35.露店してみました ※
預金が増えて、財布の中身が潤った。
大口のお客様って、本当に良いね!!
感謝だよ。
「容子は、生産ギルドに登録しないの? 他にも私に隠れて何か作っているんでしょう」
これは、確信めいたものがある。
私に内緒でドロップアイテムをくすねていたから、絶対何か作っているに違いない。
「そうだね。登録だけしてみようかな~」
「私は、街で市場調査してくるわ」
一旦解散だねと、それぞれ別行動を取ることにした。
私は、現在市場に来ている。
異世界の食材は、創作意欲が湧いてくる。
サイエスの食材を使った創作料理に思いを馳せる。
私の料理は、お世辞にも美味しいとは言い難い。
容子なら、異世界の食材でも美味しく調理してくれそうだ。
ダンジョンに入って活動することを考えるなら、食材は多い方に越したことはない。
帰ったら、これで容子に何か作って貰おう。
露店を冷やかしてウィンドショッピングを楽しむ。
歩いて店を見ていると、物価の大体の値段は把握した。
屋台の商品を見る限り、塩で味付けされているものばかりだ。
この世界は、香辛料を使った料理が少ないのかもしれない。
何より『うまみ成分』や『酵母』、『発酵』などの加工食品もない。
味付けは塩中心で味気ないし、パンは堅い。
フランスパンより硬いって何?
石みたいなパンを食べるサイエス人の食文化を改革すれば、お金になりそうな予感がする。
その辺は、容子に丸投げしよう。
そうそう、市場に来た目的を忘れるところだった。
私は、在庫過多になった薬や買い取って貰えなかったポーション類を売りたかったのだ。
私は、露店が出来るところを探して小さな空きスペースを見つけた。
その場で茣蓙を敷き、折り畳みのテーブルと椅子を用意した。
テーブルの上には、花柄のレースが可愛いテーブルクロスを敷くのも忘れない。
100円ショップで売っている木を加工した箱をアイテムボックスから取り出し、各種ポーション・魔物除け・虫よけ薬を綺麗に陳列する
容子が、300円ショップで購入していたアクセサリーも空きスペースに並べてみた。
スーツを上着を脱ぎ、トートバッグと一緒にアイテムボックスに仕舞おうと思い鞄を開けると、蛇二匹とサクラが居ない!?
まさかの脱走!
こんなところに来てまで脱走するとは、これは全員朝まで説教コースだ。
念の為、容子のところに行ってないか確認しないと。
<容子、事件です! 三匹が脱走しました。もしかして、もしかすると思うが、そっちに行ってないよね?>
<来てるよ~>
やっぱりか。
脱走に気がついた時点で薄々気づいていたけども、容子のところに行くなら、一言あって然るべきではなかろうか。
<悪いけど、その子ら見てて。私は大通りで露店やってるから、そこでひと稼ぎするわ>
<りょ!>
プツンと念話を切り、三匹の所在が分かったことで一安心。
頭を切り替えて、ポーションの実演販売と行こうじゃないか!
トートバッグと上着をアイテムボックスに仕舞い、マイクとエプロンを取り出す。
エプロンは、誕生日プレゼントに貰ったチェック柄のお気に入りだ。
毎年、誕生日プレゼントをエプロンで固定するのは止めてほしい。
ちゃんと清掃済みなので、清潔であることには変わりない。
マイク片手に準備万端だ。
念のため下級ポーション(劣)の効果を調べておこう。
鑑定すると、体力を20%回復させると出た。
効果がしょぼい。
「下級ポーション・魔物除け・虫よけ・解毒剤を格安で販売しているよ! アクセサリーもある。在庫はあるだけだぁ!! 見て行かないと損するよ」
道行く人にマイクで声を拡声させる。
声を張り上げて呼び込みをしている人に悪いが、客は争奪戦である。
私の大声に、通りを歩く人の肩がビクッと動く。
畳みかけるように、営業トークを披露した。
「そこの刀をぶら下げたお姉さん、髪の毛綺麗で長いね! そんな長いと戦う時に邪魔にならない?」
いきなり声を掛けられた冒険者の女は、動揺したように周囲を見渡し挙動不審になっている。
「私のこと?」
「そう! 貴女です!!」
「確かに戦闘になると髪が邪魔になるときがあるわね。私、髪紐で髪を纏めるのが苦手なのよ」
「分かります! 私も出来ません! しかし、私はこれを使って髪をまとめてます」
スチャッと手に取った商品は、とんぼ玉が付いた簪である。
「不思議な形をしているのね。先端に着いているものは、綺麗だけど。こんな棒切れで髪を纏めることが出来るのかしら?」
「はい、簡単に纏められます」
くるりと後ろを向いて、硝子館の簪で纏めた髪を見せる。
「綺麗に纏まるものなのね」
簪を取ると、髪がさらりと落ちくるんと癖がついた。
「こんな感じで纏めます」
手漉きで髪を整え、一房に束ねる。
