39.アイテムボックスが進化しました ⁑
飯抜きの刑を発令したが、その判決に対して泣くわ喚くわ五月蠅かった。
私の精神が先にやられてしまうと感じたので、今回だけ許すという形を取った。
今後の方針を決めるため、一旦自宅へと戻った。
スマートフォンのアラーム設定は、77時間後に設定してある。
朝の6時にサイエスに戻る算段である。
時間の流れが同じであれば便利なのだが、異なるとなれば時間管理が非常に面倒臭い。
スマートフォンに容子が、契約した四匹に食べさせた物を聞き取りアプリに登録する。
勿論、バックアップも忘れない。
自宅のリビングで四匹と二人で、食事を取りながら今後の方針を決めることにした。
「昇級試験も終わったし、77時間は自由にして良いよ。容子、77時間後にアラームが鳴るように設定しときなさい。サイエスでは翌日6時にあたるから」
「了解。77時間後ってことは、三日と5時間か。結構時間があるね」
容子は、スマートフォンを弄りながら何をして過ごそうかな~と呑気な事を言っている。
<箱の中やなくて、もっと広々と過ごしたいわ>
<せやせや、狭すぎる>
蛇二匹からの念話に、私は眉を顰めた。
脱走常習犯を捕獲するのに、一体どれだけ時間を費やしたと思ってるんだ。
「脱走するからダメ。それに、部屋中でウンコやオシッコされたら困る」
私の答えはNOだ!
断固許さない。
触れなくなっちゃうしね。
「排泄と水浴びは、ゲージでする事を条件にして放し飼いにしたら? サクラちゃんを見てたら自由に動き回りたいと思うのは仕方がないよ」
と、妹の裏切りにあった!
妹の言うことは一理あるけど、何でもかんでも飲み込まないか心配だ。
<サクラもみんなと遊びたいのぉ~。あるじー、だめぇ?>
サクラたん、テラかわユス罪!
「うん、サクラがそういうなら仕方がないよね。紅白・赤白、絶対その辺にあるものを口に入れない。ウンコとオシッコと水浴びは、ゲージで絶対する! 約束出来るなら自由にして良いよ」
<<分かった>>
綺麗にハモリましたね。
そんなにゲージが嫌だったのかい。
ちょっぴり傷ついたよ。
温度や湿度管理に気を使ってたのに、契約したことで何か変化があったんだろうか?
楽白は、テーブルの上で何やら一匹怪しげなダンスを踊っている。
楽白は、生まれたてだからか意思の疎通が出来ない。
面白いから放っておこう。
「昇級試験も無事終えた事だし、暫くはセブールの街に滞在してレベル上げしようと思う。上級ポーションも作りたいし」
いつまでも下級ポーションを頼りにしてはダメだ。
調合の熟練度を上げたいし、何より薬の素材が底をついている。
採取に行きたいのだ。
セブール周辺は、始まりの街に比べて魔物が強い。
下級ポーションだけでは、心もとない。
中級や上級ポーションを作れるようにしておきたい。
それには、薬師ギルドに行って中・上級ポーションのスクロールを読み込む必要がある。
また、缶詰でポーション作りさせられるのかなぁ。
「私は、ドワーフの鉱山に行ってみたい! そしてアトリエが欲しい」
「前者は検討するが、後者は金銭的に無理」
スパッと容子の要望を却下すると、フフンと鼻で嗤いドヤ顔で言った。
「アイテムボックスが、拡張空間ホームに進化させる条件は整った! 熟練度は、足りているはずだよ」
「うん、意味が分からない。アイテムボックスは、そもそもギフトだよ。進化するものか?」
「元は、ただのアイテムボックスだったんでしょう? いつの間にか共有化に進化していたじゃん。アイテムボックスを酷使することで、熟練度が上がると思うんだ。ポイントを使うという手もある」
確かに、その理屈は分かる。
だが、ギフトにポイントを使用可能なのだろうか?
「因みに、アイテムボックスを進化させたい理由は?」
「自分だけのアトリエを作って、希少な鉱石を加工したい。アクセサリー作りに没頭したい!」
「却下」
そんなものを持たせたら、容子が籠りっきりになるのが分かり切っている。
「何で!」
「だって、絶対に引き籠るじゃん。寝食忘れて没頭して過労死してましたなんて事になったら、目覚めが悪いこの話は、これで終わり!」
お終いだと強引に切り上げたのが悪かったのか、その日を境に楽白以外だれも私に近づいてくれなくなった。
触ろうとするとサッと逃げられる。
それが二日も続くと心が折れた。
そう、バキバキのメッタメタに!
