49.起業&ネズミの国の旅
自宅へ戻ってきました。
ネズミの国に行く前にやる事がある。
それは、起業です。
容子が夕飯の準備をしている間に、私はどんな商売をするか考えた。
サイエス産の珍しい物を持ち込んでも、ほぼ売れないだろう。
「容子、こっちで商売をするなら何が売れると思う?」
「宥子の作った基礎化粧品だろうね。輸入雑貨ショップを開いて、サイエスで仕入れた物を売るのもありだと思うけど。利益は多くないと思う。道楽でやるなら止めないよ」
「だよね。でも、補助や加護がついた装備品は売れそうじゃない? 後、効果があるか分からないけど身代わり人形とか」
「咲弥さんが言っていた珍しい物って、もしかするとそれの事かも。一応、聞いておくよ」
「お願い。基礎化粧品を販売するとして、総括製造販売責任者・責任技術者・品質管理責任者を雇わないとダメだね」
「何で?」
「化粧品製造販売業許可、化粧品製造業許可が必要だからだよ。とはいえ、席だけ置いてくれる人どこかにいないかなぁ……」
ボソッと呟いた言葉に、容子はニンマリとした笑みを浮かべて言った。
「咲弥さんに頼めば、人を回してくれると思うよ。色んな人に顔が利くし、利になると思ったら投資すると思う」
確かに、大金が動くなら喜んで人を寄こしてくれるだろう。
「メールの返信に、化粧品会社の相談も盛り込んどいて」
「了解」
ご飯を食べ終え、食器を片付けていると咲弥からの返信があった。
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件名:条件に合う人がいます。
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咲弥です。
身代わり人形一体と交換で要望の人材を送ります。
企業したら連絡下さい。
化粧品製造販売業許可・化粧品製造業許可の手続き
などの雑務は、その者に任せれば問題ありません。
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仕事が早い。
身代わり人形一体と交換で、派遣される子が不憫だ。
給与や待遇について何も言ってこないのが引っかかるが、まずは会社起こしからだ。
オンラインショップかつ、受注生産販売オンリーで会社を立ち上げることにした。
起業するにあたり、手続きが面倒臭かった。
丸投げすれば簡単なんだけど、そんなお金はないからね。
WEBサイトをフル活用して、起業の仕方を学びました。
無事に『株式会社Crema』を設立。
勤務地は、自宅です。
実際に作っている場所とかは、拡張空間ホーム内だけどね。
咲弥さんが派遣した人こと柚木さんを迎えて、書類揃えたり届出を提出したりするのに、なんやかんや時間が掛った。
その間、容子にはアクセサリーと化粧品水などを入れるボトル作りをさせた。
ヒーヒー言ってたけど知らね。
柚木さんに話すかどうか迷ったが、隠したところで咲弥さんにはバレていそうなので正直に今までのことを話した。
最初は信じられないと言った顔をされたが、実際に見せれば押し黙った。
「自分は何も見ていない。何も聞いていない」
とブツブツ呟いていた。
時間が経つにつれて開き直ったのか、今では順応して働いている。
そして、漸く念願のネズミの国へ行くことが出来た!
名目は、社員旅行である。
長かったよ。
「ネズミーだ!! ちょっとサインして貰って来る」
ネズミーを見つけた容子は、サインペンとスケッチブックを持って突撃している。
いい年したおばさんが、キャーキャー言いながらネズミーにチューする写真とか引くわぁ。
蛇達はペットショップに預ける予定だったのに、二匹の強固な抵抗にあい、仕方なく私のショルダーバッグの中に入っている。
持ち物チェックの時は、バッグの裏底に蛇達が隠れてたので見つからなかった。
本当、生きた心地がしなかったよ!
因みにサクラと楽白は、容子のフードの中に入っている。
柚木は、本業があるからと来なかった。
サクラ達酔わないと良いんだけど、大丈夫かな?
