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琴陵姉妹の異世界日記  作者: もっけさん
ハルモニア王国 セブール
49/152

46.金の生る木に認定されました

 基礎化粧品セットを売るために、サイエスにやってきました!

 茣蓙(ござ)を引いて、客引きをしてみたがイマイチ売れない。

 チラッと一瞥するだけで、素通りされてしまう。

 値段が高いのも売れない要因の一つだろうが、やっぱり実績がないのが根本的な原因だと思う。

 そこで、考えました!

 日本の売り方で、やってみようと思います。

 そうテスターを募集するのです!!

 早速、容子(まさこ)達を引き連れて冒険者ギルドに行ってきました。

 今日のお目当ては、綺麗な受付嬢です。

 正直、美人受付嬢の仕事ぶりは何時見ても手抜きなので嫌だ。

 しかし、広告塔にするには持ってこいな人材なんだよねぇ。

「済みません。依頼を出したいのですが、冒険者でも依頼は出せるんですかね?」

 依頼をこなす側が、依頼を出すというのは不思議な感じがする。

 念の為確認をと思い、カウンターで問いかけると、

「お金を払って頂ければ可能です。依頼内容の記載をお願いします」

と粗悪品の紙とペンを渡された。

 これも、いつか地球産の紙とペンに近づけたいものである。

 カリカリカリと内容を書き記し、それを受付嬢へ手渡した。

「依頼内容は……基礎化粧品・石鹸・シャンプー・リンスの1ヵ月使用。その間の感想や肌の状態の確認。報酬はなし。ただし渡した商品は無料で提供とする、ですか」

 何だそりゃって顔をされてますな。

 無償でやれと言われれば、渋い顔をされるのは想定内だ。

「実は、肌や髪にお悩みの方のために研究して作っていたものがありまして。それが完成したので、被験者を募りたいと思っています。私は薬師ギルドにも所属しておりCランクです。実際、使って頂きたいのがこちらです」

 一番ランクの低い基礎化粧品一式(化粧水・乳液・美容液)・石鹸・シャンプー・リンスのセットをカウンターの上に置いた。

「募集人数は10名。被験者は、ギルドの受付嬢であれば年齢は問いません」

 ギルド職員の中でも、受付嬢なら人目に触れることが多い。

 広告塔にするには、ピッタリな人材だ!

「少し触っても良いでしょうか?」

 シンプルなガラス瓶だが、底に容子(まさこ)と透かし彫りされいる。

 コピー品が出回っても、違いますと言い切れる。

 受付嬢は、蓋を開けて臭いを嗅いだり鑑定したりしている。

「もし良ければ、実際に使ってみてはどうでしょう。そちらはサンプルなので、貴女に差し上げます。場所を提供して下されば、使い方をレクチャーします」

 営業スマイルで云うと、少し躊躇った後、彼女は頷いた。

「少々お待ち下さい。別の者と交代します」

 美人さんはフツメン嬢とカウンター業務を交代し、私達は美人さん先頭されてギルドの宿舎区へと移動した。

 移動中に、

「洗顔と洗髪ができる場所がいいですね」

と呟いたところ、美人さんは良い笑顔で浴場に案内してくれた。

「でしたら浴場があるので、そこへ行きましょう」

 浴場は清掃中の札が掛かっていたが、促されるまま中に入った。

 銭湯よりもバリエーションは少ないが、浴槽が二つほどあった。

 掃除しているおばちゃんに、直ぐお湯が使えるか聞くと使えないのこと。

 清掃中にお湯は出ないよね。

 魔法でお湯を作れば、そこはクリアできるだろう。

「では、髪の毛から洗いましょう」

 拡張空間ホームからフードの取り外し可能なポンチョ型の合羽(かっぱ)を着て貰い、簡易の椅子を4つ並べた上で寝て貰う。

 頭だけが、飛び出ている状態だ。

 首には、100円ショップで購入したエア枕を着けてもらっているので問題なし。

 私達も合羽(かっぱ)を羽織、素足になる。

「桶にお湯を張るから、新品の灯油ポンプがあったでしょう。それを使ってお湯を髪にかけて上げて」

「りょ」

 顔に手ぬぐいを掛けてお湯の準備も整った。

 シャワーなんてものはないので、シャワー代わりに灯油ポンプを使ってお湯を組み上げて髪に流す作業をしてもらう。

「じゃあ、掛けますね~」

と返事を聞かずに、容子(まさこ)は灯油ポンプを使って髪の生え際からチョロチョロとお湯を流した。

「なあ、これ効率悪くない?」

「確かに。折りたたみの椅子に桶を載せてみたら? 高さは、後頭部が少し浸かるくらいだから丁度良いと思うだけど」

「OK牧場♪」

 私の指示通り折りたたみ椅子にお湯を張った桶を置いて後頭部が浸かるように微調整している。

 容子(まさこ)に洗髪を任せ、私はお湯作りに専念した。

 ザブザブ手で揉み洗いしているが、この段階でシャンプーは付けてません。

 頭皮マッサージ&汚れを落とし濯ぎが終わると、シャンプーを手に垂らし泡立てて髪に擦りつける。

 しかし、汚れが酷いのか泡立たない!

