110.アーラマンユの使徒が現れた
「ここですか。善良な市民を騙している悪魔の手先は」
この場にそぐわない上質の白い法衣を着たデブが、いちゃもんを付けてきた。
「は? 意味分かんないんですけど。てか、あんた誰よ?」
「創世神アーラマンユ様の使徒であるゼルダ様を知らぬのか? 流石、悪魔の手先に成り下がった事はある」
「あ、部外者ですか。うちの神様方は大雑把ですが、我らの神を侮辱するような方はこの場から立ち去って貰います。お帰りはあちらですよ」
シッシッと犬を追い払うように手をプラプラさせると、ゼルダは顔を真っ赤にして唾を撒き散らしながら怒鳴り散らしてきた。
「ふざけるな!! 私を誰だと思っている。アーラマンユ様の使徒ゼルダ様だぞ! 大体、許可なく癒しの魔法を使っても良いと思っているのか?」
えー、何この面倒臭いおっさん。
自分に様付けとかキモ過ぎるんですけど。
「ここは、アーラマンユ教の教徒じゃないですし。大体、治癒は冒険者の間でも使ってますけど? 彼らは私の従業員なので、治癒も薬も受けられますが何か?」
ニッコリと笑みを浮かべてやったら、ヒッと悲鳴を上げられた。
人の顔を見て悲鳴を上げるとか失礼じゃないか。
「そ、そんな屁理屈はまかり通らん。大体、勝手にアーラマンユ様以外を祭るなどあってはならぬ事だ! ただちに、その場所を明け渡すが良い」
「あ”ん? 明け渡せだ? ふざけんなよ。ここは、私が買った土地だ!! 大体、スラムの人に施しも治療も拒否し続けた連中が何言ってんだ。この場所に祭られているのは、由緒正しい(日本)の神様なの! 太陽の化身である天照大御神様を前に頭が高いわ! 大体スラムの人たちが裕福になったからって僻むなよ、糞が。屁理屈捏ねてんのはお前であって、私達じゃない。出ていけ」
親指を立て首を横切り逆さに振り下ろす。
外国でやったら私刑決定な仕草だが、ここはサイエスだし無問題。
「アーラマンユ教会だっけ? 人権も認められないスラムの人からの嘆きを、救いを求める声を無視した奴が、本気で好かれるとでも思っているのか? 頭沸いているんじゃねぇ?」
煽るだけ煽って、パンパンと両手を叩く。
ザッザッと屈強な男たちが現れ、ゼルダを囲んだ。
「この人摘まみだして~」
「分かりました」
ニカッと良い笑顔でマッスルポーズをきめながら、ゼルダを何人かで担いで強制退場させている。
「治癒は聖魔法の適正があれば、練習するだけで取得できるっつーの」
私の鑑定と楽白の看破を合わせて、スラムの住人たちの適正を見て仕事を振っている。
今ではスラム街だったとは思えないほど賑わっている。
物流も私が軸になり、回している。
商業ギルドで色々と融通を利かせて貰ったりして、今では流行の発信地になりつつあった。
「ヒロコ様、良いんですか? 私もあまり好きじゃないですけど、アーラマンユ神の信者は多いですし、敵に回ると厄介ですよ」
私に忠告をしてくれたのは、元スラムのまとめ役だったシャーラだ。
御年五十三歳な初老の婆さんだ。
スラムでは五十歳を待たずに死ぬものが多い。
それは、怪我だったり病気だったりと様々だ。
特に体力のないお年寄りや子供の死亡率が高かった。
だから、従業員には薬や治癒を掛けている。
薬代や聖魔法代が嵩んで困窮し、生活出来なくなるなんて馬鹿らしいことはしない。
宥子特製ラミネートの保険証を発行してある。
それを提示すれば、薬も治癒も大体銅貨3枚~金貨1枚で受けられる。
病状や怪我の症状に応じて変わるが、絶対に治るものは治してしまう。
だからか、時々噂を聞いた街の人が来ることがある。
保険証がないので、全額負担で受けて貰っている。
治る見込みがない場合は、その場で説明した上で治療をするかしないかを選択させていた。
全額負担と言っても、薬なら薬師ギルドが卸している値段と変わらない。
治癒もアーラマンユ教会よりも破格の値段だと思う。
場所によっては治療費だけでなく寄付までさせられるらしい。
本当に腐った教会だな!
「人を食い物にする教会なんて潰れちまえ! 敵に回るんなら徹底的に潰すだけだ。神様は見守ってくれるんであって、頼み事するんじゃないんだ。次来たら唐辛子スプレーを散布してやる」
塩壺を引っ掴んで強制退去させられた方向へ塩をまき散らした。
勿体ないと嘆かれたが、これが日本の流儀じゃ!
「私が居ない時に何か言ってきたら、アンナか容子に言って。どちらも居なかったら、私の家の者に言えば大丈夫だから」
容子に扱かれた三バカをローテーションで、自衛団の連中に稽古を付けさせるかと思案したのだった。