108.白金貨4枚横領されていました
休みらしい休みがない。
私、社長なんですが!?
もっと楽したいのに、寝る間を惜しんでクリスマスコフレ用の化粧品作りのため、作業場に逆戻りだよ。
唯一の救いは、パンジーがサイエスと日本の家の管理と食事を届けてくれることかな。
それとは別に、大きな収穫もあった。
容子が考案した炊き出し企画のおかげで、下僕一同の料理スキルを取得している。
万が一、野営する事態が起きても出来立ての手料理が食べられる!
私も料理スキル取得して、レベルが上がたら美味しい食事作れるかな……。
容子も缶詰状態に陥り、パンジーを筆頭に女性メンバーが持ち回りで料理してくれている。
ありがたや~、ありがたや~。
因みに、ノルマを達成するまでアトリエから一歩も出られない鬼畜仕様に拡張空間ホームの一部を変更した。
途中で脱走されても困るからね。
容子が逃亡したくなる気持ちが、今なら分かる……(遠い目)。
現実逃避したいが、しても現状は変わらない。
齷齪働きながらと化粧品セットの量産に邁進した。
出来上がったものは、拡張空間ホーム経由でアンナに渡り商業ギルドに卸して貰っている。
その間、念話で基礎化粧品セットの追加発注があり、泣きながら取り掛かったさ。
最低ノロマ+αを達成して、ぐでんぐでんに寝転がって休息を取ってふと思った。
暫く働きたくないでござる、と。
……なんて舐めたことをちょっとでも考えて済みません。
日本もサイエスも年末調整だったわ。
経理はアンナに一任していたが、彼女一人では間に合わない。
アンナは日本に戻って貰い経理部の人と協力して年末調整をして貰い、私はサイエスの帳簿に不備が無いか確認している。
Cremaの【サイエス版帳簿】を調べた結果、実際の売上額と預金含めたお金が一致しない事態に陥っている。
総額白金貨4枚、合わないのは非常事態だ。
これは、誰かが勝手に使ったことになる。
フォルダ内は、誰もがアクセスできるようになっている。
だから誰かが使ってもおかしくないのだが、宣誓魔法を行使している者が使ったとは考えにくい。
不正で着服しようものなら、確実に死ぬ。
それを分かっていて、横領する馬鹿はいないだろう。
消去法で考えると、唯一制限が緩い容子が犯人候補に挙がった。
アトリエに籠っている容子を引っ張り出して、リビングへ連行する。
無理やりソファーに座らせ、私は彼女の前を仁王立ちして問うた。
「容子、私に何か言う事は?」
「いきなり引っ張って来て何言い出すかと思えば、仕事の邪魔か? 何イライラしているのか知らないけど、まだノルマ残ってんのよ。仕事の邪魔すんな。後、私にやましいことは無い」
若干キレ気味に言い返された。
ほうほう、言い逃れする気か。
帳簿を見せて、ある箇所をトントンと指で叩きながら再度訊ねる。
「この数字、何か分るよな? 白金貨4枚足りないんだけど。何度計算しても足りないの。横領出来る人間は限られている。もう一度聞く。身に覚えは?」
ニッコリと笑みを浮かべて容子の目をじーっと見つめたら、明後日の方向を向いてゲロった。
「……ちょっと入用で~」
「白金貨4枚は、日本円で約4千万円相当です! 何がちょっと入用じゃ!! 会社の金を私用で使うアホは要らん。契約解除して日本に送り返すぞ」
ふざけた答えにブチ切れて、容子の胸倉を掴んでギリギリと締め上げる。
「ちょっ…く、くる…し……」
「今すぐ金を返せ、横領犯」
胸倉を掴んだままガクガクと前後に揺さぶる私に、いつの間に戻ってきたのか、アンナが待ったを掛けた。
「それ以上したら容子様が死にます。今、死なれたら進行中の企画が頓挫して大損するので、殺るなら全て終わってからにして下さい!」
「うぇぇえ!? ちょっ、そこは全力で私を庇ってよ」
若干涙目になっている容子とアンナを見比べ、私はチッと舌打ちを一つして手を離した。
容子は、ボトリと地べた落ちて転がりゲホゲホと咽ている。
「アンナに感謝せーよ。何に使ったのか、キリキリ吐け!」
ドカッとソファーに腰を下ろし、蔑んだ目で容子を見やる。
プルプルと震えながら、
「会社のお金勝手に使って済みませんでしたぁー。スラムで炊き出ししてた時に、ストリートチルドレンの集団を見つけまして……。何人かレアスキル持っている子がいて、人手も足りなかったから買収しました」
「要は、ストリートチルドレンを買収したと。それで? ストリートチルドレンを白金貨の行方は、どう関係あるのかなぁ? 買収したないようを私が納得できるまでキッチリ説明して貰おうか」
「え~っと……衣食住提供する為にお屋敷買いました。勿論、曰く付きで叩き売りされたのを値切って買ったからね。後は、彼らの食費や家具や雑費とか諸々に消えました。一番使えそうなボスを私の下僕にしたから、ストリートチルドレンの統率は取れるよ」
頭が痛くなってきた。
ワウルといい、何でこいつは変なものを拾ってくるんだ!
白朱は良いとして、人間を拾うのは止めろ。
「人間は、ペットじゃねぇ。無暗に拾ってくるな」
「うっ……でも、でも! 宥子は、後任確保の為に人を雇っているじゃん。私だって人を雇って後任を探しても問題ないでしょう!」
「探すのは自由! でもな、それと会社の金を横領するのは全くの別問題。お前がしたのは着服です。日本だったら務所行へ、ぶち込んでいたところだわ」
「……ごめん」
しくしく泣きだした容子に、漸く事の重大さが分かったようだ。
この阿呆は、言い聞かせても何処かすっぱ抜ける。
特に常識が!
「今回は青田買いは、従業員を雇うための投資ってことで処理してやる」
私の言葉に、容子の顔がぱぁ~って明るくなる。
「二度はない」
次したら私刑確定だと宣告したら、青ざめていたよ。
容子が青田買いした子供たちは、総勢二十一人。
今回の炊き出しで容子は、スラムの人たちと良好な関係を築いたことだけは評価できる唯一だった。
スラムの現状と困窮脱却からの仕事斡旋の確約を勝手にしたことも叱り、サイエスでも事業拡大のためにスラム街の土地を買い上げて立て直し作業を行うことにした。
スラム一角が私の下僕と化し、容子が切っ掛けで太陽信仰が急速な勢いで広がっていった。
私は、知らず知らずの内に一個師団の軍団を得ることになった。