47.咲弥さんから取引を持ち掛けられました
冒険者ギルドを出て宿に戻り部屋に入った瞬間、容子のスマートフォンが鳴った。
『オギャー!オギャー!』と不気味な鳴き声が、スマートフォンから聞こえてくる。
鬼灯のなんちゃらっというアニメに出て来る金魚草の泣き声を着信音に設定するのは止めて欲しい。
「いつも思うんだけど。着信音のセンスが無いね。お金払ってまで、変な着信音をダウンロードする必要なくない? サクラ達が、ガチで引いてるぞ」
キモイの一言に尽きるその着信音に、私含めてサクラ達も完全にドン引きである。
容子は、ショックですと言わんばかりの顔をしているが、十人中九人は悪趣味だと断言するだろう。
夜中に着信音が鳴り響いたら、怖くてトイレに行けない。
「そんなに酷い? インパクトある着信音だし、一発で誰からメール来たか分かる代物だもん。咲弥さん以外からのメールは、至って普通だから問題ないでしょう」
確かにインパクトはある。
でも、物には限度ってものがあるでしょう。
シレッと返す容子に、私は遠い目になった。
本人が知ったら、機嫌が直るまでお使いを割り振りされそうだ。
「一応、容子も生物学上はいい歳した女なんだよ。この際、アニソンで良いから着メロを変更しなさいよ」
「折角、DLしたんだよ。DL代が勿体無い。いつ使うの! 今でしょ?」
と返された。
キモイ着信音にお金払う奴がいるのが不思議だよ。
道理でDLされた時の携帯料金が、異様に高いと思ったわけだわ。
「何がDL代だ。こんなキモイ着信音チャンジっ!!!」
無理矢理スマートフォンを取り上げて、着信を変更しようと思ったら、生意気にもロックしてやがる。
どうせ暗証番号は、生年月日である事は分かり切っている。
容子の暗証番号を入力して、ロック解除成功。
やっぱり、コイツは進歩してねぇ。
他のパスワードも同じだろうと当たりを付けておいて良かったわ。
私は手早く着信音を変更して、ニヤニヤと笑いながら容子にスマートフォンを返した。
「凄く下世話な顔をしているけど、何を設定したの?」
「世にも奇妙なストーリーのテーマソング」
しらっと言い切った私に対し、容子は劈くような悲鳴を上げた。
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
と喚くので、思いっきりぶん殴った。
恩情でグーではなくパーで頬を引っ叩いたのは、私なりの優しさである。
「キモイ鳴き声より、そっちの方がまだ曲なんだからマシでしょう。おどろおどろしい旋律が嫌なら、サイレントモードに切り替えな」
「酷い!! 私が、そういうの苦手って知ってる癖に……糞ババア」
「誰が糞ババアだ! それで、咲弥さんは何て??」
容子の暴言に対し、私は彼女のの両頬を摘み、ギリギリと抉るように引き延ばしたり縮めたりしてやる。
「いひゃい! ひゃなせ!!」
バシバシと私の腕を容赦なく叩くので、頬を盛大にムニーンと伸ばしてから手を放した。
さんから連絡が来たって事は、大抵厄介事だろう。
差し出されたスマートフォンを見ると以下の事が書かれていた。
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件名:定価の1.5倍でどうですか?
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咲弥です。
珍しい物を入手されたそうですね。
買い取ります。
そちらの定価より1.5倍でどうですか?
急ぎの案件は、今のところありません。
ゆっくり向こうを満喫して下さい。
良いお返事を待っています。
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文面を見ただけで、ゾワッと鳥肌が立った。
「……容子、サイエスのこと話した?」
「言ってないよ! 言ったら精神科へGOだよ」
普通は、そうなるだろう。
事実、容子も私を精神科に受診させようとしたくらいだし。
その反応が、一般的だと思う。
しかし、文面からして咲弥は私達が地球とサイエスを行き来していることを感づいている。
サイエスとは断定していないが、咲弥さんはこちらの情報を掴んでいそうな雰囲気だ。
「珍しい品ってどれを差しているんだろうね?」
「モンスターの素材なのか、魔石なのか、それとも全く別なのか。迂闊に売り払えないね」
「その辺は、容子が探っておいて。素材は、基本的に売る。魔石は、屑石も全て売るのは保留にするよ」
「了解。癒やしが欲しい。ネズミの国に行きたい……」
そう言いながら嫌がるサクラと楽白を撫で回すのはよしなさい。
嫌われるよ?
「咲弥さんの情報網が怖い。私も気分転換にネズミの国に行って癒されたい」
「宥子、一旦戻ってネズミの国に行かない? 金貨がどれくらいで換金できるか確認したいし」
確かに、金貨が日本でどのくらいの価値になるのかは確認しておきたい。
一度に多く持ち込むと、厄介なことになる。
「換金したとしても、金貨1~2枚にしておきなよ」
価値があるなら、金の延べ棒にして機を見て売るのが良いだろう。
日本でも円を稼ぐ必要がある。
企業する予定だが、具体的な案が纏まっていない。
ネズミの国で息抜きしつつ、今後の展望を考えるべきなのかもしれない。
「了解。ネズミの国に行ってリフレッシュだ!」
「じゃあ、一時間後に帰るから各自準備してね。私は、戻る前に商業ギルドに寄って顔を出して来るわ」
と言い放ち部屋を後にした。