 洗って濯いでを3回繰り返して、4回目で泡立ちました!

 汚れが凄かったんだね。

 濯ぎ終えた後、軽く髪の水気を飛ばしてリンスを適量取り髪に塗り込んでいる。

 シャンプーだけだと、髪がパサつくのでお勧めはしない。

 保湿は、髪にも必用なのだ。

「キャップ」

「ありがとう」

 リンスが髪に浸透するまで時間がある。

 容子(まさこ)は使い捨てのビニールキャップを彼女の頭に被せ、水滴が垂れないように顔に掛けていた手ぬぐいを首元に巻いる。

「リンスの成分が髪に浸透するまでの間に、基礎化粧品の使い方をお教えしますね!」

 気持ち良かったのか、美人さんの表情がホワッと緩んでいる。

 掴みは上々かな。

「このネットで石鹸を擦ってみて下さい。ふわふわに泡立ちます。それを搾り取って、泡の塊が出来ます。触ってみて下さい」

 真っ白な泡の塊を差し出すと、美人さんは恐る恐る泡に触れて感動したように叫んだ。

「何これ! 凄く弾力がある。しかも、フワフワで良い匂いだわ」

 そりゃ、私の力作ですから。

「顔に万遍なく塗って、人差し指と中指でマッサージするようにくるくる回して洗います。擦っちゃダメですよ! 優しく撫でて下さい。おでこ・鼻・顎は、肌トラブルの多い場所なので念入りに洗って下さいね。毛穴が気になるなら、こちらのブラシで気になる部分を撫でるように洗うと良いですよ。10~30秒ほど洗ったら、冷水で泡を落とします。落とし漏れないように念入りにお願いしますね」

 用意していた氷水の入った桶から氷を取り除き、冷水で泡を洗い流してもらう。

 三桶くらい使い、泡は綺麗に落ちました。

「この布で軽く水滴をふき取るようにして下さい。ゴシゴシ擦ると皴の元になりますからね」

 私の言葉におっかなびっくりした様子で水をふき取る美人さん。

 肌に透明感が増しました。

 品質は普通と出たが、肌がワントーン上がるくらいの良品だとは思わなかった。

 極を使えば、もっと肌が若返りそうだ。

「最初に一番大きな瓶を手に取って、金貨くらいの大きさを出して顔全体に塗ります。それを三回繰り返します。浸透するように顔を手で覆うように塗ってみて下さい。次に中くらいの瓶をから親指の爪位の大きさを出して、顔全体に塗ります。その時、中指と人差し指を使って洗顔同様にくるくるっとマッサージする要領で肌を撫でるように塗ってください。最後に、一番小さな瓶です。小指の爪位の大きさで結構です。これは、気になる部分……目元や口元などに塗ります。シワやたるみに効果があります。美白効果もありますので、きちんとした手順で使い続ければ白く美しい肌が手に入ります」

 基礎化粧品の一通りの使い方を終えたので、また椅子の上に寝転がって貰う。

 使い捨てにビニールキャップを回収した後、髪をお湯で洗い流した。

 髪を絞って水気を飛ばし、フカフカのタオルで水気を吸い取っていく。

 パンパンと叩くように水気がタオルに移り、最後は軽く拭いて終わりだ。

「じゃあ、乾燥させますね」

 火と風魔法の混合魔法(オリジナルまほう)で温風を作り、水滴を完全に飛ばした。

 その時、容子(まさこ)の顔面に水滴が飛んだのは、勿論態とじゃないよ!

