５４．私、怒ってます
ちょっとでも素材使用許可を出したのが悪かった。
今更ながら後悔している。
主にカルテットが作り出すアイテムが、凶悪過ぎたのだ。
彼らが作る物は、色々な意味で破格でチート過ぎるアイテムだ。
しかも、それを知らずに容子が商業ギルドに売り払っていた。
思わず頭を抱えて「ガッデム！」と心の底から叫び、容子に八つ当たりした私は悪くない!!
市場に出すには、恐ろしいチートアイテム。
鑑定すると残念な説明文が、ずらずらと書き連ねて人の神経を逆撫でしてくる仕様だ。
名前は、アホでも無限に使える神聖魔法の杖だったかな？
馬鹿かアホが頭についていた杖を買う商業ギルドも商業ギルドだ。
はぁ……、商業ギルドに顔を出すのも憂鬱だ。
ただでさえ、約三千匹のゴブリンを殲滅した報告を冒険者ギルドにしなければならないというのに。
余計なことをしやがって。
容子には、暫くアイテム作りをして貰おう。
私は、腹を括って準備万端にしてサイエスへと戻った。
冒険者ギルドにやってきました。
ゴブリン襲撃の件を報告したら、ダリエラが態々出迎えてくれた。
「詳しい話が聞きたい。私の執務室で話を聞かせて貰えないか」
決定事項のような言い方に、カチンときたが報・連・相は大切だ。
仕方がないので、私はその言葉に素直に従った。
「構いませんが、この後商業ギルドに用事があります。時間は、そんなに割けませんよ」
「……分かった」
何だこの間は。
始まりの町といい、同じ冒険者ギルドでもギルマス同士は争っているのだろうか？
ダリエラの様子を見る限りでは、仲が良好とは思えない。
まあ、私には関係ないのでどうでも良いけどね！
ダリエラの後をついて行き、執務室に通される。
秘書らしき人が、人払いをさせた後に切り出された。
「ゴブリン襲撃の情報は、セブールには届いていなかった」
「言い訳は結構です。大体、見かけたら殲滅するのが、常識では？ 少なくとも私は、そう思っています」
ゴブリンは、煮ても焼いても食えぬ魔石もショボイ。
冒険者にとって、少ない経験値くらいしか旨みのないモンスターだ。
しかし、繁殖力はゴキブリ並に強い。
見かけたら殺すが、始まりの町では暗黙の了解だったのだが、セブールでは違ったようだ。
「それは、始まりの町で言われたことか？ 冒険者は、自由だ。自由故に、強制は出来ない。セブールでは、そう教えている」
成程、上手い責任逃れだ。
やはり、ダリエラは上に立つ資格が無い。
「ふーん。まあ、その話は今は良いでしょう。ゴブリンが、増えた経緯について何か掴んでなかったんですか？」
「隣領で強いモンスターが現れ、高ランクの冒険者が対応に当たった。推測にはなるが、居場所をなくしたモンスターの中にゴブリンも混じっていたのだろう。セブールに流れ着いて、集落を作ったのだろう」
話の筋は、一応通っている。
住処を追われたモンスターが、セブールに流れ着く可能性は高い。
縄張り争いで勝って、進化したと考えればゴブリンキングが誕生してもおかしくはない。
「集落を発見したなら、討伐部隊を編成して殲滅しなかったんですか？」
「ゴブリンの集落が出来たと報告が上がったが、予想よりも数が多かったのだ。Ｄランク以上の冒険者に依頼を出していたが、受ける者がいなかった」
通常討伐クエストとして、依頼を出していたなら危機感が無さすぎる。
「……討伐が無理でも、事前に調査するくらいなら出来ましたよね？」
「言われなくとも、調査はした。調査で派遣した先遣隊の冒険者は、一人を残して全滅。逃げ延びた者からの報告では、異様な強さを持つゴブリンが居たそうだ。急遽、Ａランク冒険者にクエストを発注した。しかし、受付がＣランクで誤発注していた。マサコ殿が、一人で討伐してくれた」
