115.縁もたけなわ
日本では、三が日が過ぎ仕事始めの日がやってきた。
そう一月四日だ。
こぞって福袋を出す会社が多いが、Cremaではしない。
大体、福袋って昨年の余りものの詰め合わせじゃん。
所謂、在庫処分の名目を福袋と誤魔化しているだけである。
それを買う人は、貧乏性なんだと某起業家が言っていた。
経営者の立場になって、その気持ちが理解出来るようになったが。
私も福袋を買っちゃう人側の人間なので、貧乏性の部類に入る。
アンナに至っては、福袋に興味津々でネット予約していた。
コスメ・アクセサリー・アパレルとジャンルは色々あった。
大半が、ブランド品の福袋だったのはアンナたる所以か。
使わなければ、フリマサイトに出品すれば良いだけの話だ。
自分の好みじゃなくても、誰か一人くらい好みが合う人がいるかもしれない。
拡張空間ホームの経験値が溜まり、新たな機能が解放された。
フォルダの自動振り分け・検索機能・鍵 付き機能の出現に狂喜乱舞している。
これで、物を探す時間も短縮される。
容子の様に、物を適当に放り込んでいるわけではない。
今の私は、スーツではなくカンガルーポケットの付いたラフ過ぎる格好でCrema本店で新年の挨拶をしている。
「今年も一年、無病息災で元気よくガッツリ稼ぎましょう! 自分まらどんな接客をすれば購入したいと思えるか考えて行動してね。数字が全てではないが、売れた分だけ給与に反映されます。ガッツリ稼いで仕事もプライベートも楽しみましょう。新年の挨拶は以上です」
ヒーヒーフーとラマーズ法をしながら上段から降りる。
「社長のお言葉通り、皆で楽しく稼ぎましょう。福袋こそありませんが、年末年始お休みだったので開店を心待ちにされているお客様もいらっしゃるでしょう。暫く忙しい日々が続くと思いますが、それも一過性のことです。頑張って下さい」
私の挨拶に引き継ぎ、アンナが社員に発破をかけている。
社員の視線が、私のお腹にいっているのが非常に気になる。
多分懐妊したと思われているんだろうなー。
二十五歳で処女で御座る。
魔女が確定しているので、このまま三十歳過ぎたら大魔女になれるんじゃなかろうか?
果ては、大魔導師になるかもしれない。
なんて阿呆なことをつらつら考えながら、祝賀会に出席した。
大いに騒ぎ賑わった後、社員たちは目まぐるしい勢いで開店準備をしていた。
私は、裏口の階段を五階まで上り、そこからサイエスの自宅へと戻ったのだった。
サイエスでは、丁度クリスマスの時期だった。
日本で結構過ごしていたのに、この時差。
本当面倒臭いね。
「クリスマスコフレも順調に売れてるし、やっぱりクリスマス会したい!!」
と容子が、また面倒臭いことを言い出した。
クリスマスコフレで、私はお腹がいっぱいなんだが?
それにそんな事したら、アーラマンユ教が何を言ってくるか分からないじゃないか。
自衛出来るよう護身術を三馬鹿に指導して貰っているが、指導した期間は短い。
素人同然の人を盾に取られたら、それこそ面倒な事になる。
「宥子様、クリスマス会の開催の許可をぉぉ! 施設の子供達も喜ぶと思うで? 楽しい事は、皆で分かち合わないと」
容子の癖に、時々良いことを言う。
提案事態は良いが、いかせん金がかかる。
つい先日、会社の金を着服した奴が宣うことではない。
「言いたい事は分かったが、そんな金あるかっ!!」
半眼で睨みつけながら却下したら、
「クリスマスコフレ完売したし、労いも必要でしょう。忘年会兼クリスマスパーティーを合同で催しても良いじゃんか。ド派手なイルミネーションを飾ろうとか言ってないんだしさ。普通に樅木もどきを用意して、オーメントやリースで飾り付けして、対外的にもCremaの財力を見せつける時! 通行人にも、お裾分けでチラシ付きチョコを配れば、集客率アップで一石二鳥になるでしょう」
と食い気味でプレゼンされた。
カンガルーポケットにいる卵ちゃんの存在だけで、今の私は無気力なのだよ。
ガシガシと生気を遠慮なく吸い取られているからね。
Cremaの宣伝になるって力説され、私よりアンナが釣れた。
「容子さん、良いアイディアですね。やりましょう! クリスマスコフレも完売しましたし、今後の期待を膨らませる為に大々的にイベントをするのは効果的です」
アンナの目が、お銭々になって見える!
