140.悪魔が金をむしり取れと囁いた 後編
白米にレンチンした唐揚げ三つ、インスタント味噌汁が宥子のご飯である。
「容子、漬物は?」
「無いよ。後、納豆もふりかけも無いからね」
宥子が居ないのに、漬物なんてもっての外。
消費が追い付かないから、買わない一択だ。
「おかずが無いなら、ご飯のお供くらい用意して欲しい」
おかずなら唐揚げがあるじゃないかと思ったが、ツッコミを入れると面倒臭いことになるから誤魔化した。
「お前、いつ帰って来るか分からないじゃん。ご飯のお供が欲しいなら、これでもかけて食え」
ご飯のお供と五月蠅いので、個包装された鰹節と醤油を差し出すと怒られた。
「私は、猫じゃない!」
「美味しいよ? 猫まんま」
鰹節を引っ込めようとしたら、宥子はそれを無言で引ったくる。
ご飯の上に鰹節を振りかけて、醤油を少し垂らして食べている。
最初から、文句を言わずに猫まんまで我慢しとけよ。
私は、サクラにチョコボールを与えるので手一杯だ。
チョコボールを与えられたサクラは、身体を高速でブルブル震わせている。
手の中にあった箱に、サクラがニューッと身体を触手のように伸ばしているのを見ると、どうやらチョコボールはお気に召したらしい。
「宥子のステータス見せてくれない?」
私の言葉に宥子は、渋々従いステータスを見せた。
「ー……ちょい待ち。ステータスオープン」
彼女がそう発すると、目の前にステータス画面が表示される。
何度見ても不思議な光景だ。
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名前:ヒロコ(琴陵 宥子)
種族:人族[異世界人]
レベル:38
年齢:18歳[25歳]
体力:130→152
魔力:220→260
筋力:87→90
防御:68→71
知能:110→118
速度:62→71
運 :650→1030
■装備:黒のYシャツ・黒のパンツ・白のソックス
■スキル:縁結び・契約∞・剣術11・索敵1[7]・[隠ぺい7]・[隠密7]・魔力操作1・初級魔法1(全属性)・生活魔法1
■ギフト:全言語能力最適化・アイテムボックス・鑑定・経験値倍化・成長促進
■称号:なし
■加護:なし[須佐之男命・櫛稲田姫命]
[■ボーナスポイント:370→2060pt]
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「結構レベル上がったね。サバ読み過ぎてワロス。にしても、射撃系のスキル取ってなかったんだね。残弾数は?」
サバ読みを指摘したら、宥子は胸を押さえて呻いている。
心にダメージを負うなら、最初からサバを読むなよ。
「宥子お姉ちゃん?? ほら、言ってみ?」
追及すると、宥子の額に冷汗が溢れ視線があらぬ方向を向いている。
宥子は、首を横に振りだんまりを決め込んだ。
私は、ニッコリとドス黒い笑みを浮かべる。
「ッ……確かに無駄打ちしたよ。しましたよ! でも、始まりの町周辺で使うとオーバーキルになるの。弾は殆ど残ってるし、そんな顔される筋合いはない! 大体、取得前に容子が勝手に購入して押し付けてきたんでしょう。無駄打ちに怒られる筋合いは無い」
逆ギレに近い回答に、私は思わず大きなため息を零した。
「射撃系スキルを取得させなかった私の落ち度だね。今からでも良いから、スキル取得しろ。取得出来るスキルの一覧見せて」
「へーい」
宥子が取得できるスキルの一覧を見せて貰う。
射撃・狙撃・ロングショット・カウターショット・ホークアイ。
保有しているポイントなら、どれも取得可能だが一番手頃で伸びしろがありそうな射撃が良いだろう。
「取得するなら、射撃だね。渡した武器は、どれも近接戦闘用だから他は、現時点では不要かな。ポイントが勿体ないし。それから、調合のスキル取得してね」
私の言葉に、宥子は不思議そうな顔をしたが、射撃1と調合1を取得した。
二つ合わせて400PT消費しただけで済んだ。
ポイントは、出来るだけ節約しておかないと。
サイエスでは、何が起こるか分からない。
有事の際のために残しておくのが得策だろう。
「残弾数に注意して使用してよね。後、予備のバッテリー交換はマメに行うこと。はい、新しいの。一週間分のご飯とおやつ」
物資を渡すと、宥子は黙々とアイテムボックスに収納した。
「そうそう、蔵入りになっている付録類は向こうで売ってきてね。女性が好きそうな巾着と小型ハンカチは、ギルドのお姉さん中心に渡して媚売ってこい。レベル上げよりもスキルに慣れるのが、当面の課題だから。自力で上位スキルに派生させな」
「言っていることは分かるけど、ギルドに媚びうる必要あるの?」
「何事にも円満な関係を築くための投資だよ」
「ふーん。まあ、良いけどさ。何で調合スキルを取らせたの?」
「調合出来れば、自前でポーション作れるでしょう。それに、調合スキルで化粧品作れば売れると思うんだよね。というわけで、化粧品の材料揃えてあるから! 向こうで作ってこい。宥子が熟睡している間に、スマホ弄って関連動画をダウンロードしておいたよ。電波なしでも視聴できるから安心してね。もし、良品が出来たら持って帰ってきてよ。私が使うから!」
「前半は分かるけど、後半は完全に容子の願望だよね。妹よ、お前は私をどうしたいんだ?」
「手に職があると、どこでも生きていけるんだよ。戻ってきた時には、ソーラーパネル搭載の充電器が届くと思うから、当面はこの充電器を持って行って頂戴。大丈夫、一週間は持つ! 向こうの世界と日本の時間を測る為に、この時計をあげる」
災害用として随分昔に購入したSe〇koのゴツイ腕時計を渡す。
GMT搭載された時計なので、サイエスと日本の時差を計る事が可能だろう。
「出来上がった化粧水やポーション用入れ物は、あっちの箱に纏めてあるから。そのまま持って行って。今いる所って始まりの町なんだよね? どのギルドに登録したの? 何か役職とか就いてたりする?」
と問いかけると、
「まだ始まりの町にいる。冒険者ギルドと薬師ギルドに登録したけど、駆けだしだから役職も何もないよ」
と答えられた。
宥子は、それぞれのギルドで作ったカードを私に見せた。
「読めない! まあ、いいや。他にも町があるなら、王都もあるでしょう。ポーションは実質無料になるから、行く先々でポーションを売る事も出来るね。調合スキルが上がれば、ハイポーションのレシピも手に入るかもだよ! 宥子のレベルなら、始まりの町は用済みでしょう。売り物も適当に売って、さっさと次の町に行きなよ。強過ぎると面倒事を引き寄せちゃうからね」
私の忠告に対し、宥子は憮然とした顔をした。
何故に?
「ポーション受け取ったら、次の町へ出発する予定。じゃあ、行ってくるね」
宥子は、サクラを鞄の中に回収してサイエスへと出発した。