「気持ち悪いな、お前……」
「良いじゃん。此処は、夢の国だ。童心に返って何が悪い。ひたすら瓶を作る日々を過ごした私に対して、もっと労え」
「それを言うなら、会社設立の為に方々駆けずり回った私と柚木さんを一番に労えよ」
「ううっ……ありがとう。お疲れ様です。これで良い?」
最後の一言は、余計だと何故気付かない。
「容子、その態度を柚木さんの前で絶対にしないでね。本当に失礼だから」
「するわけないじゃん。柚木さんには、ちゃんと別でお礼を用意してあるから大丈夫。ところで、何で急にネズミの国に来たのさ?」
おいぃ、自分で言っておいてそれかい!?
発言に責任持てよ。
「容子が、行きたいって言ったから連れてきたんですけど。文句あるなら帰ろうか?」
別に私は帰っても良い。
ネズミの国は好きだけど、主に買い物とパレードしか興味ない。
不味い飯を食って、スーベニアを手に入れるくらいしか用はないのだ。
来たいって言った本人が不服なら、このまま直行で買えれば良いだけだしね。
「ごめんなさい。嫌です。帰りたくないです。スーベニア全制覇したい!」
帰ろうとした私の腕を掴み、引き摺るようにネズミの国へと連行された。
流石、夢の国ネズミの国!
人が、ゴミのようだ。
姉ちゃん、早速人酔いしたわ。
座りたい。
ボソッと念話で紅白が、
<わいは、酒が飲めるネズミの国シーの方に先に行きたかったわぁ>
と言い放った。
<サクラは、美味しいデザートぉ食べた~ぃ>
サクラが、容子のフードの中で高速フルフルしてる。
赤白は、
<パンフレットで見たスーベニアランチが食いたいわ>
と言いたい放題。
君、一番パンプレットをを見てたもんね。
契約カルテットは、元気過ぎる。
五月蠅いので、一喝したら反撃された。
<こら! 念話しないの! 各自大人しくする!>
<ケチ!>
<いけず>
<行かず後家>
最後は、明らかに悪口である。
楽白が、ちらりとフードから顔を覗かせている。
出て来ようとした楽白を容子が手でフードの奥へ押しやっている。
ナイスファインプレイ!
でも、行かず後家は否定してくれないのね。
ちょっとくらい庇ってくれても良いんじゃね?
ここは誰がご主人様か知らしめる意味でもビシッと言うことにした。
<お前らは、飲み食いさせません!>
<契約カルテットは、静かにしようね。宥子は、傍から見てバッグにメンチ切ってる変人に間違われるよ。今日は、パレードとご飯を満喫して買い物して帰るんだから!>
<場所取りは、誰がすんの?>
パレードは見たいが、場所取りは御免だ。
<今日くらいは、私がしてあげるよ>
と珍しく容子が引き受けてくれた。
裏で何かありそう、と思ったが口に出すまい。
「パレードの場所取りしている間は、私は買い物しているわ」
「OK牧場。今期のコラボ商品は、必ずゲットしてきてね」
軍資金が入った財布と買い物するリストを手渡された。
これ、体よくお使いを頼まれてないか?
「了解。まずは、スーベニア集めする? 食事するなら、穴場スポットでご飯食べれるよ」
元年パス所持者だった容子の言葉に、へーと関心する。
ネズミの国は好きだけど、容子みたいに毎週通うわけではない。
精々年に一、二回通う程度だ。
穴場やフォトスポットなどは、容子が色々と知っているみたいなのでお任せしよう。
「分かった。まずは、スーベニア巡りして時間が余ったら二手に別れよう」
「同時進行でも構わないけど。拡張空間ホームに仕舞えば、いつでも取り出して食べられるし」
容子の言葉に、それもそうかと納得し、パーク入り口付近のショップから順番に回って大人買いに走った。
途中、持ちきれなくなった買い物袋をトイレで拡張空間ホームに収納しては、買い物を再開するを繰り返す。
散財って本当に楽しいね!
