61.アンナの意外な一面
おかしい。
しかし、何がと思うほどの違和感が無い。
だが、何となくカルテットの様子がおかしいのだ。
容子から罰を与えられて、もう三日は経っている。
なのに、文句一つ言わない。
私は、絶対泣きついてくると思ったのだが、四匹とも耐えている。
蟒蛇二匹と、異世界の甘味に魅了された二匹が何も言ってこないのは不気味だ。
「なぁ、容子。あいつらの食事、本当に乾パンとマウスか?」
「当たり前でしょう。それ以外は、与えてないし」
ムッとした顔で、容子が断言している姿を見る限り、彼女が四匹に何かを与えている気配はなさそうだ。
「それにしても、随分大人しいね。もっと泣くか、喚くかすると思ったんだけど」
「言われてみれば、大人しいな」
ジーッとカルテットを見るが、やはり特に変わった様子は見受けられない。
私の愛蛇センサーが、何かおかしいと反応しているのに原因が分からない。
「むぅ、気のせいかなぁ」
「気のせいじゃない? 反省したそぶりを見せているだけとも取れるしな。ま、そんなそぶり見せられても罰は受けて貰う」
ケケケケッと不気味な笑みを零す容子に、私は口を噤んだ。
下手に助け舟出したら、トバッチリが私まで飛んで来そうだ。
カルテットは自業自得だし、これを機にご主人様(笑)の云う事を聞いてくれるようになれば万々歳だ。
カルテットの事は一旦置いておいて、今後について話を切り出した。
「容子、ドワーフの洞窟はお預けな。至急、王都の冒険者ギルドに行く用事が出来た」
「それ、後回しじゃダメなの?」
次こそは、ドワーフの洞窟に行けると思っていた容子の落胆ぶりは見ていて面白い。
「ゴブリンキング討伐の報告と併せて、冒険者ギルドの怠慢と汚職について報告は必要でしょう。あのギルマスですからねぇ。報告は早いに越したことはありません。ダリエラからの改ざんされた報告をされる前に動くべきです。ギルドの膿を出すには、丁度いい機会だと思いますよ」
アンナ、物凄く良い笑顔をしているよ。
そんなに、冒険者ギルド嫌いなの?
私も、セブールの冒険者ギルドは好きになれなかった。
「そうだけど……。ポーション作ったら、ドワーフの洞窟に行くって約束したじゃん」
私の王都行きに、容子は難色示している。
予想はしていたが、25歳を過ぎた大人が不貞腐れても可愛くない。
「社会人にもなって、報・連・相って言葉を知らないのか!? あ? 今回は、偶々私らが居たから大事にならなかっただけ。本来なら、セブールが壊滅してもおかしくなかった。報告を疎かにすれば、あの女が都合の良いように捏造した報告をされるじゃん。私らのしたことは、丸っと全部無かった事にされた挙句、手柄を横取りされても良いの?」
「それは、ムカつくから嫌だ」
そこまで言って、容子はグッと言葉に詰まり、ガクッリと肩を落とした。
容子は、自己中心的な性格をしている。
手先が器用なので物作りを趣味としているせいか、職人気質で我儘な部分が目立つ。
今回も、延び延びになったドワーフの洞窟に行けると思った矢先の突発的なトラブルで延期になった事に対し、頭では理解しても感情が追いつかなかったのだろう。
欲望に忠実なのは悪いことではないが、TPOを弁えた行動を取って欲しいものだ。
しかし、容子の哀愁が漂う背中を見るのは楽しいな!
「……はい」
「ま、ドワーフの洞窟はいつでも行こうと思えば行けるんだし。まずは、王都でキッチリやることやってからでしょう」
「分かってる。分かってるけどさ、行きたかった」
そんなに鉱物を採取したかったのか?
労して手に入れるより、金で直ぐ手に入るなら、私としてはどちらでも構わない。
容子は、発掘する過程も楽しみたいのだろう。
「目的の拡張空間ホームは取得済みなんだし、鉱物は後で幾らでも採取出来るんだから良いじゃん」
「王都に行けば、珍しい物も手に入ると思いますよ? 物流は、セブールの比ではありませんし」
アンナの言葉に容子の顔が、少しだけ明るくなった。
「今は、それで我慢する」
「そうしてくれると助かるよ。セブールから王都までは、原付きで移動だね」
「ニケツで行くの?」
「いや、新しく買う。別行動する可能性を考えれば、アンナさんにも慣れて貰わないとダメでしょう。原付きの免許は簡単だし、一発合格できるって信じてる」
「確かに、一理あるね。買うなら可愛い系が良いな」
と容子は、スマートフォンを使ってネットから原付バイクの画像を探して見ている。
それに対し、アンナは困惑した表情を浮かべていた。
「ヒロコ様、原付とは何でしょうか?」
彼女は、原付きバイクがどのようなものか知らないのか。
私達の移動手段も教えてなかったし、見せてもいない。
移動手段確保のためにも、アンナには一人で原付きバイクを乗れるようになって貰う必用がある。
最初は、自転車から乗って貰って感覚を掴んで貰おう。
自転車に乗れたら、原付きバイクに挑戦して貰うのが良いだろう。
「原付は、こちらの世界での乗り物の一つだよ。アンナには、まずは自転車で慣れて貰う。自転車に慣れたら、原付免許の取得をしてね。後は、サイエスで乗り方のコツとか覚えて、王都へ移動。OK?」
「あ、はい。その自転車と原付なる乗り物は、何かスキルが必要でしょうか? 後、私のことはアンナと呼び捨てて下さい。」
「スキルは必要ないよ。コツさえ掴めば、誰でも乗れるし。原付は、免許を取得しないと公道を走ることが出来ないから、違いは免許があるか無いかくらいじゃないかな。買い物行った時に、窓から見えてたと思うけど。覚えてない? アンナさ……んっ、アンナは、頭が良いから直ぐにコツを覚えると思うよ」
なんて、楽観的な事を思った時期もありました。
アンナが、超が付くほどの運動音痴だとは思わなかった。
盲点だったよ!
自転車で、早々に躓いた。
補助輪付けてもコケるって、ある意味天才かもしれない。
「アンナは、私の後ろに乗って貰おう」
「……済みません」
「まあ、誰にでも得手・不得手があるから気にしなくて良いよ」
元々このパーティは、私以外は極振りの縛りプレイな奴らばかりだ。
オールラウンダー型は、言い換えれば器用貧乏だからね。
アンナには、チームのブレインになって貰えればいい。
運ぶのは、私か容子がすれば良いだけだ。
サイエスなら、ニケツしても違反切符切られることはないしな!
「準備したらサイエスに行くぞぉ!」
拡張空間ホームのフォルダに鍵を付けようと思ったけど、熟練レベルが足りず付けられなかった。
カルテットは、私の私物に手を出すことはないと思うけど。
早く熟練度を上げて鍵付きに出来るようにしたい。