容子とカルテットが、ゴブリンの集落を襲撃していなかったら第二のゴブリンキングが誕生していた可能性があったということか。
何とも頭の痛い話である。
苦虫を噛み潰したような顔をしている私に、ダリエラは焦ったように言い訳を並べた。
「勿論、直ぐにＡランク冒険者を遣した。しかし、討伐後だったと報告が上がっている。こちらの不手際で申し訳ない」
深く頭を下げるダリエラに、私は思わず鼻で嗤ってしまった。
色んな意味で、この人は無い。
これなら、始まりの町にいたおっさんの方がマシである。
「不祥事に次ぐ不手際ですか。今回の件は、貴女の謝罪でどうにかなるものでは無いと思いますけど？ 確か、王都に本部が置かれてましたよね。そこに報告させて貰います」
私や容子が、ゴブリンを掃討しなかったら被害は拡大しただろう。
セブールだけでなく、他の町や村も全滅した可能性は高い。
ポーションと身代わり人形があったからこそ、今の私は五体満足で生きていられる。
地方のギルドマスターごときの謝罪で、チャラになると思うなよ！
こっちは、家族を危険に晒されたのだ。
許す気は、更々ない。
「それはっ！……いや、何でもない」
「それは困ると、言いたいんですか？ ダリエラさん、貴女にギルドマスターは勤まらない。冒険者に対する不当な対応、杜撰な仕事をする職員を放置。更に隠蔽工作とは、もうガッカリです。ギルドマスターを名乗る資格はありませんよ。妹は、たまたま私の従魔が傍にいたから難を逃れただけです。私は、約三千匹のゴブリン討伐をしました。ゴブリンキングが、セブールを目指し進行していたのは御存じでしたか？ ゴブリンは弱いですが、進化されれば厄介この上ない存在になります。今回はね。偶々、運が良かったんですよ。最弱のモンスターでも、最強で凶悪なモンスターになる事くらいは、ダリエラさんなら分かっていたのではありませんか？ ゴブリンの動向を知らなかったで済ませるには、貴方の発言は無責任だ」
私は、ダリエラの前にギルドカードを投げつけた。
ギルドカードを魔法具に翳せば、何を討伐したか分かる。
「私の言葉が信じられないなら、どうぞ調べて下さい」
ニッコリと冷ややかな笑みを添えて言うと、ダリエラはカードを拾い魔法具に乗せ討伐情報を確認した。
数分の沈黙の後、
「……本当に三千匹の数を相手にしていたのだな」
と宣った。
そこで労いの言葉が出れば、まだ心象は良かったのだが、無いということは私を随分と下に見ているようだ。
「私は、商人ですから。嘘は吐きません。冒険者は、勝手に寄ってくる魔物を倒す副産物です」
「今回の件は、私から本部に報告をする」
沈痛な面持ちでそう語るダリエラに、一刀両断で切る。
「私、貴女の事を全然・まったく・これっぽっちも信用してません。この件は、自分の口で報告します。捏造や抽象的な報告されては、元もこうもないですしね」
「そんな……」
ショックだと云わんばかりの顔を見ても、何の感慨もない。
ぶっちゃけ他人なんてどうでもいい存在としか認識してない。
だが、ダリエラみたいな相手は嫌いだ。
嫌悪感しか沸かない。
「ゴブリン軍殲滅の報告は済ませましたので、これで失礼します」
「ちょっと待ってくれ!!」
「話すことはありません」
引きとめようとするダリエラを無視して、そのまま部屋を出た。
ここの冒険者ギルドで化粧品を下ろすのは止めだ。
容子にも、セブールを出発して王都へ向かうと話さなければ。
その頃、容子も同じようにＡランクの冒険者達に絡まれていたと知ったのは少ししてからだった。
