130.まだまだ続くよ、強化合宿
容子一行が、帰ってきた。
両手にネズミの国の袋を引っ提げて。
彼らの手の中には、福袋があった。
私だって欲しかったのにぃぃぃい!
「容子ぉぉお!! 遅いと思ったら、ネズミの国で遊んで来たのか!!?」
容子の胸倉を掴み往復ビンタをお見舞いしてやると、
「五月蠅い! 良いじゃん。免許取るついでに、自分の金でまったり休暇を取っても。ずーっと、働き詰めだったんだから、それくらい許される」
と言い返された。
そんなものは、言い訳にはなりません!
「私はなっ! 地獄の強化合宿してたんだぞ!? しかも、書類付きでなっ!!」
実務研修どころではなく、一週間全てが戦闘訓練になった。
お蔭で、王国を守る兵士達よりも強い。
平均レベルが、150台という偉業を成し遂げた。
私のレベルより上のモンスターの襲撃に、休む暇も与えられることなく戦闘を繰り返した結果である。
連携もばっちりだし、一人でもワイバーンくらい狩れるくらい強くなったと思う。
それもこれも、アンナのせいなんだけどね!
「提案したのは、アンナでしょう。アンナに采配の権利渡した時点で、こうなる事は予想出来たのに、今更何言ってんの!?」
容子に事実を指摘され、思わず崩れ落ちた。
私は、ダンダンと床を叩きながら悔し泣きしたよ。
「私も落ちて自腹になったけどな」
唯一の救いは、私を馬鹿にした容子も運転免許証を取得できなかったという点だ。
容子にまで免許取得されていたら、二度と立ち直れない。
どうせ落ちる試験だったのなら、私も旨いもの食べて可愛いネズミの国のグッズを買い漁り、福袋爆買いを満喫したかった。
容子は、私が育て上げた精鋭の情報が記された書類を見て言った。
「結構な人数で強化合宿したのか。丁度、神社の補充要員が欲しかったし、少し回してよ。神職系のスキルを持つ人材は、沢山いた方が良い。他の地で神社建設する予定でしょう? 人手は、多い方が良い。アンナ、こいつ等のレベルは最低基準達してると思って良いか?」
「大丈夫です。きちんと躾してあります」
どんな躾だよ!
強化合宿から帰って、私は四日間の休暇を貰った直後に日本へ逃亡していた。
空白の四日で、実務経験を積ませたとでもいうのか?
アンナ、お前は一体どこを目指しているんだ。
「そうか、なら実践投入しても大丈夫だね」
「そうですね。実践投入して落ちた者は、クビでどうでしょうか?」
「ふるいを掛けるのは、必要だしね。脱落者が何人でるか楽しみだ。今の所は、奪略者0人なんでしょう? 神職系スキル持ちを実践投入して、活躍出来なかった無能は不要って事で良いよね!」
容子は、数を数えながら仮雇用のメンバー達のプロフィールを確認している。
「アンナ、男爵令嬢の四女のリゼル・フォーマットをこっちに回して。特別強化合宿してレベル200まで底上げする」
「分かりました。他に何名か優秀な候補生を預けても宜しいですか?」
「構わないよ。強化合宿参加者に同意書を書いて貰う際に、書類に『死んでも自己責任となります』の一文は記載してね。口頭でも了承を取ること。ワイバーン狩りに行くから、三馬鹿の貸し出し宜しく」
私を丸っと無視して、容子はアンナと話を詰めている。
社長は私なのに、本当お前ら一体どこを目指しているんだ。
何事にも程々が良いのに、やり過ぎて折角育てた人材を使い潰してくれるなよ。
恨みがましい目で二人を見たが、華麗に無視された。
ムカついたのでお正月限定のネズミの国グッズをパチろうとしたら、するりと身を翻され容子は颯爽とアトリエに籠りやがった。
「宥子様、これが次の育成予定の書類です」
ドサッと置かれた書類の束は十センチどころの話ではない。
100万円の札束が二十束あるくらいの厚さだ。
「ちょっ、無理無理! 帰って来たばかりなんですけど!? てか、Cremaにそれだけ人を雇う余裕はないんですけど」
「何言っているんですか。ありますよ。宥子様の化粧品・容子様の装飾品は、王室御用達になってます。宥子様の商業ギルドランクもSランクまで上がってます。昇級の手続きは、代わりに行っておきましたからご安心下さい。化粧品の特許料もありますし、売り上げも好調。お布施も順調に集まってますから、この程度なら全然問題なく雇えます。強化合宿に残った者を更に実務研修で篩に掛けて、最後まで残った者だけ雇います。精々1/3が残れば良しでしょう」
この束を持って隊を編成し、更に強化合宿をしろというのか!
