21.初野営をやってみた
HELLO WORLD!
HELLO SAIES!
やってきました。
サイエスのどこか(空笑)
嘘です。
始まりの町を出て1時間くらい歩いた辺りの街道に生えている木の影に出ました。
こちらの時間では、23時13分。
夜に出歩く冒険者と鉢合わせするようなことが無くて良かった。
誰かに見られたら、面倒な事になりかねない。
「ほわぁぁぁ……本当に異世界だ。裏技を使って、世界を渡れるとかチート級じゃん」
「疑っていたんかい! 自宅からサイエスに来る場合、帰還した時の場所からのスタートになるからね。人に見られないように、細心の注意が必要なのさ」
「成程、確かにその考えは概ね同意する。自宅の鍵で戻った場所がセーブポイントになり、ロードする場合はその場所からとなる。能力は便利だけど、万能じゃない。人目がつかない場所を毎回探してというのも面倒だね」
流石、ゲーム脳。
理解が早くて助かる。
「野宿用にキャンプ用品を買っておいてくれたことには感謝している」
「うむ、感謝するが良い。それはそうと、あの明るい方って町じゃないの?」
遠目で見ても明が見える容子の視力の良さに、私は若干引いた。
「よく見えるね。私には、見えないよ」
「夜目が利くからね。話は戻すけど、あの町に行って宿を取れば良いんじゃない?」
容子の提案に、私は首を横に振った。
「無理だよ。セブールに行くと言って町を出発しているのに、戻ってどうするよ。それに、今のあんたのステータスでは町に入れないと思うよ。明らかに別の国から来ましたって感じの名前だし、私に契約されてる状態だからレベル上げして隠蔽スキル取得しないと。今日は、野宿だからね」
現状を懇切丁寧に指摘すると、容子はあっさりと納得した。
「確かに、私の存在は宥子の言う邪神にとってイレギュラーな存在だもんね。野宿に適した場所を探そう」
「そう言うと思って、幾つか目星を付けてある。戦闘は全力回避で進むから、魔物を見かけても手を出そうとしたりしないように」
私は、容子によーく言い含めて彼女の手を引きながら歩く。
魔物が寄ってこないように、容子のフードの中に魔物除けの薬を仕込んでおいたのは内緒だ。
街道から外れた森の中に入り、索敵・隠密・地図をフル活用して黙々と歩く。
三十分ほど歩いたところに、少し開けた場所があった。
LEDランプを木に吊るし、明かりを確保する。
「森の中で野営するのは良いけど、周囲に水場が無い場所でテント張って大丈夫?」
「水は、魔法で出せるよ。魔法で出した水を飲むのに抵抗があるなら、ペットボトルの水を飲めば? アイテムボックスに収納してあるし」
「魔力で作った水を飲料水にする発想は無かったわ。身体に影響はないなら、飲み水が確保できてコスト削減にもなるね!」
魔力で作った水が、身体に影響を及ぼすとは考えが及ばなかった。
私は、徐にアイテムボックスから紙コップを取り出して水魔法で水を生成する。
「水。鑑定」
魔法で生成した水を鑑定すると、『真水。飲料水にもなる』と出た。
「ひぇぇー! ま、まほう!? 凄い、凄いよ!! 魔法だよ」
目の前で魔法を使って見せたところで、容子のテンションが爆上がりしている。
「水魔法だよね? 私も出来るかな? それで、水は飲めるの?」
質問の荒しに、私はペシッと容子の頭を叩く。
「落ち着け。水魔法で水を出しただけだし。容子もレベル上げて、スキルポイントで魔法を取得すれば使えるようになるでしょう。魔法で生成された水は、真水です。飲料水にもなるって出てるから飲んでも、身体に害はないよ」
「水に掛かるコストが減るのは良い事だね! アウトドアグッズを出して。テントを張ろう」
アイテムボックスに収納されたアウトドア用品グッズを見ると、ずらっと並ぶ文字の羅列。
自動で翻訳されるので書かれた内容は分かるが、こうも多いと眼が滑る。
まずは、テントを出してみる。
コンパクトに畳まれているが、結構大きい。
取り扱い説明書には、折り畳み式で一瞬で開くタイプのものらしい。
「同じテントが2つあるんだけど、これ1人用テント?」
「3人用。1つは、トイレとして使う。簡易トイレも買ってあるから、それ設置して」
容子に言われる通り、テントを2つ出し、片方には簡易トイレを設置した。
本当に細かいところまで気が利くよ!
