147.一時帰宅中
原付バイクの移動を選択して、正解だった。
セブールから一番近い村が、目と鼻の先にあるところまで見えている。
とはいえ、現在地から徒歩で移動すれば一時間程度かかるだろう。
「容子、ストップ! ここから先は、徒歩で移動しよう」
「何でさ?」
「村が、近いからだよ。目視できる場所まで原付バイクで移動するのは、色々と問題があるでしょう」
「確かに、原付バイクが乗り物だと認知しているのは私達くらいだ。知らない人からすれば、未知の存在として恐れられるのは容易に想像できる。徒歩で移動する理由は分かった。でも、疲れた」
原付バイクで移動出来た分距離も稼げたし、轢き殺したモンスターの経験値は美味しかった。
しかし、その分精神的にも肉体的にも疲労が溜まっている。
宥子が、原付バイクを止めて言った。
「このまま、ここで自宅に戻るか? それとも、一時間歩いて村で宿を取るか。容子は、どちらが良い?」
「宿で寝てみたい気持ちもあるけど、今は休息が欲しい。モンスターの脅威に晒されながら寝たくないで御座る」
宥子の作る魔物除け薬が、どれくらいの効果があるか分かならない。
スキルレベルが低い状態で作れば、高位のモンスターにはあまり意味がないように思う。
「了解。家に帰ろうか」
私達は、光る原付バイク二台とヘルメット二つをアイテムボックスに仕舞う。
宥子が自宅の鍵を取り出すと、玄関ドアが宙に浮かんで現れた。
何とも不思議な光景だ。
「点呼! 赤白、紅白、サクラ、容子。よしよし、皆いるね」
宥子は首に巻き付いていた赤白と紅白を虫かごに入れ、サクラをショルダーバッグの中に納めている。
それで良いのか、お前達。
自宅がどこでもドアみたいな状態になっている状況は、胸熱過ぎる!
一体どういう原理なのだろう?
バラしてみたい欲求に駆られて興味津々で玄関ドアの周りをグルグル回っていたら、
「誰かに見られたら面倒な事になるんだから、さっさと入って」
と言われ、襟を掴まれペイッと放り投げられた。
その拍子に、ズベッと玄関ですっ転ぶ。
地味に痛い。
「邪魔」
と言いながら、私の背中を踏みつけて中に入る事なくない?
「扱いが酷い! もっと真綿に包むように優しく扱えやゴルゥゥラアァァ!」
宥子の背中に怒声を飛ばしても、彼女は無視をきめ揉んでリビングへ行ってしまった。
「さっさと起きてリビングに来なよ」
玄関でいじけていても相手にされないと分かり、のっそりと身体を起こしリビングに向かう。
蛇達は、リビングに置いてあるズゲージの中に入っていた。
サクラは、宥子の肩から飛び降りてテーブルの上でコロコロしている。
宥子はというと、入手したドロップアイテムを整理していた。
「可愛い妹を踏みつけるなんて酷い! 暴力反対だ」
「退去勧告はした。居座ったお前が悪い。アイテムを整理している最中だから邪魔すんな」
「整理は大事だけど、それよりもっと大事な事があるでしょう。私も宥子と同じように、サイエスの一時間が日本では七時間経過した事になるのか。ちゃんと、検証するべきじゃない?」
容子の指摘に宥子は首を傾げている。
「容子は、私に契約されている状態なんだから同じように影響を受けているでしょう」
「裏技を正常と認識している世界が、正常を裏技と誤認識している可能性もあるでしょう!」
私の主張に、宥子は難しい顔をして沈黙した。
「容子、向こうでスマホ使えるよ。電話・メール・ネット、どれも使用可能だった」
「本気か! 念話が使用できる距離に制限があるのか分からないし、スマホでの連絡は最終手段だね」
ネットは使えると思っていたが、メールと電話まで出来るとは思わなかった。
ガッデムッと頭を抱えてのたうち回る私に対し、宥子は冷ややかな視線を私に送って来る。
サクラは私の悶絶が踊りに見えたらしく、身体を上下に伸縮させてリズミカルに踊っていた。
「明日は、どうする?」
村まで歩かなくてはならないなら、行きたくない。
あんな冒険は、懲り懲りだ。
「セブールに着いたら、私を迎えに来て」
と返すと、宥子はあっさりと了承した。
「私の用事を済ませて、任務をする体で街の外に出る。迎えは、その時になるよ」
「構わんよ」
「冒険者ギルドに登録はして貰うとして、他のギルドはどうする?」
冒険者以外のギルドへの登録は、正直考えていなかった。
身分証明をするだけなら冒険者ギルドだけで事足りるが、宥子の装備や装飾品を作る予定だ。
商業ギルドか、生産ギルドの所属が望ましいだろう。
その辺りは、追々考えよう。
「一週間も音信不通で家を空けたから、久世師匠に連絡取るわ。他のギルドと言われても分からないから、それは追々決める」
「OK。私は、明日セブールまで行って用事済ませてくる。多分、2~3週間は空けるだろうから、久世師匠にはそう伝えておいて。用事が長引きそうなら、メールするから」
「電話で良いけど?」
メールなんて面倒臭い事しなくても、電話一本くれれば良い話なのに、何言ってんだこの馬鹿姉は?
万が一見つかっても、『魔法道具』と言い張れば良いだけのことなのに。
変なところで、小心者なんだから。
「……誰も居ないところで電話してみる」
「ええーっ」
「じゃあ、電話もメールもなしで」
「分かったよ。誰も居ないところから電話して。私からの電話はOK?」
「即留守電に切り替わるように設定するからOKだよ。着歴見て連絡する」
「了解」
難しい話も終わり、私は早速サクラの身体をムニムニして遊んだ。