28.昇級試験です
購入した地図のスクロールが、現在進行形で良い仕事をしてくれています。
容子と地図の共有化が出来れば、土地勘のない彼女でも迷子になることはないだろう。
最悪、スマートフォンの地図アプリという奥の手がある。
スマートフォンをサイエスで使用する際は、細心の注意が必要になりそうだが極力使わないにこしたことはない。
道に迷うことなく冒険者ギルドへ到着しました。
本当に地図様様だ。
始まりの町よりも大きかった。
大都市となれば、ギルドの規模も同じように比例して大きくなるのだろう。
例えるなら、駅前のスーパーと百貨店くらい違う。
五階建てのビルもとい、冒険者ギルドの中を見て回るだけでも、余裕で一日過ごせる。
中に入ると、カウンターが混雑している。
特に美人受付嬢の前には、長蛇の列が出来ていた。
受付がフツメン嬢やおっさんやのカウンターは、人があまり並んでいない。
この現象は、何処のギルドでも同じなのだろうか。
「次の方どうぞ」
自分の番が来たので、預かっていた紹介状をショルダーバッグを通じてアイテムボックスから出す。
「すみません。始まりの町のギルドマスターから昇級試験を受けるように来ました」
紹介者は、レオなんちゃらって人だった……はず。
「紹介状をお願いします」
紹介状を渡す時にこっそり鑑定したら、『レオンハルトの紹介状』と出た。
そうそう、レオンハルトだった。
他人に興味が無い私は、人の名前が覚えられない。
顔も名前も覚えないので、服装や髪型、身に着けている小物で覚える癖がある。
その為、髪型やメイクを変えたりされると分からなくなるのだ。
名前をド忘れてしても鑑定で確認すれば、情報を丸裸に出来るので本当に有用なスキルをくれたものだよ。
「レオンハルト様からの紹介状ですね。確認出来ました。昇級試験は、地下で行います。この札を部屋の入口のものに見せて下さい」
Cランク試験会場A-4と書かれた札を渡された。
「ありがとう御座います。あの、旅の途中で契約した子がいるのでギルドカードに登録お願いします」
「貴女は、テイマーでしたね。畏まりました。契約された魔物は、連れてきてますか?」
「はい、この子達です」
ショルダーバッグから出した蛇達を見せる。
「では、ギルドカードをお預かりします」
受付嬢は、慣れているのか悲鳴を上げることなく淡々としている。
ギルドカードを魔法具の上乗せ、カウンターから見えないがパソコンのキーボードを打つような音が聞こえてくる。
「はい、登録終わりました」
返却されたカードを受け取り、お礼を述べる。
「ありがとう御座います」
「そのスライム、ヒールスライムですよね? 警戒心が強くて見た人は幸運を運ぶって言われているくらいレアなんですよ。契約出来るなんて凄いですね」
手がうずうずしてますよ、お姉さん。
触りたいんですね。
分かります。
うちの子達は、みんな可愛いですから!
「触ってみますか?」
「良いんですか?」
目をキラキラさる受付嬢に苦笑しながら、サクラをカウンターに乗せる。
「はい、どうぞ」
<サクラ、お姉さんに触らせてあげて>
<いいよ~>
念話で触らせてねとお願いしておく。
この子、幸運値だけはずば抜けて高いからなぁ。
触ってご利益あるんだろうか?
赤白と紅白は、ショルダーバッグの中に戻って寛いでいる。
恍惚とした顔でサクラを撫でまくる受付嬢。
そろそろ返しておくれ。
「あの、そろそろ良いですか?」
「はっ! すみません、つい触り心地が良くて」
うん、サクラちゃんのぷるぷるは私も虜です。
親近感が沸くわ。
「昇級試験頑張って下さい」
「はい!」
サクラを回収して、指定された場所へと階段を下りていく。
広い、広すぎるでしょう!
同じ間取りの部屋が、いくつもあり迷いそうだ。
札に書かれた番号を頼りに、部屋を探すこと5分。
やっと見つけた!
