36.妹の昇級試験
自作ポーションと300円ショップのアクセサリーを販売して、お財布の中がほっこりしています。
売上は、金貨59枚・銀貨3枚・銅貨が7枚と良い臨時収入になった。
ただし、虫よけの薬だけは残った。
冒険者は魔物よけ薬を欲しがったが、地元民が虫除け薬を選んでいるところを見ると、全く需要というわけではない。
アクセサリー類が、高値で売れたのは嬉しい誤算だ。
この世界ではピアスという概念がないみたいだ。
イヤリングはあるのにね!
そこで、ピアッサーの登場だ。
私自身ピアスをしているので、イヤリングのように耳が痛くなる心配もない。
ピアッサーを使って無料でピアスホールの穴を開けますと宣伝したら、女性客が群がった。
一応、A3スケッチブックに以下の注意書きを書いた。
・耳を清潔に保つために、消毒液で耳を拭きます。
・特別な器具でピアスホールを開けます。
・穴を開けた直後に、ポーションを湿らせたコットで耳を拭きます。
・最初につけたピアスは回収し、購入されたピアスをお付けください。
・特別な器具は、清掃した後に消毒液で消毒して再利用します。
・穴を開けた後については、一切責任は負いません。
とまあ、このような内容を書いた。
日本でピアッサーの使いまわしをしようものなら言語道断と叩かれそうだが、ここは異世界だ。
衛生面に関しては、最大限出来ることをして穴を開けるつもりだ。
「チクッとするのは、一瞬ですよ〜。動かないで下さいね」
コットンに消毒液を浸らせ、耳を全身綺麗に拭く。
耳の掃除を怠っている人が多いのか、ぶっちゃけ汚い。
綺麗にした耳たぶに、ピアッサーを当てて一思いに穴を開けた。
すぐさま、ポーションを浸したコットンで耳たぶを吹けば、穴の周りは綺麗に塞がっている。
購入して貰ったピアスに付け替えて、使用したピアッサーを清掃し、消毒して再利用する。
手際よくテンポよく、ピアスホールを量産する。
イヤリングより、ピアスの方が可愛くて安い。
人気が出ないわけがない。
これでピアスする人が増えると良いな。
ホクホク顔で容子と合流し、宿に戻り今後の方針を決めることにした。
唐突に容子が真面なことを言った!
「私の冒険者ランクがFでしょう。宥子とパーティを組んでも釣り合わないんだよねぇ」
「そりゃーね、差が大きく開いている状態で、一緒のパーティを組める分からないよね」
Fランク冒険者が受けれる任務は、EかFランクの仕事になる。
仮に私とパーティーを組めたとしても、容子のランクに合わせた任務しか回ってこないだろう。
「ランクアップの為に、暫くここを拠点にして活動する? モンスターも始まりの町よりも強いし。レベル上げと平行して、ギルドのランク上げも出来るよ」
「う~ん、モンスター討伐にも制限が掛かりそう。私は、高ランクモンスターの素材が欲しいし、それでアイテム作りたい。Cランクならダンジョンに入れるんでしょう? レベル上げでちんたらしていられないわ」
「そうだけど……」
ギルドが設けているランクが、弊害になるか。
二人でどうするか話し合っていたら、念話が飛んできた。
<昇級試験受けたらえーやん>
いつの間にか鞄から脱走していた赤白が、私の気持ちを丸っと無視して気軽に言ってくる。
<紹介状もないのに受けれんよ>
と返したら、
<宥子が持っていった紹介状に、容子の存在を書き忘れとったとでも言って押し通せば良えやん。遅かれ早かれ、宥子の二の舞いで推薦されて昇級試験受けることになるやろう。バレへんって>
<バレないよー>
と、紅白サクラまでが赤白に同調した!!
誰だよ、こんなフリーダムな子に育てたやつは!
やっちゃえーとばかりに弾けている姿は、容子の影響に違いない。
許すまじ。
混沌とした中、私は閃いた。
「別に正攻法を取らなくても良いじゃん! そうだよ。ダリエラの失態を強請って、容子を昇級試験に受れるようにさせれば良いんだ」
ギルドの失態を逆手に取り、容子の昇級試験を実施出来るように圧力をかければ良い話だ。
レオンハルトに報告されるのは嫌がっていたので、それを交渉材料にして持ち掛けてみるのもありかもしれない。
蛇達は、鬼畜だ、鬼だと色々言っているが無視だ。
利用できるものは全て利用するのが世の常というものだ。
「じゃあ、サクっと冒険者ギルドに行こうか!」
微妙な時間に押しかけて追い返される可能性がある。
「明日でも良くない?」
と消極的な私に対し、用事は早めにすましたい! という容子が主張した。
「今の宥子は、化粧も服もバッチリなんだよ。その状態を明日まで維持出来るの?」
おっしゃる通り、出来ませんね!
スーツ着て化粧している時は、本当に商談を成功させたい時か、仕事モードの時だけだ。
ズボラ癖を出ないとは言い切れない!
「折角化粧してるんだからサッサと済ませちゃおう!」
容子に無理矢理連行される形で、私達は宿を出たのだった。
私を先頭に冒険者ギルドへ突撃した。
入った瞬間、受付がピリピリした空気になった。
あっちゃー、警戒されてるな。
でも、気にしない。
トラブルが向こうからやってきたから、自分に掛かる火の粉を振り払っただけだもん。
ワタシ悪クナイ!
