５２．息抜きのため逃亡した先でゴブリン襲撃されました
契約カルテットをギチギチに絞り上げ、鬱憤が溜まった私は現在サイエスに逃亡している。
建て前は、商業ギルドと正式に委託販売契約をするためになっている。
勿論、ちゃんと成約してきましたとも。
しかし、仕事のストレスとは溜まるもので、時には発散させなければならない。
身体も動かせて、レベルもスキルも上がるモンスター狩りをしている。
エリアボスクラスの連中と遭遇する率が、尋常じゃない。
リポップ仕様は壊れたのかと邪神に苦情を申し立てたいくらいだ。
これも一重に、悪運様のお陰なんだろうね。
何だかんだいって、絶対死なない。
怪我はするが、ヒールやポーションで治る程度だ。
加護と悪運に助けられていると思うのは、間違っていないと思う。
気晴らしも出来たし、そろそろ帰ろうかと思っていたら想定外の状況に陥った。
セブール近辺で連携を取るゴブリンを見かけるのはおかしいと感じていたが、索敵に引っかかったゴブリンだけでも優に３００体は越えている。
「この状況、凄く不味いかも？」
３００体のゴブリンが、軍隊の様に足並みを揃えてセブールに向かってきている。
最悪の想定も考えて、私はポイントを支払いスキル望遠と射撃補助の自動装填を取得した。
レベルは１だが、索敵で引っかからなかった先まで視える。
「……詰んだ」
鑑定すると神輿に乗っているのがゴブリンキングで、担いでいるのはホブゴブリンのようだ。
レベル差が、２０以上と絶望的なシチュエーションである。
ゴブリンキング率いるゴブリン勢は、推定三千匹。
このまま日本に逃げ帰る手もあるが、そしたらセブールの街は確実にゴブリンに襲われる。
折角、基礎化粧品セットの販路を確立したのに手放すのは勿体ない。
しかし、今からセブールに戻っても
と遭遇した時は、流石に死を覚悟した。
ゴブリンの遠征とか無いわぁ。
見つけたら討伐しとけよ、冒険者。
１匹１匹は弱いけれど、軍勢になると１人では無理。レイド戦になり、それもフルレイドで戦って勝てるかどうかなのだが……。
化粧品と同様に薬師ギルドで強制労働させられて作りまくったポーションを煽り、複合魔法で数を減らし、ＨＫ４１６Ｃカスタムとテーザー銃で撃ち漏らしたゴブリンの息の根を止めに掛かる。
モンスターは、進化すればするほど強くなる。
ゴブリンナイト、ゴブリンウィザード、ゴブリンビショップまで進化しているとＨＫ４１６Ｃカスタムやテーザー銃では通用しない。
魔法攻撃で先手を取る必要がある。
その為、魔法もより強力なものになった。
元々複合魔法で温風を出したり、熱湯を作ったりしていた。
魔力を上乗せするだけで、凶悪な魔法へと変貌する。
逃げられないように広範囲の土壁で、ゴブリン軍勢を囲み討ち漏らししないように工夫した。
風と火の魔法を掛け併せて温風を出していたが、魔力を上乗せしただけで業火に発展し森を焼け野原にする。
術式は単純だが、魔力切れが起るまで注ぎ込んだ魔法を立て続けにぶっ放したのだ。
頭が痛いし、気持ち悪い。
ＭＰポーション中を飲みまくって、魔力を回復させる。
土壁は、業火を撃ち込んだことで外壁がボロボロと崩れ、熱気が私の身体を包み込む。
見晴らしも良くなった事で、ゴブリンの数は大分減ったとはいえ、それでも二十匹は残っている。
ゴブリンキングは多少ダメージは負っているが、望遠で視る限り自動回復を取得しているようだ。
「頼りの綱であるＭＰポーションが、心許ない。しかも、飲みまくったせいでトイレに行きたい！」
左手はＭＰポーションが標準装備で、時々ＨＰポーションに変わる。
右手は、ＨＫ４１６Ｃカスタムから出刃包丁に切り替えた。
ゴブリンが一気に押し寄せるというよりは、統率が取れた動きでゴブリンウィザードが魔法で動きを牽制しつつ、ゴブリンナイトが物理攻撃を仕掛けてくる。
怪我を負ったら、即座にゴブリンビショップが回復させるのだから溜まったものではない。
「ゴブリン討伐のクエストが無かった時点で気付くべきだった！」
意図的に隠されていたのか、それとも邪神の遊戯なのかは分からないが、本当に迷惑!!
