38.新しい仲間が加わりました ⁑
宿に戻ると、げっそりとした容子と艶々した蛇達とサクラがいた。
何か匂う。
その匂いの発信源が、契約したペット達からだ。
「部屋に戻ろうか。疲れたでしょう」
ニッコリと笑みを浮かべる私に、何かを察知した容子の顔が引き攣っている。
当てがわれた部屋に入り、匂いの根源を鷲掴みにする。
「お前ら、一体何食べた?」
<何も食べてへんで>
<言いがかりや>
<……>
蛇達は果敢にも反論したが、サクラは無言でプルプル震えている。
「そっかー。正直に話せば、夕飯も豪華にしようかと思ったんだけどなぁ。君たち、私の従魔なんだよ? ご主人様の命令は絶対って分からないなら全員自宅送りすんぞ♡」
と宣言したら、あっさりとゲロった。
<焼き鳥食べた>
<甘酒飲みました>
<チョコレート食べたのぉ>
どういう事かと容子を睨みつけたら、視線が明後日の方向を向いてやがる。
「おい、何勝手に餌与えてんだ! 私が、この子達の食事管理しているの忘れたわけじゃないよね?」
元々蛇達の餌やりと水替え掃除は、私が率先してやっていた。
勿論、その時の健康状態などをスマートフォンのカレンダーアプリに記録として残している。
サクラが契約された時も、好物などの確認のためにカレンダーアプリにメモを残していた。
食事管理を中心に、彼らの体調も逐一管理しているのだ。
勝手な事をされると、円滑に管理が出来なくなる。
「それ以外は、口にしてないよね?」
自己申告された物以外は、口に入れてないだろうなと容子に確認すると、物凄く言い辛そうな顔で爆弾を落としてくれた。
「いやぁ……それがですね。アラクラトロという巨大蜘蛛に遭遇しまして。蛇達が蜘蛛を食べちゃたんです。勿論、ちゃんと止めたんだよ? でも私の制止を振り切って、サクラちゃんと一緒になって食べてました」
ガッデム!
何てこったい。変な物口にしとるやんけ。
「容子に似て食い意地が張っているのは諦めたよ。でも、そんなゲテモノにまで手を出さなくても良いじゃないか! 餌上げているよね? 何が不満なの」
その場に崩れ落ち、床をバンバン叩く私。
容子は、その光景を慰めるわけでもなく、ソッと目を反らしていた。
「いや、食い意地が張っているのはお前もじゃん」
という暴言をぼそりと吐かれた事は忘れない!
「お前ら全員飯抜き! 大体アラクネトロは、Aランクモンスターなんだよ! Cランクのうちらが狩るようなモンスターじゃないの!」
妹よ、お前がごり押しの昇級試験受けている間、私はクエストの内容を読み漁っていたんだよ!
危険な魔物かどうか、把握していないとでも思ったのか?
「それで、他にはないのよね?」
睨みを聞かせながら詰問すると、
「はい……」
容子は、小さく返事をした。
容子と三匹が狩ったドロップ品に目を通す。
ウルフの毛皮×33
ワーウルフの毛皮×1
キラービーの羽×27枚
アラクラトロの糸×7玉
アラクラトロの牙×37本
毒袋×1個
黄色の魔石(小)×45個
青い魔石(小)×16個
赤の魔石(中)×1個
赤の魔石(大)×1個
アラクラトロの心臓1個
あの短時間で、よくもこんなに狩れたと思う。
冒険者ギルドで溜まったドロップ品を売り捌いたが、この調子だとアイテムボックスがドロップ品で埋め尽くされそうだ。
ドロップ品を一度全部出して、種類別にダンボール箱に入れ直す。
ラベリングしてから、アイテムボックスに収納し直す作業をしていると、何かカサカサという音が聞こえた。
「ん? 虫が入ったのか?」
虫よけの薬を散布しているから、虫が入ってくることはないのだが。
音の発信源を探すと、容子のフードから聞こえてくる。
「容子、フードに何か隠してない?」
変なもの拾ってきたんじゃないよね?