 水滴が飛んだ時、思いっきり睨まれたが気にしない。

 綺麗に乾いたので、椿油がたっぷりしみ込んだ愛用の櫛で髪を梳かす。

 なんて事でしょう。

 綺麗な艶髪に大変身。

 最後に清掃(cleaning)をかけて終了だ。

「如何でしょう? 肌も明るくなり口紅だけでも十分美しいと思いますよ」

 鏡を手渡しうっとりとしている美人さんに、歯に浮くようなセリフをベラベラ喋る。

「これは良いですね。癖になりそうです。洗顔後の肌のつっぱりもないし、あの嫌な臭いもしない。泡立ちも凄く良いです。化粧水・乳液・美容液というものを付けただけで、肌の張りが違います」

 そうだろう、そうだろう。

 それは、私の力作ですから。

 調合スキルと現代科学の力の結集です!

「これを売り出したいのですが、実際効果があると知らしめるために試して頂ける方を募集したいのです。分かって頂けたでしょうか?」

 畳みかけるように話すと、無言でコクコクと頭を縦に激しく振っている。

 うん、効果があり過ぎたみたいだ。

「先程、出来れば受付嬢でと仰ってましたよね?」

「はい、受付して下さる方で女性であれば年齢は問いません」

 美人さんの眼がギラギラ光って怖い。

 なんかこう、蛇に睨まれたカエルになった感じがする。

「お任せ下さい! その受注、この私アイリーン・キャーシーが承りました!! お任せ下さい。必ずやこれらの商品を広めてみせます」

 うぉっ、凄い熱意だ。

 いきなりやる気だしたよ、美人さんもといアイリーンさん。

 いつもこれ位やる気を出してくれると助かるんだけどな。

「あの……その代わり成功した暁には、優先的に新作の試作品を私に回して頂けないでしょうか?」

 そこは女の子として、押さえておきたいポイントだよね。

 一応、渡したのは一ヶ月分だ。

 一度体験してしまったら、沼に嵌って出られない。

 今のアイリーンは、そんな心境だろうか。

 お試しセットが切れた時、絶対買い求めに走ってきそうだ。

「口紅や白粉などの化粧品の開発にも力を入れております。新作が出来たら、是非こちらからお願いしたいと思います。人によって合う合わないがありますので、肌に何かしらの問題が出た場合は、即刻中止をお願いします。被験者は、アイリーンさんが厳選して頂けるという事で間違いありませんか?」

「はい! わたくしが、責任を持って厳選しますのでご安心下さい」

 デカいおっぱいをバンッと叩いて宣言した。

 言質は取った!!

 これから被験者確保は安泰だ。

 ニヤニヤが止まらない。

「では、戻りましょうか」

「先にお戻り頂けますか? わたくしは、化粧をしてから戻ります」

 まあ、すっぴんだしね。

 一応、受付嬢という肩書で仕事している身なら身だしなみは大切だと思うだろう。

「分かりました。先に戻らせて頂きます」

 容子(まさこ)に目くばせして、受付の場所まで戻ることにした。

「鴨がネギを背負って歩いてきたね! これで、化粧品関連の被験者を確保が約束されたってことだ。稼ぐぞー!!」

 私より気合入ってますね。

 まずは一般人用、それが切れた頃に商人用、それが切れた頃に貴族用を提供して反応を見よう。

 同時進行で、各種化粧品の製作に取りかかるか。

 この世界の化粧品は、100円ショップが出来たばかりの粗悪品の頃を思い出す。

 それよりも酷いけど。ファンデーションや口紅も一応あるが質は悪い。

 良いものこそ、それに見合うお金(対価)を払うべきだと私は考えた。

 正直化粧品を作る気はサラサラなかったのだけど、私が作る化粧品は地球で販売した場合でも一定数の顧客獲得は出来るのではないだろうか。

 勿論手作りなので数に限りはあるけれど、補正の掛かった良品は市販の物よりも効果は出やすいと思う。

「私達も使っているけど、昔より肌の調子が良いしね。化粧品も作って、独自のブランドを立ち上げて日本でお金を稼ぐのもありかも……」

 ボソッと何の気無しに呟いた言葉に、容子(まさこ)が反応した。

「おお! 良いねぇ。入れ物は、私がデザインして中身は宥子(ひろこ)が作る。品質は折り紙付きだから受注数が増えるね♪ 作れる数にも限りがあるから、希少性も出てブランド化が一気に進みそう。宥子(ひろこ)がお金の生る木に見えるわぁ」

と、うっとりとした目で私を見ないでくれよ、妹よ。

 私は、金の生る木ではないのだよ。

 お金は好きだけど。貰いたい方なのです。

 増やしたいわけじゃない!

「これから馬車馬のように働いてね!」

「嫌でござる!!!」

「働け」

 胸倉掴まれ往復ビンタされました。

 ドメスティックバイオレンスな妹に私は屈するしかなかった。

 ちくせう。

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