26.城塞都市セブール ※
自宅で一泊して、心身共に癒された。
早朝に24時間スーパーでレトルト食品や缶詰など大量に購入して準備は万全だ。
索敵・隠密を発動させてサイエスに戻ったら、太陽が顔を少し覗かせた時刻だった。
泊りがけでモンスターと戦っている冒険者か、モンスターそのものなら活動しているかもしれない。
それ以外の者は居ないというのは、非常に好都合だ。
人の目に触れず移動出来るのは、目的地に早く到着出来ると言うことに他ならない。
忘れ物が無いかショルダーバッグを開けたら、そこには居てはいけないモノが居た!
置いてきたはずの蛇達が、サクラを枕にしてデデンと居座っている!!
「ちょっ、お前らなんで居るんだよ!」
小声で蛇達に向かって脱走を問いただすと、
<そんなん決まってるやん。1人で楽しいことするなんて許さんでぇ>
と赤白が事もなげに言い放った。
その言い草に、私はガックリと肩を落とす。
命がけで戦っているのに……。
遊びに行っているんじゃないやい。
<うちは、美味しいもん食べたい>
紅白は、ぶれない。
一貫して食に執着している。
欲望に忠実なところから、少しは離れて欲しいものだ。
奔放な部分も、個性と思えば許容範囲と目を瞑るべきなのだろうか?
キュルルンとしたお目が可愛くて、
「くっ、あざと可愛い。……コホン、まず拾い食いはしない。私から離れない。私の言う事は絶対聞くこと。OK?」
と注意事項をツラツラ上げて、蛇達を甘やかしている自覚はある。
<しゃーない>
<文句はあらへんよ>
<了解ですの~>
良い返事が返ってきたが、食欲旺盛な三匹が私の目を盗んでモンスターを食べないか心配だ。
変な物を拾い食いして、お腹壊したり、吐き戻ししたり想像すると今すぐ引き戻したい衝動に駆られる。
不安しかないわ。
「今すぐ自宅に送り返したいけど、時間がないから一緒に来てもらうよ。絶対、鞄から出ない事」
と、念押しした。
後で、容子にメールで報告しておこう。
索敵範囲内には、モンスターも人も居ないのを確認した上で、原付バイクとヘルメットと色付き眼鏡をアイテムボックスから取出した。
完全に日が昇る前に、少しでもセブールの近くまで移動したい。
モンスターは須らく、時速61km/hで轢き殺されてドロップ品となり回収されるのだ。
「サクラ、結界張って頂戴な」
<聖域>
キラキラ光る原付バイクに跨り、エンジン全開で森の中を走った。
モンスターを轢き殺しては、原付バイクを止めてドロップ品を回収すること数十回。
モンスターと出会うエンカウント率高くありませんか?
ドロップと一緒に落としたお金が、銀貨275枚・銅貨1027枚・青銅貨1211枚だ。
昨日整理したお金は、別でだ!
やっぱり、私の悪運様が効果を発揮しているからなのだろうか?
某RPGのモンスターを集めるアイテムの効果と私の存在が被っている気がする。
邪神なら、やりかねない。
村を迂回して原付バイクを走らせること一時間弱。
漸く、セブールの街が見えてきた。
その頃には、日は登り朝日が燦々と降り注いでいる。
遠くからボーンっという鐘が聞こえ、腕時計を確認すると6時を示していた。
原付バイクから降り、アイテムボックスに収納する。
目視出来る距離だが、徒歩で行くとなるとれば目測で二時間弱といった所だろうか。
【メールだよ♪ メールだよ♪】
ネズミーの声音が、メールの着信を知らせてくれる。
ショルダーバッグに仕舞っていたスマートフォンを取り出し、メールの中身を確認した。
相手は容子からで、『必要なものは無いか?』だってさ。
私は、包丁サイズのタガーベルトを頼んでおく事にした。
ついでに、蛇達もサイエスに来ていることも報告しておく。
宿を取ったら、一度電話で話をした方が良いかな?