軽く捩じり髪を簪に巻き付けて、きつくない程度のところでぶっ刺して終わりだ。
練習用の簪を渡し、練習を勧める。
彼女は、何度か練習して綺麗に髪を纏められるようになったようだ。
「慣れれば直ぐ纏められますが、急いでいる時にはコレで髪を纏めて下さい」
と、差し出したのはシュシュである。
ただのシュシュではなく、ビーズがが付いたシュシュだ。
渡したのは、ベージュだが色違いが商品に陳列されている。
「これは、こんな感じで留めます」
ささっと髪を束ね、何周かくぐらせて止める。
髪を纏めるだけならシュシュが簡単だが、私は簪派なので簪を普及させたいのだよ。
「可愛いわね。これなら、私でも簡単に出来そうだ。でも、高いんだろう?」
「無名の作品なので、お安くしておきますよ。簪は銀貨5枚、シュシュは銀貨3枚です」
「う~ん……」
悩んでる。悩んでる。悩めよ若人(笑)
ダメ押しと行きましょうか。
「大量生産していないので、同じものが入荷出来るとは限らないんですよー。次来た時には、もう無くなっているかもしれません。見たところ冒険者さんのようなので、二つ購入ならオマケで魔物除けの薬もつけますよ」
「本当!? 薬師ギルドで買うと一つ銅貨5枚するのよね」
「合わせて虫よけの薬も如何ですか? 銅貨1枚です。ポーション類は、銀貨3枚になります」
「虫よけの薬なら銅貨3枚、ポーションは銀貨5枚はするのに。効果がない物を売り受けようとしてるなら、憲兵に引き渡すわよ?」
ありゃ、疑われた。
ポーションを露店で売っていれば、モグリかヤブだと思われても仕方がない。
「私、薬師ギルドのCランカーです。効果のないものはお売りしません」
そう言いつつ、ギルドカードを見せたら信用してくれた。
ポーション以外は、良品でっせ!
口には出さないけどな。
しかし、薬師ギルドで買うと露天で売られているものよりも高いのか。
一定の品質を保っているのだから、露天で高品質の薬を安価で手に入れる事が出来ると知られたら、薬師ギルドと確執が生まれそうだ。
露天で売るペースは、しっかりと見極めたほうが良さそうだ。
「じゃあ、簪とヘアゴムを頂戴」
「はい有難う御座います。銀貨6枚です。これは、オマケの魔物除けの薬です」
お金を受取り商品を手渡すと、私たちのやり取りを見ていた人が続々と集まってきた。
「押さないで、順番に並んでくださいね~」
ポーションを買う人、アクセサリーを買う人様々だ。
ポーションは、薬師ギルドで買うより銀貨2枚安くしているので売れ行きが良い。
どこで話が歪曲したのか、二個買うとオマケが付くとた口コミが広がり、ポーションをオマケしてくれと言ってくる者まで現れた。
「いや~、流石にポーションは無理ですよ。オマケで付けられるのは、虫よけか魔物除けの薬だけですから」
そう言いながら、客を上手くあしらい捌いていく。
露店を初めて一時間で品は虫よけの薬のみとなった。
売上は、金貨59枚・銀貨3枚・銅貨が7枚でした。
早々に完売したので店じまいしようとしたら、偉そうなおっさんに絡まれた。
身なりは良さそうだが、金払いは悪そうだ。
「おい、さっき此処で売っていたものを用意しろ」
「は? 無理ですよ。売り切れました。完売したので、何も残ってませんよ」
「わしは、ケルチ男爵の使いのものだぞ! 平民が、貴族に逆らうというのか?」
「逆らうとかの話ではありません。無いものを売りつける行為は、詐欺って言うんですよ? そんな事も分かりませんか?」
「じゃあ、直ぐ用意しろ」
随分と横柄で上から目線で接してくるケチル男爵の使いに、私はイラッとするが顔には出さない。
「無理ですよ。アクセサリー系は入荷予定は未定ですし、ポーションや魔物除けの薬・解毒剤は作らないとありません。アクセサリー以外なら薬師ギルドで購入出来ますから、そちらでお買い求めになって下さいよ」
「ギルドで買えば高いだろう!! 大体、ポーションを露店で販売して良いと思っているのか!」
「駆け出しのひよっこが作った物です。薬師ギルドは一定の品質から溢れたものは、売り物にならないと排除されます。納品から溢れた品は、露店で格安販売しても問題ありません。これ以上騒ぐなら憲兵呼びますよ?」
そこまで言って、おっさんは覚えてろと悪役が吐くような捨て台詞を吐いて逃げた。
面倒臭いのに当たったよ。
やれやれと思いながら店仕舞いして、宿に引き上げた。
所持金;金貨206枚・銀貨89318枚・銅貨29067枚・青銅貨1217枚/未確認の貨幣多数あり
冒険者ギルド預金:金貨1枚・銀貨11枚・銅貨16枚・青銅貨8枚
薬師ギルド預金:金貨3枚・銀貨1776枚・銅貨2550枚・青銅貨13450枚
商業ギルド預金:金貨124枚