142.テイムさせました
昼食が出来上がった頃に、宥子が返ってきた。
「ただいまー」
「お帰り。昼食出来てるよ」
と台所から顔を出して声を掛ける。
テーブルの上には、豆腐サラダと親子丼、ワカメの味噌汁が並べてある。
宥子は、欠伸を噛みしめながら席に着き、
「頂きます」
と言って、昼食にありついた。
「病院の先生は何て?」
と問うと、
「次回は、採血とレントゲンしましょうだって。診療代も馬鹿にならないしなぁ」
と今後も通院しなければならないと言う。
貯蓄も心もとないし、何とかしてお金を稼がねば。
「容子は、サイエスから売れそうなものを仕入れてきて。私は、フリマサイトやネットオークションで売り捌いてみる。それが軌道に乗れば、会社を興して仕事にしてしまえば良いし。蛇達の世話は、私がするから安心して稼いできてね!」
宥子の口ぶりからして、日本での社会復帰を諦めている様子だ。
「ごめん、もう眠気がMAXなの。寝かせて。残りは、後で食べる」
宥子は頭をフラフラさせながら、自室に戻って行った。
私は、食べかけの食器にラップをして冷蔵庫に放り込む。
行儀が悪いと怒りたいが、命懸けで冒険をしてきている宥子に言える言葉じゃない。
私は、彼女が目が覚めるまでの間、遅々として進まなかった執筆作業に取り掛かった。
宥子が惰眠を貪り目を覚ました頃には、空は赤く染まっていた。
私もいつの間にか、執筆中に眠りこけていたようだ。
時刻を見ると壁時計の短針が4を指している。
時刻は、16時と少し回っていた。
「…きて……起きてってば! 容子、いい加減に起きろっ!!」
宥子の声が聞こえたかと思うと、肩をガシッと掴みにされ高速で前後左右に揺さぶられる。
往復ビンタのおまけ付きで起こされた。
「うぅ……はよっ? 痛い…何で叩かれてんの、私??」
往復ビンタされた事実に、理不尽と言いたげに不機嫌な顔で宥子を睨みつける。
「起こせって用件をメモにして、おいたんでしょーがっ! というか、あのダンボール箱の量は何? 無職がいるのに、散財とか馬鹿か?」
メモ書きを突き付けて文句を言う宥子に、
「ああ、悪い悪い。すっかり、忘れてたわ。ダンボール箱については、久世師匠の援助だから気にしなくて良いよ」
とダンボールの出どころを喋ると、最後の一言に宥子は顔を顰めた。
「容子、話しちゃったの?」
「口止めされなかったし。師匠も向こうの世界が気になるみたい。最低限の生活費を援助して貰う代わりに、私も宥子に同行して向こうの世界に行くことにしたから。というわけで、私を契約して」
私単体では、サイエスに渡れなかった。
宥子のスキルに契約がある。
私が宥子に契約されれば、サイエスに渡れる可能性があるのだ。
久世の狙いは、多分そこだと思う。
異世界の珍しいものを手に入れれば、高く買うと言うのだ。
無職一名と売れない小説家の二人で生活するには、最低限稼がなくてはならない。
裏稼業だって、毎回仕事が回されるわけではないのだ。
安定した収入を確保できるように動くのは、当然のことだろう。
「何が、というわけなの? 日中の仕事はどうする気? 容子を下僕にしても、私にメリットが無いんだけど。嫌だよ。お前を養うなんて無理! 絶対無理ぃ!!」
必死に無理無理と連呼する宥子に、
「勿論、日中の仕事は辞めたよ。最低限の保証もされたからね。私と宥子は、久世師匠のところで雇われる形になったから。それに、私も向こうの世界に興味あるんだ。進んで宥子の下僕になりたいわけじゃないけど、契約することで世界を渡れると思ったんだよ」
と真面目に返す。
「アンタ、異世界に来るの? 本気で? ドMなの?」
と言われ、無言でアイアンクローしてやった。
「物は試しだし、やってダメなら諦めるよ。確認したい事もあるし!!」
「……分かった。人にする魔法じゃないから、失敗しても文句言わないでね」
「分かってる」
食事を終えた宥子は、私の前に立ち魔法を展開させた。
結論から言うと、契約は成功した。
それも、すんなりと出来てしまった。
「うそ……出来た」
宥子は出来ないと思っていたようだが、彼女のステータスボードのスキル欄に契約∞と表示されていたのでイケると思ったのだ。
「じゃあ、私のスキルってどうなってるか知りたい。ステータス画面見せて!!」
「そっちが目的だったのか!?」
「ステータスオープンと唱えれば、自分のステータスを確認出来るよ」
「そこは、ゲーム通りなんだね。ステータスオープン」
---------STATUS---------
名前:未設定(琴陵 容子)
種族:人族
職業:社畜
レベル:1
年齢:25歳
体力:8
魔力:11
筋力:5
防御:6
知能:20
速度:1
運 :10
■装備:綿のパジャマ
■スキル:縁切り・料理4
■ギフト:なし
■称 号:ヒロコの従魔
■加護:須佐之男命・櫛稲田姫命
■ボーナスポイント:0pt
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「職業が、社畜って酷い! てか、スキルが縁切りと料理かぁ。ポイントが入ったら、回復系と鍛冶師のスキル取得したい。職業の変更できるかな?」
生産系のスキルが欲しい。
職業は回復職か、プリーストが良いな。
「ナニコレ……」
私のステータスを見て、宥子が絶望した顔をしている。
何で最初からスキルを持っているんだよ、と言いたげな顔だ。
私は、そんな彼女を気にも留めず異世界へ行く準備を始めた。
「ちょっと服着替えてくる! レッツ異世界ライフ♪」
黒のパンク系で纏めた恰好に着替え、腰にはドラゴンフライとエアガンM85を装備している。
宥子が放心している間に、私はは原付バイクの燃料残量を確認しに外に出た。
ガソリンは、ほぼ満タンに入っている。
給油の必要はなさそうだ。
「容子準備はできた? 時計の針を合わせるよ」
宥子に声を掛け、私はペンダント型の時計の針を合わせている。
呆然としている宥子を急かし、私は原付バイクと事前に用意していたキャリーケースをアイテムボックスに収納してサイエスへ旅立った。