「すみません、ダリエラさんはいますか? 昇級試験の事でお話しがあるんですが」
私は真面目そうな受付嬢を選び、ギルドカードを提示してダリエラを呼びつけた。
ダリエラは、直ぐにやってきた。
仕事が早くて助かるよ。
「ヒロコさん、何か不手際でもあったかしら?」
ゆったりとした動きで問いかけてくる彼女の眼は、明らかにを警戒していた。
そうだろうね。
弱み握っちゃっている立場だし、警戒されても仕方がない。
でもね、私も出来た人間じゃないのですよ。
利用出来るものは、骨が一欠片も残らずしゃぶり尽くす勢いで利用させてもらう主義なんです。
「妹を連れて一緒に昇級試験受けなかった私の落ち度です。彼女にCランク昇級試験を受けさせてください」
ほほほほと、愛想笑いを浮かべながら容子の昇級試験を示唆した。
「あら? 昇級試験の紹介は、ヒロコさんだけでしたわ」
そうだろうね。
レオンハルトは、私しか知らないんだもの。
ダリエラの嫌味を平然とした顔で受け流す。
「此処よりしっかり仕事してるギルドで、昇級試験を受けるべきだと思っていますよ。でもね、すぐに新しい街に移動するとなるとお金が掛かるんです。遠路はるばる昇級試験を受けに来て、色々ありましたからねぇ。少しくらい便宜を測って貰えないですかね? もしかして紹介状が無いだけで門前払いですか? ああ、人殺しOKな馬鹿職員と怠慢職員を野さばしにされてましたね。やはり、ラインハルトさんに報告も兼ねて戻ります」
と猛毒を吐いてやった。
ダリエラの顔が、思いっきり引きつって不細工になっている。
更にごり押しで、耳元でレオンハルトには私が受けた仕打ちについては黙っておくと耳打ちした。
「……妹さんの昇級試験を受けれるように手配しますので少しお待ち下さい」
すると、素晴らしい掌返しに思わず拍手したくなった。
流石、小悪党な連中を雇う頭をやっているだけある。
ダニエラが席を外して十分ぐらいで戻ってきた。
「用意が出来ました。ヒロコさんは、此処でお待ち下さい。えっと……」
「容子です。宜しくお願いします。」
と、容子が軽く会釈し挨拶をした。
「マサコさん、此方こそ宜しくお願いします。今から案内しますので、ついてきて下さい」
容子は、ダリエラに連れられて試験会場に行った。
妹の背中を見送り、手持無沙汰になった私はギルド内をうろつく事にした。
私の昇級試験が、速攻で片がつくとは思えなかったからね。
どんなクエストがあるのか確認しようとボード前まで歩くと、モーゼのように人が割れた。
おおぅ! どんな評判が立ってこうなったのか気になるんだが。
私、相当問題児扱いされてないか?
否、要注意人物扱いだな……これは。
ゼノ・シヴァ?
火竜と掛かれている。
ランクは、Bランクから受けられるみたいだ。
容子が無事に昇級したら、ゼノ・シヴァを狩るのも良いかもしれない。
火竜と言われるくらいだから、良い素材が取れるだろう。
怪鳥クルヤックルも良いな。
肉は食用らしく高級食材と書かれている。
これはCランクだから、私一人でもいける。
ギルドボードを独占し物色していたら、爆発音の後に劈くような悲鳴が聞こえた。
「ギャーーーーーーアァァアアアアアアアアアアアア」
地下から聞こえるって悲鳴って、どんだけ大きな声で叫んだんだ。
肺活量が凄いね!
思わず関心しちゃったわ。
地下で爆発があったからか、建物が揺れた。
地震に慣れちゃっている私からすれば、どうってことのない揺れなのだ。
しかし、セブールの人にはそうでなかったようでパニックになっている。
仕方がないなぁ。
ズボッとショルダーバッグに手を突っ込み、アイテムボックスからマイクを取出した。
「落ち着いて下さい。地下の鍛錬所で爆発があって少し揺れただけです。建物が崩れることはありません」
「あれだけ揺れたんだぞ!」
「大・丈・夫・ですっ! ここは、冒険者ギルドでしょう。鍛錬所も十分強固に作られているはずです。そうですよね?」
受付嬢に水を向けると、コクコクと頭を縦に振っている。
「ほら、そこの受付のお姉さんも同意してます! あの程度で潰れるような軟な作りになってないんですから。もっとどんと構えて下さい。心配なら外に出たらどうですか?」
地震大国出身の私からしたら、あの程度の揺れなんて屁でもない。
昼寝していたら寝ている自信があるわ。
堂々とした私の振る舞い見た冒険者達は、徐々に落ち着きを取り戻し始めた。
爆発と悲鳴の原因を作った張本人が、地下から戻ってきた。
「勝ったよ!! 完全勝利♪」
勢いよく飛びついてきた容子をサッと避ける。
悲しそうな目をしても無駄だ。
「何か爆発音が聞こえたんだけど……」
諸悪の根源を睨みつけると、
「え? だって私の武器だもん。火炎瓶とか使うし、ちょっと壁が吹っ飛んだぐらいだよ」
と爆弾発言をかました。
「大丈夫じゃないわよ! 建物壊すなんて弁済請求されたらどうすんの! 馬鹿!!」
バチコーンと容子の脳天を思いっきりしばいた。
痛い、と呻いているが知らん。
「大丈夫だよ。試験官が気絶か死亡じゃないと試験終了にならないのも確認した上でダリエラさんから全力でして良いって言われたんだから!!」
エッヘンとたわわに実った胸を揺らして、ドヤ顔を決めている。
そんな彼女に対し、私は眩暈と頭痛がした。
大きな溜息が零れ落ちる。
「ダニエラさん、呼んでください」
私は今回の騒動についてダニエラに事の経緯を話した。
その間、容子は無事Cランクに昇格したのだった。