117.王家の使い
容子が、アンナを抱き込んで新年会を企画しているのを直前になって知った。
私を通したら「お金が~」ってなるから、直接Cremaの金庫番に直訴したんだろうね。
十二月はクリスマスと大晦日、一月は正月、二月はバレンタイン、三月は女の子の節句、四月はイースター、五月は男の子の節句、七月は七夕、八月はお盆、九月は旧盆、十月はお月見、十一月は神在祭。
一年通したら、殆どがお祭りやん。
この調子だと、何やかんや言って行事を開催しそうな勢いだ。
これを商機と考えても良いが、如何せんお金が掛かる。
採算が取れない行事は、アンナに言って費用を容子の給与から天引きするように言っておこう。
言い出しっぺは容子だし、それくらい覚悟しているよね!
元旦は、餅つき大会と並行してお節料理会が大盛況だった。
新年会の参加者全員に、中級火魔法が発動するウサギのチャームを大量に配っていた。
元手は、ほぼタダと言い張っている。。
容子は、最近新たにスキル・錬金術を獲得したらしい。
レベル上げの為に、各ギルドを回って空になった屑魔石を回収して日本で仕入れた合金を加工した錬成して作ったとか。
会社のお金に手を付けてなければ良い。
チャームは、無限に魔法を打てるわけではなく、回数制限が付いているのである種のお守りみたいになっている。
施設の子供達とチルドル・ジャックにお年玉を配り、アンナと共にお得意様へ挨拶回りをした。
各ギルド長が集まると壮観だね。
今後、お世話になるかもしれない生産ギルドのギルドマスターも招待した。
面識はないが、商業ギルドが間に入ってくれてたので、ちゃんと来てくれて良かった。
「初めまして、生産ギルドマスターのケント様ですね。楽しんで頂けてますか?」
焼酎のグラスを片手に声を掛けると、
「ああ、旨い酒に旨いご馳走です。更に中級火魔法が使えるチャームまで頂いて、本当に良かったのですかな」
お年玉チャームを見せながら、訊ねてくるケントに営業スマイルを浮かべて言った。
「祝い事は皆で分かち合うものですから、楽しんで頂ければ幸いです」
「このチャームを作ったのは、貴女ですかな?」
「いいえ、私の妹です。私は、薬師なので装飾などは出来ませんよ」
オホホホッとお上品に笑ってみせるが、巨大な猫を被るのは滅茶苦茶しんどい。
「妹殿に生産ギルドに勧誘したいものだ。これなら、特許も取れるだろう」
ウサギのチャームに興味深々なのか、色んな角度から眺めている。
職人気質なのか、探求心が旺盛だ。
悪いことではないが、今は控えて欲しい。
「それについては、妹に話しておきます」
加入するかしないかは、本人の意思次第。
武器でなければ、特許申請しても良いかもしれない。
「ジョン様も、マリオン様も是非楽しんで行って下さいね」
「ありがとう。そうさせて貰うよ」
「悪いな。こんなに旨いものを食わせて貰って。新年早々、楽しみが増えたぜ」
バクバクと御節料理を食べまくるジョンに対し、マリオンはお酒を楽しんでいる。
色々なアルコールを取り揃えているので、ちゃんぽんして酔いつぶれないと良いのだが、見ている限り大丈夫だろう。
和やかに今年の抱負を語っていると、容子から念話が入った。
『姉ちゃん、何か王家からの使者が来た!! 私らを王家のパーティに招待したいんだって!』
『何でやねん!?』
『知らんがな! 今、待たせてるから主催者側まで戻って来て!!』
『了解。直ぐ戻るから粗相すんなよ!』
面倒臭いのが来たな!!
貴族関係がちょっかい出してくるかもと思ってたら、本丸が釣れたのは予想外だわ。
容子には、隙は見せるなと釘をさしておく。
「済みません。少し席を離しますので、この後も楽しんで下さいね」
と中座の挨拶をして、かなり速足で容子の元へ向かった。
容子を目視できる場所までくると、彼女の傍に機能性皆無で高そうな服を着た慇懃無礼なおっさんが居た。
恰好からするに、金を持っている貴族のようだ。
「初めまして、私はCremaの総責任者のヒロコと申します」
「貴女が、ヒロコ殿か。お噂は、王家にも届いておりますぞ」
と返された。
うわぁ、面倒臭い。
私の所業が筒抜けってことかー。
どこまで認知しているのか知らないけど、警戒したことに越したことはない。
「ありがとう御座います。王族の方にも認知頂けるとは光栄ですわ」
全然嬉しくないけどな!
「それで、今回はどのようなご用向きで?」
容子からの念話で大体把握しているが、相手は念話が使えることは知らないので問いかけてみた。
「どうぞ」
と差し出された上質な手紙を受け取る。
中を確認すると、王家主催の晩餐会への招待状だった。
王印が、ダメ押しで捺印されている。
受け取りたくなかったわ。
見なかった事に出来ないかな?
「私のような庶民が参加するのは、不相応なのではありませんこと?」
「新進気鋭の商人と名高いヒロコ様が、スラムを救って下さった事を王は甚く感謝なさっておいでです。心ばかりのお礼をしたいと王はお考えのようです」
ニコニコと退路を断ってくるおっさんに殺意が沸いた。
招待とは名ばかりの王命である。
遠まわしのお断りも華麗に無視されてしまった。
「分かりました。お伺い致しますわ。妹と護衛として従業員を何人か連れて行っても宜しくて?」
「ええ、構いません」
言質は取った。
アーラマンユ教の事があるが、まずは王家の方から片付けよう。
王家の狙いも確認したいし、不利益が出るなら手を回して痛手を負って貰う。
物理的に潰すのは容易いが、それをしちゃったら人として駄目な気がする。
それは、最後の切り札として取っておこう。
「では、晩餐会の日に馬車を遣わせます」
「ご丁寧にありがとう御座います。楽しみにしておりますわ」
王家の使者は、シャンパングラスをテーブルに置いて立ち去って行った。
気を抜いたら足を掬われていた。
これは、気を引き締めてかからないと。
容子には、余計な事をせず黙っておくことに徹して貰おう。
夜会当日、アーラマンユ教の教徒が押しかけてひと悶着起こる事になろうとは、誰も予想していなかった。