その時しか買えない限定グッズを見ると、つい購入してしまう。
その後にパーク内にあるショップを回り、グッズとスーベニア収集をした。
そして、私達は容子オススメの穴場へと向かった。
「あれだけの人がいっぱいいたのに。此処だと全く居ないね」
「だから、穴場なんだよ! おーいサクラちゃん、楽白ちゃん、出てきて良いよ」
容子は、そう言いながら二匹をフードの中から出した。
容子の声を合図に、赤白と紅白もショルダーバッグの中からスルスルと出てきている。
「ちょっ、勝手に出てきたらダメでしょう!」
と焦る私。
蛇達を連れてきたなんてキャストに知られたら大問題だ。
「バレないって。幽霊が出る不人気の場所だから、殆ど人が来ないもん」
人が居ない理由に、私は脱力した。
「幽霊が出るだけで、人が寄り付かないって夢の国の闇を見せられた気分だわ」
「幽霊なんてどこにでも存在しているのにね。人の噂って怖いね。ここ、呪われたスポットらしいよ」
「胡散臭せぇ」
思わず零れた言葉に、容子はハハハと笑いだした。
「異世界行き来してる私らは、存在自体が胡散臭いって! 幽霊はいるけど、噂の一人歩きで呪えるほど強くはないから放置で良いんじゃない? 溶ける物もあるから食べようよ」
「「頂きます」」
拡張空間ホームから取り出した、ハンバーガーに齧り付いた。
相変わらず、味が微妙である。
モッモッと何とも言えない顔で、ハンバーガーを咀嚼していると、カルテットは出された食事に群がっている。
<<<頂きまーす>>>
カルテットは、食事開始の合図と共に争奪戦になった。
蛇達は、身体に似合わずにドンドンとご飯を丸呑みしている。
サクラと楽白は、雑食モンスターなのでモリモリ食べている。
最近では、私にこっそり何かしら食べているので食事管理が出来ていない。
食事管理が出来ないのは、死活問題だ。
それ以上に食費が掛かって頭を抱えている。
収入も増えたが出費も増えたので、±0と云ったところだろうか。
「そういえば、私が買い物してた時に宥子は何をしていたのさ?」
「ん? 私は、店内をビデオに撮ってただけだよ」
サイエスで店を構える時に、参考になるかと思い撮影していただけのことだ。
「ちゃんと容子が作るサンプルは、自腹で購入したから安心して!」
グッと親指を立ててドヤ顔で決めると、
「いやいや、何で私が???」
と嫌そうな顔をしている。
私が、タダでお土産買わせるわけないでしょう。
あれらは、全部サンプルです。
サイエスでコピー品を売り捌くための、サンプルなのですよ!
どこぞのC国と同じことしてるけど、気にしない。
サイエスにネズミの国はないもん。
地球の著作権とか関係ないしね。
「サイエスは、可愛い雑貨やキャラクターグッズなんてないじゃん。お洒落も低いし、安価で可愛くてお洒落な雑貨を流通させたいだけだよ。ターゲットは、幅広い女性に絞ってある。小物や装飾品は、容子が担当なんだから! その技術を惜しみなく使って貰うよ」
下僕は下僕らしく働けとは、口が裂けても言えない。
「幾らスキル取得してるといっても、再現出来るかまでは分からないよ? 私だって裁縫が得意って訳じゃないし。それに手縫いとか無理。ミシンと同じものが、向こうにあれば話は別だけど……」
家庭用ミシンで、モンスターの素材を加工できないと抵抗する妹に、私はとびっきり良い笑顔で答える。
「大丈夫、業務用の本格的なミシン買ってあげるから!」
「中古で30万円からだよ。本当に買うの?」
「先行投資は惜しまんよ。向こうで容子の下に従業員が付けることが出来たら、その時は足踏みミシンでも買ってやるよ。生産ギルドで足踏みミシンの特許を出願すれば、特許料が発生して懐も温まるし」
私の言葉に、容子はウヘェと顔を歪ませた。
「宥子、針子から恨まれるぞ」
「便利でスピーディーに仕事ができるんだから、寧ろ喜ばれるよ!」
「あまり向こうで技術を横流ししないようにね。面倒臭いことになるから」
容子の忠告をこの時の私は、ハイハイと適当にスルーしていた。
それが、後々大問題を引き起こすとは、この時予想もしていなかった。