114.介護されました
アンナが予約した女性専用のカプセルホテルは、風呂とトイレ共同以外は至って快適な広さがあった。
服を脱いだ時は、卵はポケットからコロコロ転がり、意思を持っているのか私の足元にピタッとくっついている。
剥がそうとしても離れないので、仕方なくそのまま足元の卵を抱き上げた状態でお風呂に入った。
私とアンナ以外、風呂に人がいなくて良かった。
お湯に濡れた卵を丹念に拭いて、清掃を施したカンガルーポケットのパーカーを着込む。
卵はポケットに収めて、その日は早々に寝た。
一日でここまで大きくなるって、一体何なの?
はたから見たら、臨月の妊婦に見えるくらい腹が膨らんでいる。
厳密に言えば卵が育っただけなのだが、パーカーのポケットから卵を取り出すのは難しくなった。
自宅に戻ったら、容子に卵専用の服でも作って貰おうかな。
今日はお洒落するつもりだったが、断念して森ガール風のカジュアルスタイルに落ち着いた。
化粧しなくても良いくらい肌の調子が良いので、色付きの保湿リップを付けて、名古屋駅を出発だ。
腹を突き出す形を取り続けるので、腰の負担が半端ない!
これじゃあ、マッサージを受けることなんて出来ない。
「ううっ、腰が痛いよぉ」
神様から預かったものだからね。
無責任なことが、出来ないのが辛い。
「ネズミの国は諦めますか?」
「嫌だ!! 絶対行く。ここまで来たのに帰るなんて嫌」
愛しのネズミー達が、私をランドで待っているんだ。
歩行も難しい状態で絶対行くんだと聞かない私に、アンナが大きな溜息を吐いた。
「分かりました。ですが、この状態では移動もままなりません。車椅子に乗って下さい」
と拡張空間ホームから取り出して言われた。
慌てて周囲を見渡すが、誰も私達に注意を払っていなかったのか見られてなかったことに安堵した。
「外で堂々と拡張空間ホーム使うな」
「こちらの世界では、拡張空間ホームは存在しないスキルなんでしたね。済みません。気を付けます」
「分かってくれたんなら良いけど。何で車椅子持ってるのさ?」
病院で使われているような量産型ではなく、明らかに特注品と思われる車椅子に顔が引きつる。
一体幾らしたのか聞きたい気もするが、聞いたら魂持って行かれそうになるから止めておこう。
「売れると思ったので買いました。容子様に複製して貰って、イスパハンに分解させようかと思っただけです。あわよくば、改良版を作って売り出そうかと」
はい、キターーーー!
地球では、ガチアウトな発言頂きました。
本当お金が大好きだよね、アンナは。
「流石に、容子でもコレは複製出来ないんじゃない? 詳細な構造とか分からないでしょう」
複製は、あくまで自分が作った物に限る。
スキルを延ばせば、他の物も複製出来るかもしれないが、現時点では不可能の三文字しかない。
「そうですか。仕方がありません。座り心地など聞かせて下さいね。現物をイスパハンに渡して、解析・分析して貰いますので」
そして、作れるようにして売り出すんだね。
需要はなくはないと思う。
ただ、相当高価な物になると思う。
神社に松葉杖と一緒に貸し出しできるように置くのもありかもしれない。
売り飛ばせないように、スラム街から持ち出した時点で戻ってくるように設計すれば盗難防止にはなるだろう。
「介護される年じゃないんだけどなぁ……」
「下手に動いて卵を割ったらどうするんですか」
手厳しい指摘に、私は渋々車椅子に乗った。
電動らしく自分で動かすことが出来るみたいで、色々弄ってたら怒られた。
「壊したら弁償して貰いますよ」
「すみませんでした!」
大人しく車椅子に乗って、押して貰う事になった。
その間も、時間が経つにつれて徐々にお腹に入れた卵が大きくなる。
そして、私の体力も時間を追うごとに尽きてきた。
異様に疲れるのだ。
原因は卵にあると踏んでいるが、確証はない。
アンナに車椅子を押して貰いながらネズミの国で買い物&スーベニアでランチをして、千葉の工場の視察はカットして直帰した。
無理無理、体力吸われて指動かすのも辛いんだもん。
トイレもアンナに体を支えて貰わないと入れないとか、拷問&羞恥プレイなんですけど。
そんなこんなで、私の三が日はこうして終わった。
容子が、経費と云いつつ年末年始をヒャッハーしながら楽しんでいるとは知らず。
私は這う這うの体で自宅へと帰り、着替えもせずベッドで爆睡したのだった。