「炊き出ししたばっかりですやん! 頻繁に宣伝する必要なくね?」
これ以上、イベントは要らないと嫌々と抵抗した。
しかし、そうは問屋が卸さない。
「炊き出しは慈善事業! イベントは社運を賭けた事業ですよ、宥子様。ということで、予算を出しておきますね」
私の意見を一刀両断し、アンナは勝手に企画を承諾して、容子にGOサインを出している。
「……私…社長だよね?」
と呟いてみたが、誰も聞いてくれなかった。
クリスマス兼忘年会の準備は、従業員と施設の子供達総動員して飾り付けをした。
大きな樅木を森から採ってきて、容子がイキイキとデコっている。
容子が憎い。
イルミネーションライトの動力は、雷の魔石(極小)を使っている。
魔力を補充すれば光り続けてくれるので、省エネかつ何度も使える点はエコだ。
終わったら、そのまま拡張空間ホームに収納しておけば来年も使えるだろう。
次回はデコる必要もなくなるし、準備も楽になる……と思いたい。
私は早々に戦力外通知を出されたので、オーメントの図案を書いている。
クリスマス兼忘年会の参加者に配るようだ。
オーメントは、天照大御神をデフォルメにした金貨である。
表は天照大御神のデフォルメ絵、裏は極小の屑魔石が埋め込まれた容子印が彫られている。
オーメントには、小回復の付与が付いている。
イベント参加は、一人銅貨5枚(500円相当)が必要になる。
一般参加も認めているため、結構な人数が来るだろうと予想し、樅木は金貨でデコられ自己主張の激しいクリスマスツリーとなった。
社員のプレゼントと孤児達のプレゼントを購入したり、クリスマス当日まで慌ただしかった。
私はお金を出し、指示をするだけに徹した。
卵が中型犬くらいの大きさになったので、抱っこ紐を買いました。
ママゾンの特急便で購入すると、二時間後にパンジーが届けてくれた。
それを使って、抱っこしています。
ほんのり暖かいんだよね。
でも、私の生気をガンガン吸うので常時立っていられず、車椅子生活ですよ。
クリスマス当日、容子が参加者専用チケットを見せながら最終確認している。
「皆、よく頑張った! チケットは持ったか!? これが無いと、パーティに参加することが出来なくなるから注意するように」
「皆、今からCremaでクリスマス兼忘年会を楽しむぞ!」
「あの?クリスマスって何ですか?」
孤児の一人が質問してきた。
容子、そんなことも説明せんと手伝わせてたんかと頭が痛くなった。
地球のクリスマスに由来になった偉人の話をしても、彼らに分かるはずもない。
どう説明したものかと考えていたら、容子がザックリと改変して説明している。
「クリスマスは、親しい人と美味しい物を食べてプレゼント交換する宴です!」
いや、その解釈は間違ってないけど違うぞ。
イエス・キリストの誕生日だと教えなかったのは、わざとなんだろうか?
「へぇ、そんな日があったとは知らなかった」
容子の下僕二号(孤児)リオン君の視線が、何気に冷たいのは気のせいか?
「由来を語ると長くなるけど聞くか?」
面倒臭そうな顔をして問いかける容子に対し、リオンはCremaのパーティ会場へ早く連れて行けとばかりに彼女の背中を押している。
私を含め、皆は飲んで歌ってパーティを楽しんだ。
勿論、お金払ってパーティに参加している人もいるけどな。
屋敷の外では、三馬鹿が三勤交代でチョコとチラシを配っている。
本当にお疲れ様です。
飲み食いして楽しんでいたら、事件は向こうからやって来た!
「おーい、酒がねーぞっ!! 酒! 酒を出せぇ!!」
酒気を帯びたおっさんが、酒を出せと喚いている。
「大体なぁ~何が美容だ! コスメだ! そんな物を高値で売るんじゃねぇーーー!!」
インテリアで飾っていた像をガンガンと蹴りまくっていた。
天照大御神の石像である。
私は、アンナに目配せし不埒者のところへ行ってもらった。
アンナは、無表情で思いっきり酔っ払いの股間を蹴り上げる。
それを見ていた男共は、無意識なのだろう。
一斉に股間に手で覆い隠している。
私は、グッジョブと親指を立てて見せた。
「アーラマンユの教会の者が、此処に来て暴れるんじゃないわよ!」
追撃とばかりに、パーではなくグーで酔っ払いの顔をボコボコに殴っていた。
「アンナ、殺すなよ」
一体誰の影響を受けて、こんなに狂暴になってしまったんだい。
いつも上品に澄ましている姿がないぞ!!
「異教徒……ゲフっ……ゆ…ガっ……」
言葉を発すると同時に殴る蹴るの応酬だ。
普段は、毒舌と情報操作で破滅&退路を断つやり方を取るのに。
今回に限って、無言で物理攻撃オンリーになっているのだろうか?
「お布施! お布施! お布施ってうっせーんだよ! お布施を払って1割でも私に還元してくれましたぁ? して無いですよね! ネコババ上等。ポケットにないないするんですよね! お銭々を奪うだけで、施しも碌にしない屑宗教なんざ廃れてしまえ!」
これが、アンナの本音なのね。
お金大好きアンナの本音は、アーラマンユ死ねなのか。
凄い恨み節に、私も周りもドン引きしている。
「ジョン、捨ててきて下さい。」
失神したおっさんの首を掴んで、ジョンに引き渡している。
ジョンは、指示通りにズリズリとおっさんの首を引っ張って、会場の外へポイ捨てしている。
その後、酔っ払いのおっさんは身包み剥がされたらしい、ざまぁw
迷惑なおっさんがいなくなり、宴会はまた盛り上がり、良い感じで終了した。
後にアーラマンユ教会が対抗しようとしてくるのだが、返り討ちに合うという結末が待っているのであった。