「嫌だ! 私は、この間やったばかりだよ。アンナが、強化合宿してきてよ!!」
「私は、実務の教官ですので無理です。後任育てるなら、自ら率先してやって下さい。後、後任育ている間も仕事はして下さいね」
職場放棄すんじゃねーぞゴルゥアア! と暗に言われた。
最後まで抵抗してみたけど、誰も助けてくれず、結局第二回目になる強化合宿をすることになった。
助手にニックが付き、会社名義で購入していた大型バス車で移動となった。
長距離移動出来るようになったのは嬉しいが、これはない。
強化合宿をするためにバスを買ったり、免許を取得したわけじゃないのに!!
バス移動では、ヘレンとニックも運転手として駆り出されていた。
アンナの奴、どこまでも用意周到なんだ。
少し遠出して。高レベルモンスターが多数目撃されている森に置き去りにされた。
「くっそぅぅうう、覚えてろー」
走り去るバスの後ろ目掛けて吠える私をよそに、助手のニックが合宿の概要を説明していた。
「ヒロコ様、やることやれば早く帰れますよ」
「分かってる。分かってるけど……ムカつく! 何で私ばっかり働かなきゃならんのさ。給料増やせやゴルゥアア!」
発狂する私に何を言っても通じないと判断したニックは、拠点のキャンプ設置を指示している。
動揺する仮雇用の面々にニックが、
「あれは何時もの事だから放置して良い」
と言い放った。
「会頭なのに給与制なんですか?」
という疑問に、ニックは深く頷いた。
「固定給で1ヵ月金貨20枚+役職手当金貨20枚だそうだ」
「あの求人票は嘘ということですか?」
「いや、本当だ。ヒロコ様曰く、雇用主が金を持ってたらダメになるが信条らしくてな。給与だけみれば低いが、有能な部下には、賞与や色々な手当が付けられる。必要なスキルを取得したら、手当が増える。一番稼いでいるのは、アンナ殿だな。月に金貨60~100枚貰っていると聞いた」
「そんなにもですか!?」
近衛騎士ですら、そんなに貰えない。金貨20枚あれば良い方である。
「Cremaは、実力主義だ。成果を叩き出せば、努力次第で給与の額が変わる。新人だろうが、古参だろうが関係なくな」
そこまで言うと、皆のやる気が目に見えて変わった。
獲物を探すハイエナのようだ。
「ヒロコ様、さっさと立ち直って仕事して下さい。アンナ殿に給与カットされますよ」
「はっ! そんなんされたら、欲しいのが買えなくなる」
ニックの言葉に、私は我に返った。
「皆、気合入れて強化合宿を乗り切るよ! どうせ、私が居たら高レベルモンスターの入れ食い状態になる。向こうから寄って来るから、迎撃するだけの簡単なお仕事です。チームワークが第一! チームワーク乱す奴は、即死ぬから気を付けるように」
「「「「「はい!!!」」」」
気合の入った良いお返事。
こうして、強化合宿第二弾が幕を開けた。
早く仕事を押し付けて、旅に出たい。
私は、心底本気で望んだ。
国外逃亡を!!