139.悪魔は金をむしり取れと囁いた 前編
宥子を異世界に送り出し、新たな武器の制作に励む今日この頃。
最近は、蛇達の機嫌が悪い。
蛇達こと紅白と赤白は、親馬鹿と言われようとも贔屓目に見ても超絶可愛い。
彼等はヤンチャで元気が取りえなのだが、数日前からずっと巣ごもりをしている。
いつもは巣に籠らず水辺でゴロゴロしたり、巣の上に乗っていたりと自由気ままに過ごしている。
「巣から出てないねぇ。水交換の時は手に纏わりつくのに今日もしないの?」
巣から出てこない二匹に声を掛けてみるが、プイっと顔を背けられた。
悲しい。
餌の日でもないため二匹の水交換を終えてハンドリングしようとしたら、スルスルと二匹に逃げられた。
「せっちゃん、こうちゃん、どうしてよぉぉ?? もう触らせてくれなくなって、三日も経過しているんだよ? 私とっても悲しい!」
おんおんとゲージに泣き縋るも、二匹は相変わらずプイっと顔を背け続けている。
その時、宥子がスライムを契約しているとは私は知る由も無かった。
二匹に避けられている間も時間は過ぎていくというもので、絶賛引き籠りで執筆活動生活をしていた。
宥子は一週間で帰ってくるって言ったが、待てど暮らせど一週間経っても帰って来ない。
生死の心配はしてないが、サイエスで何か問題でも起こしたのだろうか?
「同じ食事だと飽きる」
食卓を見てウンザリとした。
予定通りに帰宅しないので、こうやって私が二人分のご飯を食べる羽目になるんだ。
あの馬鹿め、帰ったらお仕置きだ!
こうして宥子が戻るまでの間、腹いせに食事の作り置き及び不要な荷物などを纏めに掛った。
そんなこんなで時間を潰していると、
「ただいまー」
と呑気な宥子の帰宅の声が聞こえて来た。
「この馬鹿姉!! 何が一週間くらいだ。もう十二日だ! 三日前に作った二人分の夕飯が無駄になったじゃないの。翌日、私のお腹に消えたけど! 二日続けて同じもの食べさせられるのは勘弁してよねっ」
日頃の恨み辛みを込めて、ギューギューッと腰にしがみつき、宥子は身体を仰け反らせ悶絶している。
「ぎゃぁああっ! 痛い痛いっ。止めて! 遅れたのは、色々事情があるんだよ。不可抗力だぞ、妹よ」
バシバシと私の背中を叩き、ベリッと引っぺがした。
宥子の腰が悪化しようと私は気にしない。
ポーション飲んで治すが良い。
何度でも同じことをしてやる。
「何があったか話すから、リビングに移動しよう。ご飯も食べたいし」
食事、食事と言いながらリビングに移動する宥子に対し、
「お茶漬で良い?」
と告げたら、この世の終わりかってぐらいな表情をされた。
解せぬ。
「私は、夕飯まだなんだよ。お腹にたまるものが食べたい」
何、頓珍漢な事をほざいているんだ?
私は、時計を指さして言った。
「今何時だと思ってんの? 15時だよ。まだ夕飯作ってないし。冷凍のから揚げチンしてあげるがから、それで我慢しな」
と告げるも、不満顔で渋々それを受け入れた。
「はぁい」
もし駄々を捏ねたら飯抜きにしたろうと思ったんだけど、こういう所は察しが良いんだよね。
「シャワー浴びてくるわ」
言い終えると、宥子はそそくさと風呂場へ逃げた。
「その間に用意しとくよ。10分以内に上がって来てね」
「了解」
宥子は、ショルダーバッグをソファーに置いて風呂場へ向かった。
私は、ショルダーバックをソファーの隅に置き直そうとして手を掛けたら、中から可愛い物体が顔を出した。
「ん、ギャーーーーーーーーーーーナニコレ、超可愛いんですけどっ!!! 名前あるのかな? 何かもちもちしているし、しかも桜色だからサクラちゃんね!!」
私がサクラを掌に載せて頬ずりていると、シャワーを浴びていた筈の宥子が血相を変えて飛んで来た。
「……さっきの悲鳴は何?」
「いやぁ、あまりにも可愛くって。これスライム? 何かピンクで可愛いんですけど!」
蛇達にも劣らないツルツル感、そして弾力のあるもちもち感が堪りません。
ぬふふふっと変な笑いをした私に対し、宥子はドン引きしていた。
失礼な奴である。
「ヒールベビースライムって種族だよ。今日、菓子パン食べているとき出て来て餌付けしたら契約させられた」
その時の光景を思い出したのか、宥子はガックリと肩を落としている。
