125.自動車免許証は必須だよね
運転免許証を取得するため、取得可能な人は全員参加を決めた。
しかし、全員一緒に行うのは無理と判断して三班に分けて行うこととした。
一班は、ヘレン・ニック・レナ・ハンス・アンナ。
二班は、ジョン・マリー・イスパハン・私。
三班は、ボブ・キャロル・ルーシー・容子。
一班から順番に交代で合宿に行き、免許取得することが新年初の課題である。
無事免許取得出来た者には、毎月特別手当が加算されると告げたら皆のテンションが上がった。
お金の力は偉大なり。
資格取得の補助として、免許取得に必要な費用は全て会社の経費で落ちるようにした。
「じゃあ、まずは一班から行って貰おうかな。全員、大型免許取得するように! 最低でも普通免許は取得してね」
合宿十六日、合宿先で真面目に勉強していれば取得出来る。
サクッと受かって戻って来てもらいたい。
そう思いながら第一班を送り出した。
食事も寝床も付いて、受講料が一人16万円なら安いものだ。
サイエスの時間で換算したら約三日で取得となる。
「一班が戻ってきたら、次は第二班な。最後は、私達の班で〆る」
「了解。つか、全員に運転免許証を取得させても意味なくね?」
誰か一人、二人の取得で良いじゃんと返された。
「チッチッチ! 全員車の免許が取れれば、車買える。そしたら、大勢での移動も可能になる。これ、結構重要じゃない? 移動も楽になるし、運転疲れしたら交代も出来る」
指を横に振りながら、ドヤ顔で答えたら蛆虫を見るような目で見られた。
解せぬ。
「言いたいことは分かった。要は、大勢で楽して大移動出来るようにしたいんだね」
私の言いたい事を容子が、簡潔にまとめてくれた。
大体合っているけど、私の思惑とは少し違うことは言わないでおく。
「アンナ、サイエスと地球の行き来は、パンジーがスペアキーを持ってる。念話でパンジーに呼びかければ、繋いでくれるから安心して行って来て」
「分かりました。準備が出来次第、出発します」
「頼む。何かあったら、スマホに連絡すること。容子は、今日どうすんの? お守りの売上順調なんでしょう?」
神社は、盛大に賑わっている。
治癒院も兼ねているから仕方がないが、それ以上に安く鑑定をしてくれるとの振込で、自分の素養を知りたい者達が押し寄せているらしい。
お守りの効果も噂を呼んでいるのか、遠方から来る人も多いのだとか。
毎日完売らしく、近隣の宿は満員御礼とウハウハしていると聞いた。
「まあな。付与師が育ってきてるから、量産も可能だけどさ。求める人が多すぎて、生産が追いつかない状態だね」
今、神社があるのは王都だけ。
王都が賑わうのは悪いことではないが、集中しすぎるのも困りものである。
「その問題については、地道にハルモニア王国全土に神社建て捲って解消するしかないな。各領の主都に神社を建てれば、良いんじゃない?」
「一理あるけど、ご神体に天罰下された貴族の領には建てたくない」
「罰当たりな事をした領主の領地は、候補から外せば良いだけの話だよ。そして、領民から恨み買えば面白い事になりそうだ」
他でも神社を建てれば、お守りの需要も追いつくだろう。
「今日は、キヨちゃん連れて神社を視察してくる。容子の今日の予定は?」
「リオン達を連れて不用品回収に行ってくる」
容子達が、不用品という名のお宝を回収しまくっているのを知っているぞ。
若手の細工師や鍛冶師の卵に、アレンジを加えて売りに出している。
リサイクル品には、Crema♳の文字を入れている。
流石に容子印を入れる事は出来ない。
それでも元が良いものなので、結構な値段で売買されている。
見習い諸君には、衣食住+給与が与えられている。
見習いなので普通の人よりは安いが、散財しなければ貯蓄できるくらいの額は渡している。
将来独り立ちするもよし、Cremaの正規従業員になるも良し。
それは、本人に任せている。
「問題が起きそうなら念話してや」
「了解」
朝食後、紅唐白を肩に乗せながら神社へと移動。
何度浮遊してと言っても聞いてくれず、抱っこしないと分かった途端、首に纏わりつくように体をくっつけて両肩でバランスを取りながら居座った。
引きはがすのも面倒臭くなったので、そのまま放置している。
バランスを取りながら、のっそりと歩きながら神社に向かうと、境内を掃除していた禰宜が出迎えてくれた。
「ヒロコ様、紅唐白様もお早う御座います」
「お早う。仕事を放りだして、飛んでこなくても良いのに」
キュ~と気の抜けた鳴き声をBGMにしながら、社務所へと寄った。
別嬪な巫女さんが勢ぞろいして、恭しく挨拶をしてくれた。
「「「お早う御座います」」」
「皆さん、お早う御座います。今日も、気張って無理なく一日を過ごしましょう」
「「「「はい!」」」」
「キュウ!」
何か違う声が混じってたが、気にし……ない!