容子の奴め、皆をお菓子やご飯で釣ったんだ!
酷いよ。
私がご主人様なのに。
誰も私の言う事聞いてくれない。
仕方がないので容子を呼んだ。
「……拡張空間ホームの習得するよ。だから、皆を触らせて!」
「やった!」
<約束の酒は弾んで貰うでぇ~>
<うちは、塩ウニ食べるんや>
<アイスアイス>
念話で欲望が駄々洩れだよ、お前ら。
やっぱり食べ物に釣られたのね。
一匹は飲み物だけど。
契約されているのに、ご主人様の意向を無視し過ぎだと思います!
ぷんぷんと怒っても、結局あの可愛い子たちを前に怒りは長続きしないのだ。
「ステータスオープン」
ステータスを表示させて、アイテムボックス共有化を押す。
詳細が表示されて、ザッと内容を確認する。
うん、熟練度が足りないわ。
ステータスポイントを使用することも出来るみたいだが、言い出しっぺの容子に祓わせるべきだろう。
「容子、ステータスのポイントどれくらいあんの?」
「ちょっと待って。確認するわ。ステータスオープン」
---------STATUS---------
名前:マサコ(琴陵 容子)
種族:人族
レベル:49
職業:|社畜
年齢:18歳[25歳]
体力:156→162
魔力:263→281
筋力:91→100
防御:78→84
知能:123→128
速度:53→68
運 :70→77
■装備:カーキーのカットシャツ・黒のパンツ・スニーカー
■スキル:縁切り・料理4・射撃5・聖魔法1・鍛冶1→2・生活魔法1・索敵1[5→7]・隠蔽2[7→8]・隠密[7→9]・魔力操作1→3・念話1
■ギフト:なし[アイテムボックス共有化]
■称 号:[宥子の従魔]・蜂殺し・轢き逃げ
■加護:なし[須佐之男命・櫛稲田姫命]
[■ボーナスポイント:5484pt]
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アイテムボックスの上位互換『拡張空間ホーム』は、熟練値をポイントで補う事が可能なようだ。
しかし、熟練値をポイントで買おうとなると予想はしていたが高い。
拡張空間ホームに進化させるには、5万pt必要だった。
「妹よ、残念なお知らせだ。拡張空間ホームは、5万pt無いと無理」
私の言葉に、容子はその場で崩れ落ちた。
そんなに欲しかったのか、アトリエ。
「宥子、どうにかならないの? お願い~。一生のお願い~」
土下座で一生のお願いを口にする容子を見て、後頭部を思いっきり踏みつけたい衝動に駆られたが、私はそんな大人げないことはしないさ。
「サクラ、pt使っても良い?」
<うん。良いよ~>
サクラ、本気天使。
「何で、サクラちゃんのpt使うん? サクラちゃんしか、拡張空間ホーム使えないじゃん!」
ブーブーと文句を垂れる容子に、私は特大の溜息を吐いた。
「アイテムボックス共有化しているのお忘れ? サクラが拡張空間ホームを取得すれば、必然的に私達も使えるようになるの」
私の説明に、パァアッと顔が明るくなった容子。
本当に現金すぎる。
「サクラ様、どうかお願いします」
綺麗な土下座を見せる容子の頭に、サクラが二つ返事で了承した。
<わかった~。んーんっ、取れたよぉ>
自分のステータスを確認するとアイテムボックスが拡張空間ホーム共有化に変更されている。
これで容子の要望は叶ったな。
「ステータスを確認してみ。ちゃんと拡張空間ホーム共有化に変更されているよ」
「うぉおお! これで思う存分作業出来る。ひゃっほぉい!」
両手を上げて変な踊りをしている容子に、私は念のため釘を刺しておく。
「拡張空間ホーム使うのは構わんけど、整理したアイテムとか滅茶苦茶にしたらぶっ飛ばすからな」
「はひぃ」
間抜けな返事が返ってきたけど、まあ良いか。
拡張空間ホームは、色々と便利な機能が付いていた。
フォルダ分けが出来なかったのが、解禁されたので早速作ってみる。
容子用、宥子用、アイテム用、お金用のフォルダを新たに作った。
私もポーション作りで部屋を汚したくない。
かと言って、薬師ギルドに缶詰になるのはゴメンだ。
このタイミングでアイテムボックスを強制進化させたのは、丁度良い機会だったのだろうと思う事にした。