「へー、甘いの好きなんだね。じゃあ、クッキーとか食べるかな?」
宥子のご飯よりも、サクラにお菓子を与える方が優先順位が高い。
「妹よ、私のから揚げは? 後お茶」
と無粋な声が掛かった。
「自分で用意しなよ。私は、サクラちゃんにご飯あげるので手が離せないの」
と返せば、文句という名の抗議を受けた。
宥子をマルっと無視して、私はサクラにメロメロしている。
「ビールは?」
宥子からビールの催促をされ、私は眉間に皺を寄せる。
私は、ビールを飲まない。
「ああ、高いから発泡酒で我慢して」
「ビール買えるくらいのお金はあるでしょう?」
「あるけど、異世界で活動していくんだから装備にお金かかるじゃん。節約出来るところはしないと! だから、今後は発泡酒ね」
酒と女とバクチに金を使う奴は、碌な奴がいない。
異論は認めないと笑顔のプレッシャーをかければ、
「うぃっす」
と良い子のお返事を返してきた。
うむ、素直で宜しい。
駄々を捏ねた分だけ、飯が質素になるのをちゃんと理解出来たんだな。
学習は、大事である。
「サクラを契約した時に、サクラの感情が流れ込んできたんだけど。赤白ちゃんと紅白ちゃんからは、何も感じないんだよねぇ」
宥子はゲージの中を見つめるが、二匹とも住処に籠って出てこない。
何となくだが、サクラを契約したせいで二匹が拗ねたんじゃなかろうか。
「嫌われてるんじゃないの?」
私も、ここ数日は無視されているんだ。
お前も同じ気持ち味わっとけ、とばかりに宥子を放置。
私は、サクラにせっせとクッキーを与えている。
サクラも美味しいのか、時折身体を震わせながら食べていた。
超萌えである。
正義は我が手に有り!!
可愛いは正義!
一通り食べ終えて片付けも済ませた宥子が、
「そろそろサクラを返してくれない? ひと眠りしたらサイエスに出かけるから」
と無慈悲な事を言ったので、思わずチッと舌打ちしてしまった。
宥子は、聞こえているはずなのに聞こえない振りをしている。
渡さない選択肢もあったのだが、サクラを困らせるのは本意ではないので、仕方なく、仕方なく! サクラを宥子に渡した。
蛇達に挨拶しても相手にされなかった宥子は、哀愁を漂わせ自室に戻っていった。
宥子が寝入った後、私は宥子が持って行く物を準備をした。
弾や火炎瓶、プラスチック爆弾が積み込まれたダンボール箱と、一週間分の食事とおやつの入った紙袋。
首からかけるパスケースに、サイエスで換金できそうなゴミという名の雑誌付録の数々を用意してから、私もひと眠りすることにした。
私が目を覚まして、仮眠を取ってから半日は経過していた。
しかし、宥子は起きてこなかった。
「何時まで寝てるんじゃボケーーーーーーーーーーーィ!!」
ベットに駆け寄り、宥子の腰に向かってダイブする。
「グギャッ………」
と蛙を潰したような声が聞こえたが無視だ。
「いい加減起きろ! いつまで寝てるつもりだ!!」
「ギィヤーァッ!!……起きた、起きました! 私の上から退いてくれ!!!」
宥子の腹の上に乗って強制的に起こしたが、こうでもしないと二度寝を決め込むので、多少手荒に起こすのは仕方がない。
犠牲は腰だけで済むのだから、安い物だろう。
「おはよう。サクラちゃん出しな」
スッと手を差し出したら、何を思ったのかお手をしてきやがった。
無言で頭を鷲掴みにすれば、宥子は声にならない悲鳴を上げた。
「お寝ぼけさんかな? サクラちゃんを出しな……」
容赦なく掴んだ頭をギリギリと締め上げる。
すると、宥子はサッとサクラを私に差し出してきた。
サクラを見て、思わずデレっとした顔になる。
「ご飯出来てるから早く来なよ」
私は、身支度を整えてさっさと飯食えとばかりにリビング行きを促した。
私は一足先にご飯を食べ、蛇達の世話をしている。
私は、リビングに移動してこれからの事を考える。
宥子に渡す物資、サイエスの情報収集。
この二つは、最優先事項だ。
安定してお金を稼ぐ方法も見つけなければならない。
手始めに、ポーションは自作して貰おう。
化粧水作りなら、彼女にも出来るだろう。
化粧水作りでスキルが生えればラッキー、ポイントでスキルを取得させる方法もありだ。
その前に、宥子のステータスを確認しなくては。