122.情勢整理
鑑定道具が欲しいねとポロッと口にしたら、容子が制作したいから紅唐白の素材をクレクレしてきた。
「お姉様、紅唐白ちゃんの素材頂けませんか? 後生、絶対に生かしてみせますから!」
「アホか。キヨちゃんは、天照大御神様の神使見習いです。素材扱いすんな。お断りします」
私に対して敬語を使うから何かと思えば、なんて罰当たりなことを言い出すんだ。
「だってお前、紅唐白ちゃんの母ちゃんやん。息子に頼んでくれれば済む話でしょう。神格を上げる手伝いの一環と思えば安いものだと思うんですけど。看破まで届かなくても、それなり良い鑑定具が出来るよ。打倒マーライオン!」
楽白の看破までいかなくとも、それに近いものはあっても良いかもしれない。
確実にアーラマンユ教をじわじわと窮地に追いやれるのは、非常に美味しい話だ。
「……仕方がない。駄目元でお願いしてみる。期待はするな。後、マーライオンじゃないから。アーラマンユな」
「OK、OK。素材貰ったらアトリエに届けてね!」
それだけ言い残すと、容子は颯爽と去って行った。
紅唐白が、素直に素材提供してくれるかだ。
カルテットと白朱、イスパハンを連れてアトリエに籠った容子を尻目に、紅唐白を見やる。
「キヨちゃんの鱗を数枚欲しいから貰えないかな?」
じーっと目を見つめていたら、ぷいっと顔を反らされた。
そう簡単には貰えないだろうなぁ……。
「今日一日オフだし、お早うからお休みまで抱っこしてあげるよ?」
何時もは、お家でお留守番だから寂しい思いもしているだろう。
王家のパーティーに行くときでさえ、嫌々と駄々を捏ねてたもんなぁ。
「一緒にお昼寝したり出来るのにな~」
本当? と目で訴えてくる紅唐白の身体をゆっくり撫でる。
すると、前足で尻尾辺りの鱗をそぎ落としてくれた。
鱗が5枚とは太っ腹だね。
「キヨちゃん、ありがとう♡ 今日は、ずーっと一緒にいようね」
抱っこ紐で紅唐白を抱えながら、容子のアトリエに向かった。
「容子、キヨちゃんが鱗提供してくれたよ。大切に、余すことなく、無駄なく使うように。もし、鱗が余ったら即時返還を求める。ネコババは許さん」
「おお、姉ちゃん流石! 余った鱗は即時返還させて頂きます!」
キリッとした顔で鱗を受け取り、容子はカルテット達と何やら相談し始めだした。
変な物を作らないと良いが、こればかりは私の手に負えるものじゃないし、任せるしかないかと容子のアトリエを出た。
紅唐白を抱っこしながら、情報収集していたワウルから祝賀パーティーで収集した情報の報告を聞き出していた。
「――てな感じっすね。後、ダリエラは失脚して、レオンハルトが新たにセブールのギルマスに就任したっす。はじまりの町は、冒険者ギルド本部から新たにギルドマスターが送られたみたいっすよ」
報告を聞きながら、情報を整理していく。
貴族の中には、アーラマンユ教に対する反発は大なり小なりあるみたいだ。
成人前に祝福と称して大金を出させ、ステータスを確認する行事が貴族間では通例だそうだ。
祝福とは別にお布施もクレクレされている為、下級貴族では将来有望そうな者だけにしか祝福を受けさせないのだとか。
庶民は、基本縁がなく冒険者はギルドカードで大まかなステータスが確認出来るようになっているから生活に支障はない。
冷夏で秋の収穫が落ち込んでいる地域もあり、年を越すのも厳しい領もある。
そういう所は、国に借金するか農耕が盛んな領に頼るかし冬を越すが、返済の目途が立たなければ没落する一方だと。
ハルモニア王国は比較的平和な国ではあるが、北に軍事国家アトラマント帝国、西に技術大国ジェリダン共和国、東に海軍随一の東方海連合、南に魔法武装国家ナリス国と囲まれて、南北の国境付近では小競り合い多発。
ジェリダン共和国と東方海連邦とは、交易をして経済を回しているが芳しくない。
自由自治区のアーラマンユ総本山がきな臭い動きをしている。
アーラマンユ教は、各国に強力な発言力を持っている。
一国分の軍事力を保有しているとか。
自治区の維持費は、祝福に対するお布施や治癒で大金を巻き上げて賄っている。
アーラマンユ神以外の神は認めないとのことで、人至上主義を掲げている。
獣人やエルフなどは、全て魔族と分類し差別している。
特にエルフは貴重らしく、見目麗しいので性奴隷として狩られることが多い。
奴隷にエルフがいるだけでも、裕福と見られ一種のステータスらしい。
物騒な事からどうでも良い事まで、幅広く浅く情報をかき集めて来るワウルに金一封を渡した。
情報料の対価である。
私が産まれた地球も、世界全体で見れば糞ばかりだ。
この世界も、地球と大差ない。
奴隷制度がある時点で、糞さは跳ね上がったがな!
「報告お疲れ様。三日休暇やるから、羽伸ばして良いよ」
ひらひらと手を振ったら、ワウルは肩を竦めて談話室から出て行った。
机をペンでトントン叩きながら、今後の方針を考える。
アーラマンユに対抗する勢力になる必要がある。
この国は、その足掛かりにさせて貰おう。
陛下が、容子のバングルの買取を行ったのは軍備強化したい思惑もあるのだろう。
軍事国家のアトラマント帝国や魔法武装国家ナリス国に落ちていたら、もっと酷い扱いを受けていたかもしれない。
獣人たちと交流を取り良好な関係を結びたいものだが、いかせん彼らがどこにいるか分からない。
奴隷ではなく、集落単位で仲良くしたい。
彼らの地位向上も必要になってくるだろう。
人以外の存在が生きにくいのは、何百年も先を見据えればマイナス要素だ。
「今後の方針第一弾は、アーラマンユの勢力をそぎ落とすに決まりだな!」
今後の方針が決まったところで、容子が天照大御神のご神体を持ってきた。
鑑定してみると、『神罰も落とすでマルっとお見通し天照大御神様の像』と出てきた。
「容子、あんた何てもん作ってんのじゃ!」
「ご神体を模した鑑定具だけど? 大丈夫、盗難防止用の機能がガッツリ搭載されているから。色々と便利な機能満載で、盗もうとしても盗めないよ」
良い仕事したわ、とキラっ歯を見せて笑顔を向けられた。
思わずイラと来たので、ハリセンでド突ついた私は悪くない。
痛い痛いと喚いていたが暫く無視したら、容子はパンジーにお菓子を集りに行った。
私はアンナにご神体の相談をし、白熱な討論が繰り返された。