胡乱気に見ると、首を横に振り否定している。
「ちょい、後ろ向いて」
私の前に立つように背中を向けた。
フードにズボッと手を突っ込むと、何かツルッとした感触に当たった。
感触的にツルツルしてて硬い。胴体と思わしき部分を掴み引っ張り出すと、一生懸命フードにしがみつく蜘蛛がいた。
「蜘蛛?」
益虫だから良いけど、何で容子のフードの中にいるんだ。
「お前、この蜘蛛に見覚えないか?」
「う~ん。多分、アラクラトロを狩った後で一服してた時に、こっちを見ていたからさ。パチパチグミを上げたら喜んでたわ。でも、森の中でお別れしたんだよ」
「餌付けしたんだね」
焦りながら言い訳をする容子を見て、嘘は言ってないみたいだ。
大方、帰る時に不意を突かれてフードに潜り込まれたんだろう。
鑑定したらリトルスパイダー(幼体)と表示された。
こやつ、魔物だったのか。
日本で見る普通の蜘蛛と大差ない大きさだ。
フードの中に入られて、容子が気付かなかったのも致し方ない。
「容子は、契約のスキル持ってないし。そのまま放置出来ないしなぁ。街の中に魔物が居たら、討伐対象だよ。元の場所に帰してきなさい」
飼わないと意思表示をしたら、蜘蛛が前足2本を上下にフリフリしている。
何やってんだ、お前?
変な踊り見せられても飼わないぞ。
<その子も一緒にいたいって言ってるのぉ~。主ぃ、お願い。良いでしょ?>
サクラたん、そのおねだりは反則過ぎるでしょう。
ぷるぷるボディをスリスリさせながら、上目遣いでお願いとか可愛すぎる。
「ちゃんと面倒見れる? 途中で投げ出したりしない?」
<うん! サクラ面倒みるー>
サクラの飼いたい攻撃に落ちました。
笑うが良いよ!
「じゃあ、従魔契約しないとね。蜘蛛ちゃん、こっちにおいで」
ぴょんと蜘蛛が、掌に乗って来る。
ポップアップが、目の前に表示された。
<リトルスパイダーが契約されたがっています。契約しますか?>
YES/NOの選択しが出たので、YESを押す。
リトルスパイダーのステータスが表示された。
---------STATUS---------
名前:未設定
種族:リトルスパイダー
レベル:13
年齢:0歳
体力:1
魔力:3
筋力:5
防御:1
知能:180
速度:1319
幸運:5482
■スキル:糸操3・糸吐き5・毒耐性10・索敵30・看破2
■ギフト:韋駄天
■称号:宥子の従魔
■加護:須佐之男命・櫛稲田姫命
■ボーナスポイント:96518pt
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何この縛りプレイなステータス。
鑑定の上位種『看破』を持ってるよ。
「ブホォッ! ちょっ、容子見て見て」
「グハッ! 何この縛りプレイ。私達より有能なんですけど」
凹むわー。
しかも、この子も幸運持っているよ。
ボーナスポイントも高いし、ギフト持ちですか。
悪運様が働いてくれたのかねぇ。
「取り敢えず名前を付けよう。何が良いかなぁ」
全体的に白っぽい感じだ。
白雪とか、雪貴とかが良いかな……。
「楽白ちゃんに決定!」
「縁起でもない名前付けるなよ」
楽白は、初めて飼った蛇で家に慣れずやせ細ってしまったので、ペットショップに返却された子である。
それもあってか、私の中では縁起が悪いと認識している。
「良いじゃん。本当は、紅白ちゃんが楽白2号ちゃんになる予定だったのに! 無理矢理名前を決めちゃったじゃん。今度は、私が決めるの」
と駄々をこねられ、渋々リトルスパイダーの名前が楽白となった。
「もう、変なものを拾ってこないでよ。明日は、楽白を冒険者ギルドで登録しないといけないんだから」
大きな溜息を吐き愚痴をこぼすが、容子が私に内緒でまた面倒な事を起こそうとするのは別の話。