギャイと言い合いしていたら、スケルトンナイトが襲い掛かってきた。
索敵してたのに気付かなかったわ。
「「邪魔すんな!」」
一言一句違わずにスケルトンナイトに怒鳴りつける私達。
容子は治癒を、私は切り裂きを無意識に放っていた。
ぐおおおおぉぉぉぉおっ、と雄たけびのような声を上げて消えたスケルトンナイトは哀れだ。
姉妹喧嘩の邪魔をしたのが悪い。
「敵に治癒とか、あり得なくね?」
「怨霊類は、お清めの塩やお経が相場でしょう。治癒は聖魔法なんだから、怨霊にしたら十分攻撃になるでしょう」
フンッと鼻を鳴らして吐き捨てるように言う容子に、私はある仮説が頭に浮かんだ。
「容子の聖魔法は、生き物には効果が少ないけど死者には絶大な効果を発揮するんじゃない?」
「馬鹿じゃない。ご都合主義な話あるわけないじゃん」
と冷たい目で見られた。
あ、やっぱり容子自身が聖魔法の適性に疑念を抱いているっぽい。
しかし、先程のスケルトンを倒した時にサクラの神聖魔法よりも効果があったような気がする。
「お仲間さんが、大群で起こしだよ。目視で十八体居るから、ここは容子一人で戦ってこい。餞別にMPポーションあげるよ。MP尽きる前に飲めよ~」
サクラに結界魔法を展開して貰い、拡張空間ホームから椅子と机を出してティータイムを満喫した。
「何、呑気にお茶飲んでるのさ!」
「前向いて戦わないと殺られるよ~」
発破をかけると、容子は慌てて前を向き直った。
ギャァァァアッという悲鳴が聞こえたが、知らね。
就活した企業からのお祈りメールのように、私も容子が無事生還する事を祈ってやろう。
ポイントで取得したとはいえ、聖魔法を取得出来たのなら最低限の適正はあると思いたい。
対アンテッドなら、容子の治癒が非常に効果的である可能性が出てきたのだ。
ここは、成長を促す為にも手は出さないで暖かく見守ってやろう。
「治癒治癒治癒治癒!」
治癒の精度も上がっているのか、一発ぶち当てればグールもスケルトンも浄化されて消えている。
右手に肉球斧、左手にMPポーションという姿に爆笑した。
ゴブリン三千匹を相手にした時の私の様だ。
「もうっ、いい加減死にさらせぇぇぇっ! 範囲治癒!!」
我武者羅という言葉が、今の容子にはピッタリだと思う。
新しく範囲治癒を覚えたようだ。
目出度い、目出度い。
範囲治癒のお陰で、モンスターを一掃出来たようだ。
「おめでとう。新しい魔法覚えれて良かったね」
「おめでたくないわ! 私を殺すきか!!」
胸倉を掴まれギリギリと〆上げられる。
妹よ、首が閉まって苦しい。
ベシベシと腕を叩いたら、容子は痛いそうに腕を擦っている。
「睨んだ通り、容子の聖魔法はアンテッド系モンスターに効果絶大なんだよ。ヘッポコ治癒の使い道が出来て良かったね!」
「嬉しくねぇ。前衛治癒を求めてたわけじゃない。可愛く癒す女の子になれるはずだったのに!」
25歳過ぎたババアが、女の子とか言っちゃあ犯罪だよ。
世の中の魔法少女に、記者会見開いて謝罪する案件だ。
「ババアが女の子言うな。女の子と言い張れるのは、ギリ十代までだよ。それを超えたら美人と可愛い子以外は、男からしたら等しくババアだ。並みの容姿で女の子言うな」
拳をギュッと握りしめて力説する私に、容子からグーパンチを喰らった。
「ゲフッ! 痛い!」
「五月蠅い。私が女の子っつたら女の子なんだよ!」
殺気が籠った目で睨まれ、私はヒュッと息を呑み素直に謝罪した。
年齢の事に触れたからか、それとも一人スケルトンの群れに放り込んだからか、とにかく容子の怒り具合が凄まじい。
取敢えず、ここは穏便に謝罪しておくべし。
「……はい、すみませんでした」
「今、取敢えず謝罪して済まそうと思ったよね?」
「思ってないよ~。たかが十数体のモンスター相手に、容子が後れを取るとは思ってないから。万が一の時は、サクラがいつでも援護できるように待機させてたでしょう」
と慌てて誤魔化したが、胡乱気に睨まれた。
「……二度とブートキャンプみたいな事しないで。次はない。もし、同じ事をしようものなら嫌がらせ飯の刑にするから」
「それだけは勘弁してー!!」
グリンピースと椎茸尽くしの食卓なんて嫌だ!
残したらお玉が頭にフルスイングされる。
私がご飯作れないの知っているくせに、本当に鬼だ。
ご飯を盾に取るなんて、酷すぎる。
「今日は、新しい魔法も覚えたから許す」
一先ず、嫌がらせ飯は回避できたようだ。
「容子の聖魔法は、何というか前衛的だね。レベル300前後のアンテッド相手に、治癒を一発当てて、止めを刺すとか無いわ」
「何それ! 私と余り変らないじゃん。前言撤回、暫く嫌がらせ飯の刑だ!!」
ギャーッ、要らん事まで喋って容子を怒らしてしまった!
ムンクの叫びのように絶叫する私に対し、カルテットはニヤニヤと念話してきた。
<お仲間や>
<要らんこと言わんかったら普通の飯やったのにな>
<主は一言多いのが偶に傷ですのぉ~>
楽白の謎の踊りを最後に見せられ、私は撃沈した。
楽白よ、今お前の踊りを見ても私は癒されない。
うん、そうだね。
可愛いけど、私は飯の心配が第一なんだよ。
<嫌がらせ飯仲間やん。気落ちせんでも良いんとちゃう>
赤白、お前は自業自得なんだ。
私は、トバッチリなんだよ。
リアル地面に手をついて『OTL』な格好になった。
サクラ、私の頭の上でピョンピョン跳ねないで。
地味に痛いから。
「私の聖魔法は、対アンデッド用だと分かった。回復役は、サクラちゃんに任せる」
「……うん、そうだね」
賢明な判断だ。
下手に私が口を挟んだら嫌がらせ飯が、長く続くのでお口をチャックした。