144.初戦闘は女王蜂
「容子、サクラご飯だよー」
テント外から宥子の声が聞こえてくる。
入稿前で寝不足なのだ。
もう少し寝かせてくれ。
そう思って二度寝に突入しようとしたら、
「容子、朝だよ。スープ冷めるよ!! おーきーてー」
と今度は耳元で宥子の声が聞こえてくる。
夢を見ずに寝落ちしたと思ったのに、夢に宥子が出てくるなんて最悪だ。
「起きろっつってんだろうがよ!」
と怒声と共に胸倉を掴み上げられて、バシバシバシと容赦ない往復ビンタを三発喰らった。
「いたっ、痛いぃ! ちょっ、朝っぱらから何すんのよ!」
夢だと思っていたのに、現実だったとはショックである。
しかも、思いっきりぶたれて頬が痛い。
「何度声掛けても起きないからでしょう。朝飯用意したから早く着替えて顔洗え」
宥子は、と言い残しテントから出て行った。
私監修厳選のマットのお陰で、久しぶりに熟睡して夢を見ず寝落ち出来るって最高♡ とか思ってたのに!
寝起きで、全て台無しだ。
腕時計で時刻を確認すると、丁度7時半を過ぎた頃だった。
3人用テントにダブルのマットを敷いて寝られるのは、存外贅沢な気もするが熟睡できる環境なら多少値が張っても良い買い物をした。
この状態のままアイテムボックスに収納すれば、取り出した時に同じ状態で使えるのではないかと閃いた。
宥子が収納する時に、助言してみよう。
私は白色のYシャツに白パンツに着替え、黒のスニーカーを履く。
防具を付けてないと、どこからどう見ても冒険者には見えないよね。
「この恰好で移動するのは、人目を惹きそうだわ。良くて、良いところのお嬢さん?」
根本的に、この世界の服ではないのだから仕方がない。
シャツとパンツが、一番周りから浮きにくいという理由だけで選んだ。
「セブールに入ったら、宥子に集ってケチらず現地の服や防具を購入した方が良いかも」
テントを出ると、簡易テーブルに朝食と思しき何かがあった。
それとは別に、氷水がはった洗面器と歯磨き&基礎化粧品セットがミニテーブルに置かれている。
至れり尽くせりとは、この事か?
歯を磨き顔を洗い、基礎化粧品セットで肌を整える。
ここは異世界。
ノーメイクでも大丈夫だろう。
身支度を整えて宥子のところに行くと、
ネズミーの季節限定丼ぶりにコーンフレークが入っており、サラダ皿にはいびつな大きさのレタスと生ハムが盛られていた。
3割引きシールが貼られたヨーグルドがテーブルに鎮座している。
「もうちょっと、優しく起こしてくれても良いじゃない」
と今朝の起こし方について苦情を入れると、
「十分優しいと思うけど? 誰かさんと違って弱っている腰を重点的に攻撃してこないだけマシよね」
ドスの利いた声で切り返された。
ジロリと睨まれて、私は明後日の方向目を逸らした。
態とやっていたのがバレてる!?
アイテムボックスから出てきたティーポットにはお湯が張ってあり、テーブルの上に置かれたコップにお湯を注いでいる。
「熱いから気を付けてね」
と注意を聴き流し、ヨーグルトをコンフレークの上に均等に載せながら思わず零れた本音。
「これが朝食ってしょぼくない?」
とボソッと呟いた本音に、宥子の目が釣り上がる。
「お前、目くそ鼻くそっていう諺があるだろう。この間、私にお茶漬けと冷凍から揚げを出したお前に言われたくない。黙って食え」
ガリザリとコーンフレークを噛み砕く音が、静かな森の中で異様な音を立てている。
怖い。
地雷踏んだなぁ。
どうやって話を変えようかと頭をフル回転していたら、宥子から話を振ってきたので、これ幸いと乗った。
「容子の言われた通り、部屋にあったママゾンの箱を片っ端から収納したけどさ。あんたの武器ってなんなの?」
「ガスガンのドラゴンフライとエアガンのM85」
と答えたら、宥子は頭を抱えて唸っている。
「それ絶対R18指定の奴でしょう」
「殺傷能力高いよ! 乱発出来るし、遠距離攻撃でズババンといけちゃう優れもの」
キメ顔で、ぶるんっと豊満な胸を揺らしながらドヤァと言って見たらネチネチ嫌味を言われた。。
「おい、ちょっと待て。容子、射撃スキルないでしょう。先日、射撃スキルを所持していなかった私に残弾数についてネチネチネチネチネチネチしつこく無駄遣いしたと罵ったことお覚えで? 何で、お前が、無駄弾使う発言しているの?」
理不尽と喚く宥子に対し、私は菩薩のような笑みを浮かべて諭す。
「この世の理は理不尽に満ち溢れているのだよ」
と。
自分の事棚に上げて言うのかというツッコミはNo thank youだぜ。
「私は剣術1があるから、接近戦で戦える。でも、容子は戦闘系スキルを所持していないんだよ。後方でドラゴンフライとM85を使われたら、接近戦している私まで銃の餌食になるでしょうが!!!」
「宥子は、テーザー銃とHK416Cカスタムを使いこなす練習すればいいだけでは? 索敵使って、敵の位置を特定場所に射程内から、どちらかがズドーンすれば問題なくない? 近接戦になった時は、私はサクラちゃんと一緒に木の上にでも非難するから存分に暴れてよ」
VRMMORPGゲームの要領で答えると、宥子は苦虫を噛み潰したような顔をした。
私の言うこと、一理あるな~とか思っているんだろうな。
宥子も近接戦で私を守りながら戦うのは無理だと分かっている。
「分かった。分かったよ。ポイント入手したら、速攻で射撃は取得してね」
「了解」
宥子からの了承は取りつけられた。
レベル上げするのが楽しみだ。
「まずは、これらを片づけようか」
と宥子はテントやテーブル、椅子をそのままアイテムボックスに収納した。
簡易トイレは、土魔法で穴を掘り埋めている。
そういう使い方もあるのか。
勉強になった。
野宿地を出発して十分。
宥子が索敵をフル活用して安全でモンスターが比較的少ないルートを選んで進んでいたが、彼女の悪運様が相変わらず良い仕事してくれていたらしい。
有難迷惑って言葉を知らないのだろうか?