遭遇した瞬間に、ロックオンされるんだもの。
私一人くらい放置すれば良いのに、出会いがしらに襲い掛かられるって何この糞仕様！
全体魔法攻撃で応戦しながら、近接戦では出刃包丁で致命傷を避けつつ、切り抜ける。
途中でおしっこ漏らしましたよ！
我慢できなかったんだもん。
ＭＰ・ＨＰポーションも切れたところで、ゴブリンキング一体まで追い込んだ。
ＭＰ・ＨＰ自動回復のスキルを上げておけば良かったと今更ながらに後悔する。
攻撃を受けながら包丁と漂白剤で応戦する。
後一撃食らったら死ぬと思った瞬間、頭に一撃入り確実に一回は死んだ。
身代わり人形が即死を引き受けてくれてなければ。
距離を取り魔物除け薬（極）をぶつけてみたが、顔を顰める程度で効果は今一だ。
「これでも喰らえ！」
だったらと、ネタで購入した世界一臭い食べ物の缶をゴブリンキング目掛けて開ける。
この世のものと思えぬ異臭に、ゴブリンキングはその場で嘔吐した。
動きが鈍ったゴブリンキングの首を一刀両断し、私はその場で嘔吐した。
息を止めていても、悪臭が目と鼻を犯してくる。
シュールストレミングの液がついたドロップアイテムを拾いながら、私はその場に気絶するようにバタリと倒れた。
目を覚ますと、日が暮れて辺りは暗くなっていた。
鼻が麻痺したのか、臭いが我慢できないほどではない。
「何とか全滅させることが出来たけど、シュールストレミングが無かったらご臨終していたわ。身代わり人形買っていて良かった。始まりの町に戻った時に買い溜めしよう」
身代わり人形が、本当に効果があるとは思わなかった。
体力３０％の状態で生還できるなら金貨１枚は安い買い物だ。
痛みで動きが鈍るが、戦える状態であることが分かったのは怪我の功名だろう。
身代わり人形が金貨１枚で高いとかほざいて御免なさい。
あの店員さんが居なかったら、私確実に死んでいたよ。
満身創痍だが、生き残った。
ゴブリンの屍は素材アイテム・魔石・お金へと変わり、あちらこちらに点在して転がっている。
ゴブリンキングだけは、心臓と魔石、ゴブリンキングの剣と鎧が残っていた。
約三千匹分のドロップ品を回収だけで、丸一日使った。
容子には、メールでサイエスに泊るとだけ連絡して戦利品の回収に勤しんだ。
魔物除け薬（極）とシュールストレミングの匂いを風魔法で拡散したので、私に近付く魔物は居なかった。
広範囲に及ぶので索敵と鑑定をフル活用して、価値のあるものだけ回収したが、割に合わない結果となった。
所詮、ゴブリンだ。
魔石を落とす進化済のモンスターも少ない。
素材もこん棒か極小の魔石しか落とさないので、経験値は美味しいが懐には優しくない結果となった。
こん棒×５８２１個
黄色の魔石（極小）×１０２２個
黄色の魔石（小）×１２３個
黄色の魔石（中）×８９個
黄色の魔石（大）×２６個
黄色の魔石（極大）×１個
ゴブリン王の王冠×１個
ゴブリン王の剣×１個
ゴブリン王の鎧×１個
金貨１３２１枚
銀貨２９８１枚
銅貨１００３１枚
青銅貨９８７５００枚
三千弱倒したのに、日本円で総額１７，２８１，６００円だ。
一匹当たり５７６０円也。糞がっ！
素材としての収穫はしょぼいし、ドロップしたお金もかなりしょぼい。
取り敢えず、魔石は換金してお金に変えよう。
