111.ボーナスカットされました
変なおっさんを追い返して、日本が丁度新年を迎えるので一旦戻ることにした。
勿論、年末年始は全員お休みです。
とはいえ、サイエスをほったらかすわけにはいかないので、ローテーションを組んででの年越しとなった。
警備は、あの一件で強化した。
自衛するために、得意分野を生かすように契約した従業員が中心に、武術の指導した。
神社を作ったなら、児童福祉施設も必要でしょうと容子の案で孤児院を急遽建てた。
身寄りのない子供や、金銭的に育てられなくなった子供を受け入れ、問答無用で勉強と護身術を習って貰う事になった。
孤児院の子供達には、戦うのではなく隙をついて逃げるを徹底させた。
その辺りは、スラムの時から当たり前だったので、殆どの子が早々に実践レベルの訓練を行えるほど優秀だった。
容子の奴、人材発掘する天才か? と思わず二度見したよ。
会社の金を着服したのは別問題。
許してないからな!!
元旦に私とアンナが代表して伊勢へ参拝しに、容子と下僕一同は自由行動を許可した。
パンジー経由なら、私が居なくてもサイエスの扉を開けることが出来る。
容子は、自分も伊勢に行きたいとほざいていたが当然却下である。
トップ二人抜けたら、不測の事態に備えられない。
アーラマンユ教の連中は、今は大人しい。
年末年始の行事で私達にちょっかいを掛ける暇がないのだろう、とシャーラが言っていた。
まあ、私とアンナが暫く不在でも問題ないというわけだ。
「一週間以内に戻ってくるわ。これは、Cremaからのボーナスな。企画で必要な経費は、容子に渡しておく。後で何に幾ら使ったか、明細書を添付して提出して貰うからな。絶対着服すんなよ、特に容子!」
名指しで釘を刺すが、当の本人はケロッとした顔で厚かましくもボーナスを強請っている。
「私にもボーナスくれ」
容子が両手を出してクレクレするので、500円玉を置いてやった。
「ふざけんな! 何で他の皆は、40万円なのに私だけ500円玉なん?」
「ふざけてないが? どこぞの馬鹿が、無断で勝手に会社の金を着服しなかったらボーナスも普通に出してたわ。私まで監督不行き届きでボーナスカットになったんだぞ!!」
アンナが、連帯責任と言って私のボーナスもカットしたのだ。
容子、許すまじ。
ポケットマネーで500円玉をあげた私に感謝して欲しいくらいだよ。
因みに、アンナのボーナスは60万円だ。
社長代理秘書だからね。
給与二ヵ月分となれば、役職手当や残業その他諸々で一ヵ月結構稼いでいる。
スラムの従業員は、今年のボーナスはなしの代わりにイベントを催す予定だ。
日本の従業員の皆さんには、きっちりボーナスを支払ったよ。
中途入社の人も少額だが、ボーナスが出ている。
「面倒事は、絶対起こすなよ! 不測の事態が起きたら即報告!!」
「へいへい、いってらっしゃい」
容子は、ブスっとした顔で私たちを送り出した。
サイエスから自宅に戻って、まず行ったのは屋上の社へ行って参拝だ。
パンジーが常に綺麗にしてくれているので、塵一つ落ちていない。
『年末年始だから、もっと豪華なものを寄越せ』
帰ってきて早々、ヘビ様からクレクレされた。
最近のヘビ様は、俗世化していないか?
無視すると怒るので、
「私はボーナス出なかったんで勘弁して下さい。お供え物は、5万円以内でお願いします」
『ケチじゃな。もう10万あるじゃろう』
ブーブーと文句を言うヘビ様に、私は溜息が漏れた。
アンナには聞こえてないので、独り言を喋っているように見える。
しかし、アンナは出来る女なので察してお茶を三人分用意してくれた。
一つは、ヘビ様用らしい。
「このカップ、ウエッジウエットじゃん。一セットで1万円のを何で出すかな? 百均のカップで良いのに」
ひぇ~とティーカップを見ていたら、
「ヘビ様に召し上がって頂くものですから、食器も高級でなくては」
と返された。
『よく分かっているじゃないか、娘。それときたらお前は……』
ヘビ様は、アンナを持ち上げグチグチと文句を垂れ流してくる。
アンナ自身は聞こえていないので、その愚痴を受け止めるのは私。
なんて理不尽なんだ。
「容子が、勝手に会社のお金使って。私までとばっちり食らって、ボーナスカットされたんですよ。良い人材を発掘できたのは僥倖でしたけど。お金が幾らあっても足りない!」
「そこは、監督不行き届きですのでカットは仕方ありません。宥子様や容子様にボーナスを出すと出費が……ねぇ」
むっちゃ目が泳いでいるよ、アンナ!
アンナの様子からすると、最初からボーナス出す気が無かったんじゃないの? と思わずにはいられない。
仮にボーナスが入っても、ヘビ様に全部巻き上げられていると思うし、くそぅ。
「取敢えず! 伊勢神宮に行ったりする交通費が必要なので、今自由に使えるお金は5万円なんです」
『我が主の元にも顔を出すのだよな?』
「勿論ですよ。加護まで貰ってますし。神社巡りで新しいお札を貰ったりするので、お金が必要なんです」
そこまで行って、漸くヘビ様は大人しくなった。
しっかりお気に入りの酒とつまみを5万円内でキッチリ収めて神託が切れた。
本当、相変わらずちゃっかりしている。
「取敢えず、パンジーが作ってくれた鰊蕎麦でも食べて年越ししようか。元旦から三が日に掛けて、神社を回るよ」
「分かりました。効率の良いルートを検索しておきます」
「頼んだ。予算7万円の範囲でお願いね。残り3万円でお札とか揃えるから」
自宅・一階の店舗・千葉の工場・サイエスの神社の計4箇所分を用意しなくてはならないから、10万円全部使いきるわけにはいかない。
「折角こちらに戻ってきたんですし、年明けにネズミの国に寄りませんか? 千葉の保養所の使い勝手なども調べたいですし、ニューイヤー限定グッズもあるでしょう。購入して容子様に、複製させてサイエスで販売しましょう」
「使い込みの補填にする分として働かせる魂胆か。良いよ。千葉行きも盛り込んでおいて。千葉方面は、経費から出して良いよな?」
「勿論です」
思わずグッと手を組んだ!
経費で新作グッズを買い込んでやる!!
鼻歌を歌いながら旅支度をしていた私を見ながら、アンナはニヤリと黒い笑みを浮かべてチョロイと言っていたとは知る由もなかった。