50.広告は派手にやろう
予算30万円の中古ミシンを買う予定が、工場用ミシンが欲しいと駄々をこねられて、100万円弱するミシンを購入させられた。
腹いせに、宥子にはネズミの国で購入した商品の複製を100個作るように命じた。
半分嫌がらせだが、半分は本気でサイエスに売りに出す予定だ。
地球でコピー品を売ったら逮捕されるが、異世界で売買するのは関係ないもんね!
私は、クリマのサイト作りに専念した。
外注しても良かったのだが、元手が殆ど無いので本を読みながら自作するしかない。
必要最低限の作りで、軌道に乗ったら外注でWEBデザインを頼んで作ってもらおう。
サイトが出来上がり、次の一手を打つことにした。
大手検索サイトYapoo! とYour Tubeで広告を出す事にしたのだ。
無い無い尽くしではあるが、広告費をケチると鳴かず飛ばずで終わってしまう。
久世に融資を頼み込んで100万円借りたら、咲弥も200万円現金で貸してくれた。
お金に関してシビアな咲弥が、ド素人の会社に金を出すとは思えず真意を遠回しに聞くと、金の匂いがするからと一言返ってきた。
返済は、会社が軌道に乗ってからで良いと言われ有難く受け取った。
「融資を頼んだ私が言うのもなんだけどさ。成功するか分からないのに、ポンッと大金を出す神経がちょっと怖いわ」
「師匠は兎も角、咲弥さんがお金を出したなら儲かるって判断されたってことだから安心して良いと思うよ。良い商品があっても、それをどうやって宣伝するか理解していなかったら融資なんてして貰えないよ。外注した広告の出来は良いし、Yapoo! やYour tubeに広告を大々的にする案は悪くないと判断されたんじゃない?」
「ただの心理トリックだよ。実際に自分のBefore・Afterの動画を載せた上に、初回お試しパックを無料で奉仕するんだから。ここまで身銭切って頑張っているんだもん。売れないと泣く」
「初回無料ってことは、自動的に定期コースに変更されるの?」
「いや、それはしない。正真正銘のお試しだからね。自動で定期コースに移行したり、途中解約は違約金発生しますとか嫌じゃん。クレーム面倒臭いし。それに、私の身体は一つしかないの。作れる個数も限られてくるっての」
損して得取れという諺がある。
品質は、折り紙付きなのだ。
肌のターンオーバーは、約28日とされている。
三週間分の量を化粧水・乳液・洗顔石鹸・クレンジングバームのセットを無料で配る。
広告には先着1000名までと謳っているが、実際どれくらい応募があるか分からないし。
そこからリピーターが生まれるか、ぶっちゃけ未知数だ。
サイトは単品購入も可能にしてあるが、セット品は送料無料や一割引きされてお得になっている。
需要がある物と少ない物の振り分けも、モニタリングで出来るだろう。
「WEB申し込みオンリーにするの?」
「はがき・FAX・電話からでも申し込みは可能だよ。それ専用の回線と電話番号の手配は済んでる。テレビCMが無い分、SNSでの広告がどこまで影響力が出るか分からないけど。一先ずは、柚木さんが電話番してくれる事になってる。人手が必要なら、バイト雇って良いとも言ってあるし」
フリーダイヤルに掛かった電話は、今のところ柚木の携帯へ直転送されるように設定している。
反響が、大きいようなら転送を解除してバイトを雇う予定だ。
「あっちとこっちを私は、行き来しなくちゃならないからね。容子は、基本的にこっちに残って梱包と発送作業をするんだよ。後、電話以外の申し込み分に関しての処理は容子の仕事だからね」
「私の負担が、大きくない?」
容子は、心底嫌そうな顔になった。
そんなに労働が、嫌ですか? そうですか。
「会社が軌道に乗るまでは、私もお前も休みは無いんだよ。借金してんだから、馬車馬の如く働け」
「鬼畜! 鬼! 悪魔!!」
「睡眠時間以外ずっと働かせんぞ、ゴルゥァア!」
ギャーギャー喚く容子を一喝すると、チッと舌打ちしやがった。
「広告が流れるのは、明後日からなんだ。腹括って仕事しろ。反響が無ければ倒産して負債を負うんだよ。死ぬ物狂いで働け。出来ている分は、梱包して箱詰めすれば多少は余裕ができるでしょう」
「私一人だけじゃ無理だよ」
「私は、別の仕事があるから手伝えないからね」
「そんな~」
シクシクと泣く容子を放置して、私は自分の仕事に取り掛かった。
大々的な広告は、大当たりだった。
『限定』『無料』『縛りなし』などのワードが良かったのか、お試しで申し込みしてくれる人が多くて目まぐるしく働いている。
この三週間が勝負所である。
容子は梱包と発送を担当し、柚木は電話を担当、私は電話と宛名作りを担当した。
顧客データは、マクロを組んで一括管理している。
追々、専用のソフトを作って管理する予定だが、今は予算が無いのでオフラインのパソコンに顧客情報を入力し対応している。
情報漏洩しないように、仕事部屋として使う部屋は鍵を新しく取り付けた。
荷物は、玄関横に新たに設置した鍵付きボックスに入れる事を徹底した。
Wi-Hi不要・録画機能有りのペットカメラも取り付けたので、顧客情報を持ち出すことは出来ないだろう。
部屋の中に持ち込めるのは、ペットボトルの飲み物くらいである。
ホームページの閲覧ができるように、ネット接続されたタブレット端末も置いてある。
商品説明は、原則ホームページを確認して説明をして貰う。
トークフローが書かれた物をクリアケースに入れて渡しておいた。
クレームに関しては、全部折り返し対応にして貰い私が巻き取る形を取っている。
二人では捌き切れなくなった頃を見計らってか、咲弥から人手は足りているかと連絡があり二つ返事で回して貰うことになった。
篁昴と篁静の姉弟が、臨時バイトとして派遣された。
この二人のお陰で、最初の三週間を何とか凌ぎ切ることが出来た。
先着1000名様の謳い文句は、文字通り達成し私は次なる作戦に打って出る事にした。