その辺りで野糞するんだと思ってから、容子の気遣いはありがたい。
地獄のポーション作りの合間に作った虫除け・魔物除け薬をキャンプ地一帯にまいて回る。
「何してんの?」
「魔物と虫よけの薬をまいてるの。貴重な睡眠時間を削りたくないで御座る」
睡眠薬を使っても、寝れない時は寝れない。
だから、寝れる時に寝るようにしている。
虫や魔物に私の貴重な睡眠を邪魔されたくない。
もし邪魔されたらブチ切れて、テーザー銃をぶっ放すと思う。
ノーコンだけど。
「ポーション以外にも売っているんだね」
「あ、うん……そうだね」
自分で作ったとは言わないでおこう。
品質について口を出されるとムカツクし。
「ご飯はどうする? 前に渡された食事が、まだアイテムボックスに残っているんだけど」
「じゃあ、作る必要がないね。じゃあ、それを食べる」
「何にする?」
食材の項目をタップすると、ずらりと並ぶお菓子やジュース、料理の数々。
「私は、海苔弁当にする。宥子は?」
「私は親子丼」
海苔弁当と親子丼、サクラのご飯はジャムパンで良いか。
アイテムボックスから取出し、折り畳み机の上に乗せていく。
「「頂きます!」」
LEDランタンをテーブルの中心に置き直し、簡易椅子の上に腰を下ろし向かい合って食事を始める。
私の隣には、ジャムパンを一生懸命袋を溶かして食べるサクラがいた。
一通り食事を済ませ、食後のお茶を用意して今後についての話をすることにした。
「容子、おさらいするよ。サイエスの1時間が、日本では7時間経過したことになる。ここまでは、OK?」
「うん」
「今後の活動方針だけど、セブールで冒険者ランクの昇級試験を受ける。容子は、冒険者登録をする」
「私が冒険者登録するのは分かる。ランクの昇給試験も一緒に受ければ問題なくない?」
容子の突拍子もない言い分に、私はこめかみを押さえる。
「何事にも順序があるでしょうが。実績もない新人を登録と同時に昇級させれば、周囲が変な勘違いを起こすでしょう。それで、要らぬ諍いに巻き込まれるのは御免被りたいの」
「じゃあ、暫くセブールを拠点で活動してレベル上げして昇級試験を受ければ問題ないよね?」
あっけらかんと宣う容子に、私は非常に残念なお知らせがあった。
「私の場合は、ギルド長の推薦を受けて昇級試験を受ける事になったからね。容子が、私と同じ方法で昇級試験を受けられる保証はないよ」
と釘を刺すと、容子が不満そうな顔でこちらを睨んでくる。
「即戦力になれば、レベルに見合うランクを貰えるんじゃないかな……多分」
「それも、そうだね。まずは、レベル上げに専念するよ」
「うん、そうしてくれると助かるな。ところで、容子は予定は大丈夫なの? 急にこっちに来ることになったし」
「うーん、特に重要な予定は入ってないから問題ないかな。明日から狩りをするんだよね?」
「勿論。レベル上げする気なんでしょう? この辺りは、来たことがないから出現するモンスターが分からない。だから、無理せず命大事を最優先で行動してね。その前に、まずはステータスの名前を変えた方が良いね。このままだと、町に入れないし」
「OK。ステータスオープン。宥子を見習って、マサコにするよ。契約されている状態だと、経験値は私と宥子の両方に分配されるのかな?」
私の助言を聞いた容子は、ステータスの名前欄を弄りマサコに変更している。
「その辺りは要確認かな。今日は、早めに寝て明日に備えよう」
寝るには遅すぎる気もするが、初めての異世界での野営だ。
テントの寝心地は期待していなかったが、ブルーシートの上に容子厳選の拘りマットが敷かれ、あまりにも寝心地が良くて直ぐに夢の中へと旅立った。