入口に立っているおっさんに声を掛ける。
「昇級試験受けに来ました」
「札を出せ」
「はい」
札と私の顔を交互に眺め、蔑む目で一瞥され顎でしゃくり中に入れの仕草をされた。
何か偉そう。
というか、反りが合わなさそう。
あの態度は、完全に私を下に見ているよね。
こっそり鑑定してみたら、以下がおっさんのステータスだ。
---------STATUS---------
名前:ギリオン
種族:人族
レベル:31
職業:|冒険者ギルド職員
年齢:35歳
体力:133
魔力:91
筋力:281(+10)
防御:195(+13)
知能:82
速度:77
運 :141
■装備:麻のシャツ・パンツ・靴・ブルーオーグの胸当て・鉄剣(普)
■スキル:剣術3・索敵1・隠密2・生活魔法1・手加減
■ギフト:剣豪
■称号:新人潰し
■加護:なし
■ボーナスポイント:118,031pt
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剣豪を所持している割には、スキル全く生かせてない。
レベルは私より低いが、筋力と防御力はギリオンの方が上だ。
()は、装備した武器や防具が上乗せされて数字化されたものか。
スキルに手加減があるのは驚いたが、それよりも気になる称号がある。
新人潰しとは、穏やかではない称号だ。
「獲物は?」
愛銃を見せるのは憚られる。
かと言って、出刃包丁は色んな意味でアウトだろう。
なので、敢えてこう言おう。
「剣です!」
そう答えたら、ギリオンは武器が陳列してある場所から適当に剣を一本抜いて放り投げてきた。
危ないなぁと思いながらも、サッと避けて回避する。
ガシャンと鈍い音がした。
地面に転がった剣を鑑定すると、『刃が潰された剣』と表示された。
「ちゃんと受け取れ」
私が剣を受け取らずに落とした事に対して、ギリオンは不機嫌な顔で睨んでくる。
「投げずに渡せば良かったのでは?」
当たり前の主張をしただけで、キレられた。
「なんだと!」
ギリオンっておっさん、本当面倒臭い。
正論で逆切れって糞だろう。
「試験は、俺に一撃与えること。魔法の使用も可能だ。どちらか気絶もしくは、死亡した場合のみ試験が終了になる」
気絶による戦闘不能は分かる。
だが、試験で死亡っというのは可笑しな話だ。
「放棄宣言をすれば、中止になるのでは?」
殺されてやる言われも無いので、危険と判断した場合に棄権が出来る選択肢もあって然るべきである。
「は? そんな生ぬるい方法で冒険者が務まると思ってんのか。ああ!?」
喧嘩売られてます。
大きな声を出せばビビると思ってる奴ほど、小心者の典型例である。
小者 of 小者だ。
新人潰しという称号は、滅茶苦茶な試験を採用しているから取得したんじゃなかろうか。
殺すまではしなくても、冒険者生命を断つくらいはやっていそうだ。
「命あっての物種って言葉知らないんですか? 見るからに学がなさそうですもんねぇ~。大声で喚く、品のない人を何でギルド員なのか不思議ですぅ」
私は、売られた喧嘩は買う主義です。
なので、全力で叩き潰してあげましょう。
「貴方の獲物は何ですか?」
「お前と同じ剣だよ」
ポンポンと剣を叩いている。
こっそり鑑定すると、『鉄の両刃剣』と表示されてた。
こっちは、刃を潰された物を渡されたのに!
ギリオンは、昇級試験受けに来た気に食わない奴を潰すのが生きがいなのか?
こんな腐った奴がギルド員とは、本当に嘆かわしい。
まだ、始まりの町の冒険者ギルドの方がマシである。
「私は模擬刀で、貴方は自前の真剣ですか。それは、物凄く不公平ですよ! いや、腕に自信が無いから私にハンデを追わせる為に、敢えて模擬刀を渡したんですね。ええ、分かってますとも。うだつの上がらない三十路元冒険者が、年下の小娘に良い様にコテンパンに伸されなければならない
のは相当苦痛なのでしょう。愛刀を使って、うっかり貴方を殺してしまったら困りますよね。ああ、この場合は私の勝利という事で問題ないのかしら? でもね、初めて使う獲物は使い勝手が分からないので壊しても責任が取れません。良いんですよ。私、全然気にしていませんから。寧ろ弱い者いじめになりかねませんよね。これくらいのハンデが無いと。不公平とは言いませんよ、ええ」
満面の笑みを浮かべてオブラートに煽るような言葉を言ったら、ギリオンは顔を真っ赤にしてわなわなと震えたかと思うと、苦虫を噛み潰した顔をして模擬用の剣に変えた。
言わなかったら、絶対真剣で切りかかってきたに違いない。
ショルダーバッグを部屋の隅に置き、部屋の中央でギリオンと向かい合う。
「構えろ。コインが落ちるのが、合図だ」
授業で習った剣道の構えをすると、ギリオンはコインを投げ落ちる前に切りかかってきた。
幾ら刃が潰れていても、一撃を受けたら絶対痛い。
不意打ち上等なギリオンの行動に、堪忍袋の緒が切れた。
隠密を発動させ、土魔法と水魔法を使って足元を泥濘を作り、行動を阻害する。
一瞬身体が揺れたのを好機と捉え、小手の要領で思いっきり手首をぶん殴る。
ギリオンは、無様に模擬剣を落とした。
そのまま、横っ面を思いっきり一回殴る。
対角線からもう一発お見舞すると、脳震盪を起こしたのか気絶してしまった。
所要時間3分。
カップラーメンが作れるぜ。
鑑定したら両腕骨折・脳震盪・気絶と出ている。
念のため、治癒を掛けてあげた私は優しい。
隅に置いていたショルダーバッグを回収し、部屋を出て一階の受付カウンターに戻った。
「すみません。昇級試験で、試験官を気絶させたんですけど。どうしたら良いですか?」
「え?」
「いや、だから試験官が気絶か死亡じゃないと試験終了にならないって言うから気絶させました」
再度同じことを言ったら、受付があわただしくなった。
こういう時は、嫌な予感しかしないんだよなぁ。