42.必殺採取人
中腰での長時間採取は、腰の負担が大きいです。
「腰が、痛いよぉ」
「私も痛いわ。口を動かさず手を動かせ」
メソメソと泣き言を零しながら、容子は薬草を採取している。
「ポーションで腰痛は、治らんの?」
「ポーションは、万能薬じゃねぇわ。HPポーションの効果は、体力回・怪我の治癒に特化したものだよ。病気を完治させたいなら、神聖魔法・完全治癒で治すしかない。完全治癒も万能じゃないから、霊薬が存在するんでしょう。仮に完全治癒で腰痛が治っても、直ぐに再発するから諦めろん」
「じゃあ、肩こりも治らんの?」
「治らんな。精々、症状を緩和させるくらいでしょう」
病気になる根本的な問題が解決しなければ、完治するとは言い難い。
「腰痛や肩こりに効く軟膏でも作ってみるわ。口を動かすより、手を動かす!」
「イエッサー! これが終わったらドワーフの洞窟に行けるんだよね?」
容子よ、鳥頭過ぎるぞ。
人の話を聞いていたのか?
ポーション類を作り終えてからだと、あれほど何度も言ったのに……。
「ポーションとか作ってからね!」
「チッ」
舌打ちしているが、もう無視だ。
「モンスターの気配も無いし、皆でサクサク薬草を刈り取るよ!」
「おー!」
私には紅白が、容子には赤白が護衛をしている。
サクラと楽白は、採取のお手伝いをしていた。
兎に角、一帯を鑑定しまくる。
群生地とはいえ、雑草も生えている。
薬草・マナ草・毒草と宝庫のようだ。
雑草も時々混じって出てくるけど、圧倒的に薬草などの方が多いのはラッキーだ。
「1/3は残しといてね。暫くしたら、また此処で採取するから」
「サイエスってゲームをベースに作られているんでしょう? だったら、薬草もリスポーンするから問題なくね?」
容子、いい質問だ。
「必ずリスポーンするとは限らないし、検証してないから分からないもの。ここは、刈りつくすより残すことを選択した方が賢明だと思う」
と尤もらしい事を言ってみる。
刈りつくして、新しい群生地を探すのは面倒だからとはおくびにも出さない。
「まあ、一理あるね」
「頑張って!」
容子に発破を掛けつつ、私も必死にマナ草とそれ以外の薬になる草や木の実を探した。
結構豊富に取れたと思う。
拡張空間ホームのアイテム欄を見ると凄い勢いで数が増えていくのが分かる。
自重を知らない者同士が組み合わさったら、劇薬になる悪い意味での良い見本だな。
私は、程々にしておいたけどね!
薬師ギルドに行けば、新しいポーションや薬などのスクロールが手に入るだろうし。
薬になりそうなの薬草や実は、片っ端から拡張空間ホームに入れておこう。
そんなこんなで採取作業から4時間が経過した。
我慢の限界だと言わんばかりに容子が、再び音を上げた。
「もう疲れたぁ~。お腹も空いた! 腰は痛い。動けない。もう休もうよ」
<わしらも何か食いたいわ>
<サクラは、プリンというのが食べたいですぅ~>
楽白も疲れたと言わんばかりに、動かない。
まだ11時なんだけどなぁ。
「分かった。分かった。昼食にしよう」
私は、全員に清掃を掛ける。
拡張空間ホームから折り畳みテーブル・椅子・容子が用意したおかずのタッパーを取り出し、テーブルの上に並べた。
「おかず、八宝菜だけ?」
「五穀米・キムチ・卵スープと豪華だろう」
「あれだけ身体を動かしたんだから足りないよ! 肉食べたい」
容子の肉コールが、カルテットにまで波及してしまい、肉の五重奏が聞こえてくる。
「あー! 五月蠅い、五月蠅い。分かったわよ。唐揚げは、一人二個まで!」
「もっと食べたいよー」
ブーブーと文句を宣う容子に、
「直ぐに食べられる数が16個しかないの! この場で私が、今作っても良いんだよ?」
と言ったら押し黙った。
私の手料理は、正直美味しいとは言い難い。
食べられなくはないが、普通に美味しい食事を取りたいと思うのは自然の摂理だろう。
<大吟醸は?>
「赤白、昼間からお酒はダメ。夜に出してあげるから我慢だ」
これでも食ってなさいと、唐揚げを口に突っ込んで黙らせた。
「食事後だけど、30分食休みして14時まで採取。その後なら狩りに出かけて良いよ。門が閉まる前に宿に帰ってくること。私は、薬師ギルドに戻って上位ポーションのスクロールを手に入れてくる」
解散だよと言ったら、カルテットが容子と行動すると言った。
一匹くらい私についてくれても良いのにと思う反面、調合の時に居ても構ってやれないので、彼らは当然の選択をしたと自分に言い聞かせた。
のけ者にされた感が半端ないけど、自分で言い出したことだし文句は言うまい。
拡張空間ホームに格納された膨大な薬草の数に、私は大満足だ。
「じゃあ、一足先に街に戻るよ。くれぐれも、危ないことはしない様に」
私は念押しして、容子達に忠告する。
「分かってるって!」
薬草採取の帰り道は、実験したい事があったので衣装チェンジしました。
雨カッパにゴム手袋、防毒マスクTW088を装着し完全防備状態である。
原付バイクは拡張空間ホームに仕舞い、サクラに頼んで自転車に聖域を掛けて貰っている。
自転車を爆走させたところを他の冒険者に見られても、驚かれるかもしれないがモンスターと勘違いされることはあるまい。
行きよりは時間が掛るが、街の近くまでを走ることが出来る。
何より原付バイクで走行している姿を見られるのは、非常に都合が悪いしね。
非常に目立つ姿でママチャリを爆走しているのだが、隠密のお陰で途中すれ違う冒険者には、今のところ気付かれていない。
モンスターに遭遇してぶつかったとしても、自転車に傷一つ付かない。
衝撃で吹っ飛ばされるが、運の良いことに毎度綺麗に着地するので怪我一つしていない。
寧ろ、ぶつかられたモンスターの方がダメージを負っている。
自転車を爆走させている間の攻撃は、至って単純だ。
私はキッチンハイターとサンポールを混ぜて作った劇物を大容量水鉄砲に入れて背負い、襲い掛かって来るモンスターの顔面に向かって放水する。
射程距離が10mもあれば、十分顔に狙える。
調合スキルの補正が掛かったお陰で、非常に強力な猛毒と化した液体は正しく『混ぜるな危険』である。
顔面に命中すれば、悶絶して絶命する。
身体のどこかに命中しても、猛毒ガスの影響で数分後に絶命する。
ドロップ品を回収して、街に向かって自転車を走らせる。
私の通った道には、猛毒ガスが発生している状態だ。
ドロップ品を回収したら猛毒ガスを風魔法で上空に押し上げて散らすを繰り返した。
散らす前に冒険者がうっかり毒ガス地帯に足を踏み入れて死んだらどうしようか考えたが、それは相手に運が無かったと思う事にしよう。
開き直るって素晴らしい!
そんなこんなで、無事街に戻ることが出来ましたと言えたらどんなに良かっただろうか。
森を抜けて一息吐いたら、Aランクオーバーのモンスターと鉢合わせしました。
私の悪運様は、今日も社畜宜しくお仕事して下さってます。
こんちくしょう!