「容子、キラービー達がこっちに気付いた! 連射出来るんだよね? 身代わり人形持ってる?」
キラービーの大群と遭遇した。
遠距離攻撃云々とか言っているレベルじゃない!
「勿論! 連射出来るから安心して。宥子は、HK416Cカスタムで一匹ずつ片づけて」
「了解!」
私は、適当にキラービーをM85とドラゴンフライで撃ち落としていく。
打ち漏らしは、宥子の援護射撃で今のところ無傷だ。
羽に当たれば地面に落ちて始末し易いのだが、そう簡単にはいかない。
宥子が、ダース単位でアイテムボックスから弾を出し足元に積み上げている。
ババババッと凄い速度で弾が減っているが、数が多すぎて追い付かない。
腹や足に当たったものは、怒ってこっちに近づいてくるので近距離で頭を狙い撃ち止めを刺す事に専念した。
キラービーとの交戦は、一時間ほど続いた。
最後は、気力と体力勝負ですよ。
敵の数も後数匹になり助かったと思ったら、女王蜂の登場だ。
「ですよねー! こうなると思ったよっ。容子は、女王蜂に向かって乱射! サクラは、容子に治癒。私は、雑魚を片付けてから加勢する」
宥子の指示の下、女王蜂に向かって最大火力でM85とドラゴンフライを浴びせる。
「りょ!」
サクラが宥子の肩から私のの肩へ移動しにきてくれたことで、治癒をかけて貰える。
無傷と言っても、大きな傷を負わなかっただけで小さな擦り傷や切り傷はあるのだ。
サクラの治癒で、気力も戻った気がする。
奮戦した甲斐もあって、キラービー達は一定の距離までしか近付けない。
耳障りな羽音に嫌そうな顔を浮かべながら、宥子が一発ずつテーザー銃で撃ち落としている。
最後に残った女王蜂は、宥子よりレベルが高い。
油断ならない相手だと悟る。
レベル差を考えれば、絶望的だが負ける気はしない。
大量のキラビーのお陰で、宥子の射撃の熟練度が上がった。
「科学の力を舐めんなぁあっ!」
テーザー銃を脳天叩き込み高圧電流を流したら、女王蜂は感電したのかピクピクと痙攣している。
「よし、容子。これで止め刺してこい」
宥子は、徐にアイテムボックスから取り出した包丁を私に手渡した。
「私が、殺るの? 女王蜂が、途中で動き出したら私死ぬんだけど」
「今は、麻痺で動けないから大丈夫。経験値欲しいんでしょう。魔法使えるようになりたいんでしょう。止めをさせば、多く経験値得られるかもしれないよ。ゲームを模した世界だけに」
そう言われると、殺るしかないじゃないか。
嫌そうな顔で包丁を片手に女王蜂の頸を斬り落とした。
頸を斬り落とすまで時間を要し、いつ女王蜂の麻痺が解けるのか冷や冷やしたが、倒せたので結果オーライか。
もう二度とこんな糞ゲーはごめんだ。。
死骸がドロップ品に変わり、私が用意した洗濯籠にドロップ品拾って入れる。
蜂蜜や毒針、羽なんかが沢山ドロップされている中、お金も落ちている。
一際大きな石が転がっているのを宥子が見つけ、見せて貰うとそれはオパールみたいで綺麗な宝石だった。
宥子の鑑定によると、女王蜂の心臓と出た。
ロイヤルゼリーや蜂の子(死骸)も手に入り、思わず笑みが零れる。
散らばったドロップ品とお金を全て集め終えて、アイテムボックスに収納すると戦利品は以下の通りとなった。
蜂の羽×1068枚
蜂の子(死骸)×302匹
ロイヤルゼリー×102個
毒針×534個
黄色の魔石(小)×32個
青い魔石(小)×28個
赤い魔石(中)×3個
赤い魔石(大)×1個
女王蜂の心臓×1個
金貨153枚
銀貨89034枚
銅貨28032枚
日本円で総額93,367,200円か。
二人+一匹で戦って、得たお金としては安すぎる。
素材が、どれくらいの値で売れるか期待したいところだ。
赤い魔石(大)は、恐らく女王蜂の魔石だろう。
あの魔石で、何が作れるだろうか。
防具の素材として使いたい。
しかし、改めて見るとエグイな。
宥子の援護がなければ死んでいた。
弾も爆買いも良い判断だったと今では言える。
無駄撃ちしても何とか生き残れたのが証拠だ。
虫よけと魔物除けの薬を蒔いて貰い、私達は一息吐くことにした。
さてさて、ステータスはどうなっているのやら。