118.アーラマンユの使徒が現れた
王家主催パーティーに、私・アンナ・容子・ワウルの四名が参加することになった。
容子には、絶対口を開くな、愛想笑いもするなと厳命したよ。
ワウルは、情報収集に特化したスキルを所持している為、強制参加させている。
容子に突貫で衣装を依頼したら、着物を用意された。
私は、赤の絹地に大輪の牡丹を金色の糸で刺繍されてる。
アンナは、黒の絹地に椿の金刺繍が施された一品だ。
容子は、翠の絹地に蝶を金刺繍されている。
和柄のパーティバックも、それぞれ同じ素材を使用していて綺麗だった。
不満があるとすれば、
「アンナの草履には、小回復付与してあるよ。靴擦れしても直ぐ回復するから痛くない」
とアンナばかりを優遇している点である。
「私の草履にも、同じものを要求する!!」
と文句を言ったら、
「着慣れてる奴には不要だろう。ピンヒールで行くなら、イスハパンと一緒に一から作り直すけど?」
と返された。
履きなれないピンヒールに変更されては堪らない。
「履きなれていても疲れる時は疲れるんだから。保険として、付与してくれても良いじゃん。チョコッと弄るだけでしょう」
これから精神的・肉体的に疲れる場所に乗り込むんだから、ちょっとは労わってくれよ。
「……チッ」
あ、文句を言ったら着物まで取り上げられそうだ。
引き際なので、私はサッと目を逸らして押し黙る。
「各自着替えと顔を作ったらリビングに集合!」
と言われ、解散となった。
「アンナの着付は、私がするね」
「ありがとう御座います」
襦袢を着てから、化粧に取り掛かる。
万が一、白粉が着物に付着したら困るからだ。
清掃を使えば問題ないが、形は大事である。
Your Tubeで磨いた詐欺化粧テクを存分に生かして、妖艶美女(笑)を作る。
アンナも薄化粧して準備が整った。
「髪も纏めようか。折角だし簪で纏めよう。着物に映えるしな」
お宝の簪をテーブルに並べて、着物に似合う簪を選んでいく。
初心者用のU簪と一本簪を選んだ。
色は、浅黄色から緑葉色へグラデーションになっている硝子の簪だ。
髪をセットして、飾り簪も付けて最後に出来栄えを鏡でチェックする。
我ながら、惚れ惚れする腕前だ。
アンナを着せ終えて、私も着物を着る。
定番の太鼓帯は、黒帯に赤い帯紐が差し色になっている。
帯留めは、屑魔石を埋め込み土台になっている銀の部分は、太陽を模して作られた一品である。
抗菌・防水の魔法が付与されているので、万が一着物を汚すことがあっても大丈夫だろう。
容子から貰ったアイテムバックと化したパーティーバッグに、武器と招待状を入れて鏡で身だしなみの最終チェックを行う。
よし! と気合を入れて部屋の外に出たら、玄関先が騒がしいことに気付いた。
「何かあったのかな?」
「行ってみましょう」
アンナと共に、転ばないように気を付けながら楚々と移動を開始する。
入口でブチ切れ気味の容子と、喚くおっさんがいた。
丁度、マリーが傍に居たので状況を聞き出したら以下の通りだった。
私達が築いた財産を差し出し、看板商品を無償で提供しろとのことだった。
「許可なく癒しや施しを振る舞うとは何事か!! スラムには業があるのだ! それを勝手に手を出して、邪神の信徒にするなど創造神アーラマンユ様への冒涜であるぞ! 何が太陽神だ。邪神を勝手に崇め広めよって。許さんぞ! 大司教様もお怒りだ!」
大司教なんて知らんがな。
大体宗派違うし、スラムを無視してた分際が、今更いちゃもん付けにくるなよ。
「あらあら困ったお人ですなぁ。率直に言って何がお望みなのかねぇ?」
丁寧な言葉でニコニコしているが、目が笑ってないぞ妹よ。
「お前達を特別に創造神アーラマンユ様の使徒とし帰化させてやろう。その代わり、お前達が持っている財はこの度の不義理に対し没収とする。尚、ポーション他、扱っている全てを創造神アーラマンユ様の供物とせよ。案ずるな創造神アーラマンユ様は素晴らしいのだ!」
集りじゃなく強盗か。
よし、排除しても問題ないな。
「ほうほう、お宅の神様は格の高い唯一無二の一柱なのですねぇ」
「そうだ! 創造神アーラマンユ様は偉大なのだ。そして、使徒であるテーゼも偉いのだぞ! 異教徒であったお前達が作った物は、質も性能も悪くはなかった。重宝してやろうと申しておるのだ」
「それは、どうもありがとうさん」
容子よ、最早敬語すら使ってない。
あれは、完全にブチ切れているよ。
容子の嫌味も効かない[[rb:テーゼ一行 > アーラマンユ教徒]]は、皆クレクレ集団なんだろうか。
必死で築き上げたものをくれてやるほど、私は愚かで慈善的な人間じゃないのだよ。
「「さて、私達も用があるのでお暇して貰いましょうか」」
と、容子と言葉がシンクロしてしまったが気にしない。
笑みを消し、無表情でアーラマンユ教徒を睨みつける。
<宥子、後は宜しく~>
<了解。サクッと外に摘まみだすよ>
念話でバトンタッチされたので、遠慮なくボコることにした。
「先ほどからお話を聞いておりましたが、この国では新興宗教を立ち上げてはならないという法律はありませんでしてよ。それに、スラムの住人は殆どが私の従業員ですわ。わたくしの故郷の神を祭ってはならないなどという掟はありませんもの。どこで何をしようが、貴方がたには関係なくて? それに、助けが必要な時に見捨てたアーラマンユ教を信仰しようと思いますか? 別に使徒になりたいとも思いませんし、わたくし達の財産を根こそぎ奪おうだなんて何て厚かましいのかしら。いつから、アーラマンユ教は強奪者になったのでしょうか? 大体、癒しの魔法は素養があれば誰でもなれましてよ。勿論、スラム出身の者でもね。わたくし達の利益を阻害するのであれば、それ相応の報復はお覚悟なさいませ」
パンパンと2回手を叩き、ハンスが出てきた。
「お帰りですわ。送って差し上げて」
物凄く嫌そうな顔で是と返された。
うちの子たちは、アーラマンユ嫌いが進んでるね。
筆頭が私だから、影響されたのかな?
「嗚呼、忘れてました。道中お気をつけて」
ひらひらと手を振って、使徒を見送った。
その後、盛大に悪態を吐いた。
「何やねん! あの腐った野郎は。人が必死で築いた財産を奪うとか、本気でキチガイなんですけど」
「仕方ない。あれは話が通じないキチ集団だった。最近、教徒がこっちに流れてきてるって専らの噂だから、偵察も兼ねていたんじゃない?」
「お布施不要で治癒や薬を格安で出してますからね。上級ポーションもアーラマンユ教よりも安く手に入りますし。あちらとしては、目の上のたん瘤なんでしょうね」
そりゃ絡んでくるな。
信仰心が薄れて神通力低下が目論見だし、あわよくばアーラマンユ教自体が廃れてくれると尚良しである。
「あのアホ教徒のせいで時間食ったし、急いで出発しないと時間に間に合わん」
「ほんまに要らん事しかせーへんよな」
「では、参りましょうか」
既に到着していた迎えの馬車に謝罪して、超特急でお城へと向かって貰った。