その前に、アイテムボックスから姿見を取り出して自分の恰好を確認する。
黒のジーパンに白のカッターシャツ、黒のフード付きジャケットとスニーカーといういで立ち。
冒険者とも商人とも旅人とも言い難い姿だ。
旅人を装うフードのついたローブを羽織った。
ゴスロリ要素が強いローブになったが、しかないがない。
手持ちが無いのだもの。
汚したら容子は怒るだろうが、清掃で汚れは綺麗に落ちる。
バレなければ良いのだ。
ローブに動きを阻害させないよう、右太ももはHK416Cカスタム、背中腰辺りにテーザー銃を装備。
銃のベルトは、愛用サイト・ママゾンで購入したよ!
そう言えば、サイエスでもスマートフォンは使用可能だ。
ネタ半分で検索エンジンに『セブール』と入力したら、ウィキ先生に掲載されていた、
しかし、いつも表示されるウィキ先生のレイアウトとは若干違う。
左上に未完成のパズルの球体が表示されるのだが、サイエスの世界地図が表示されていた。
画面をスクロールすると、セブールの歴史や領主の名前など情報が多すぎて目が滑る。
もしやと思い、地図アプリを立ち上げて『セブール』と入力すると、移動距離と到着までの大凡の時間・詳細な地図が表示された。 車なら15分、徒歩40分と表示されている。
う~ん、悩む。
歩いて行くのは疲れるし、かといって原付バイクで街の近くまで行くのは無理。
ここは、無難に自転車にしておこう。
聞かれたら、容子が作ったと言い張れば良いか。
鍛冶スキル持っているし、苦しい言い訳になるが十分誤魔化せるだろう。
この時、容子がドロップアイテムをくすねて、アクセサリーを作って一騒動起こすとは知る由もなかった。
魔物除けの薬を散布しながら、自転車を漕いでセブールの門前近くまでサイクリングだ。
自転車を漕いで30分ほどで、目的地に到着した。
良い運動になったわ。
アイテムボックスに自転車を収納して、そこから10分ほど徒歩で移動し門番に声を掛ける。
「すみません。街に入りたいんですけど」
「何用で街に来た」
ありゃ? 怪しまれている??
ギルドカードを提示して、
「始まりの町の冒険者ギルドマスターの紹介で昇級試験を受けに来ました」
と答えたら、紹介状の提示を求められた。
解せぬ。
逆らうのは得なしと判断し、素直に紹介状を渡した。
中身を検められ、滞在税銀貨6枚を請求された。
事前に情報収集して良かった。
銀貨6枚を渡し、街の中に入る。
この街の詳細な地図はないので、スマートフォンのググール先生頼りだ。
インターネットで『セブール・宿』で検索したら、何件かヒットした。
ちゃんと★で評価されている。コメントも掲載されており、食べログかとツッコミそうになった。
サイエスで、インターネットは存在しない。
恐らく利用者の感想が、ダイレクトにコメントとして認識され評価されたと考えた。
★が一番多い宿を選び、ミミルという宿屋を目指す。
門から歩いて30分。
結構歩いたと思う。
街というだけあって、かなり大きい。
移動も困難だ。
バスみたいに定期便の辻車とかないのかな?
あれば、絶対儲かるのに。
ヒイヒイ言いながら目的地の宿に辿り着いた。
「すみません。素泊まりで1週間お願いします」
「素泊まり一週間なら金貨4枚と銀貨2枚だよ」
始まりの町より一日の宿泊費が銀貨1枚多い。
やっぱり都会の宿は高いんだな。
「従魔も居ますが大丈夫ですか?」
「従魔? 見たところ居ないように見えるけど?」
対応してくれているおばちゃんは、首を傾げている。
鞄の中にいるから見えるわけないものね。
「この子達です」
「スライムとスネークか。暴れなければ一緒の部屋で過ごして良いよ。従魔の宿泊費は金貨2枚と銀貨1枚だ」
私の分と合わせると金貨6枚と銀貨3枚になる。
途中でモンスター狩りまくって良かった。
金貨6枚と銀貨3枚渡して、部屋の鍵を受け取った。
当てがわれた部屋に入り、内鍵を閉めて硬いベッドに腰を下ろし一息ついた。
所持金;金貨163枚・銀貨89309枚・銅貨29060枚・青銅貨1217枚/未確認の貨幣多数あり
冒険者ギルド預金:金貨1枚・銀貨11枚・銅貨16枚・青銅貨8枚
薬師ギルド預金:金貨3枚・銀貨1776枚・銅貨2550枚・青銅貨13450枚