神社の寄り合い室で、ボーッと紅唐白と日向ぼっこをしている。
と言うのは、嘘です。
来る人来る人を鑑定して、Cremaにスカウトしようとしています。
参拝客六割は、本当にすがりに来てる人。
二割は、興味半分。
更に二割が、神罰を受けて叩き出される人である。
紅唐白の存在も珍しく、有難がり拝む人もいるが気にしない。
しかし、珍しいだけあって買おうとしたり、奪おうとする輩もいた。
今、まさに絶賛絡まれ中です。
「このワシが、その珍しい生き物を買ってやろうと言っておるのだ! さっさと寄越せ」
身なりはそれなりに良いが、物凄く横柄かつ高圧的な態度で紅唐白を奪おうとしてきた。
紅唐白は危機を察知し、私の服の中に潜り込んだ。
襟が伸びてしまった。
新しい服に買い替えだな。
取敢えず、目の前の糞爺を何とかせねばなるまい。
「は? 何罰当たりなこと言ってんだよ、テメーは。キヨちゃんは、私の子なの。神様の使徒なの。大体買うって何? 物じゃねーし。これ以上不敬を働くなら天罰落とすぞ」
警告はしたが、そんなもので諦めるような輩ではなかった。
「良いから寄越せ! 下賤な輩が、ワシに指図して良いと思っているのか!」
「思ってますけど? ここは、神聖な場所なんで身分とか関係なく悪漢には天罰下されますよ」
「ワシは、貴族だぞ!」
「だから? 王族だろうと、貴族だろうとこの場では何の役にも立ちません。神社に関しては、陛下も平等ですよと祝賀会の時にお伝えしてます。陛下は、それを受け入れてくれました。その上で、傍若無人な振舞いをするんですか?」
ハッと鼻で嗤ったら、爺は顔を真っ赤にして杖を振り上げた。
その時、ビシャーンッと雷が糞爺の上に落ちた。
死んではいないが、瀕死の状態である。
「キヨちゃん、まだ落として良いとは言ってない」
「キュー!!」
怒り心頭と言わんばかりに、首元から顔を覗かせて威嚇している紅唐白。
可愛いんだけど、やることが過激すぎる。
「そこのお連れの人、早くこの人どっかにやって。キヨちゃんが、興奮してこの人の関係者全員に手当たり次第に天罰落とす事になる」
武士の情けとばかりに、ポーション(劣)を振りかけておいた。
これで死ぬことはないだろう。
爺の護衛共は、ヒィィィイーと悲鳴を上げている。
糞爺を担いで去るお貴族様(笑)にpgrしてたら、拍手喝采が起こった。
どーもどーもと、片手を上げて拍手に応えた。
紅唐白も良い仕事をしてくれたと思っていたら、容子から念話が入った。
『姉ちゃん、回収先で幽霊物件タダで貰えるって!!』
『本気か!?』
『うん。先方が、早々に屋敷を処分したいそうだよ。処分後の屋敷は、Cremaが運営する児童施設になる契約を交わして良いかな?』
『OK牧場! でも、屋敷の浄化と掃除は容子が責任持ってやれよ!』
『大人組貸してくれ』
『はいはい』
児童施設に在籍している子供達が、貴族・豪商を回ってゴミを集めているとは聞いていたけれど、事故物件をリサイクルに出す輩が居るとは思わなかったよ。
後から返品要求してくる輩が出ないとも限らないので、その辺りはしっかり念書を書かせている。
聖魔法・神聖魔法の適性がある奴らの訓練として、事故物件を片っ端から買い取って浄化させる仕事を振るのもありかもしれない。
拠点は、多い方が良いもんね!
私は紅唐白と暫く神社でまったりしつつ、時々天罰という名の雷を落として良さげな人を見つけては、手あたり次第に声を掛け捲り、雇用契約を結んでいた。