107.私達に優しくない会社
この三週間、ヘビ様のご機嫌を取るのに必死だった。
不在票が入ろうものなら激おこになるので、おちおち外も歩いていられない。
日付・日時指定して、それ以外にコンビニでご飯を買いだめする日々。
容子達はどうしているんだろうと、気が遠くなった。
化粧品作りと並行しながら、社長業も勿論こなしている。
必然的にアンナから回ってくる決済書類を終わらせないと、仕事が回らない。
各ポーションと化粧品を作る傍ら、社員に顎で使われながらセコセコ働いていた。
取材やテレビ出演の依頼も来るが、今のところは全部お断りしている。
従業員と私達の生活費+貯蓄が出来るくらいのお金が稼げれば、それ以上稼ぐ気がない。
大々的に宣伝しないからか、顧客の大半は口コミで買いに来る方が多い。
ネットだと予約待ちになることもあるが、店頭でしか入手出来ないものも用意してある。
肌の悩み相談や状態チェックをすると、一人にかかる時間は長い。
本店の倉庫には、劣化防止を防ぐ魔法陣を設置したので在庫は十分ある。
在庫不足にならないように、万が一に備えてパンジーと連携して拡張空間ホームから取り出せるように対策を売った。
それとは別に従業員やお客様からの要望で、クリスマスコフレ用の化粧品セットが欲しいと嘆願が届いたので、数量限定で千個用意した。
問合せ先は、柚木達コールセンター部門に受付を任せている。
クリスマスコフレ用の化粧品セットは、店頭限定販売にした。
売切れ次第終了となる。
値段は少しお安めの7万円。
口紅(三種類/選択可)・チーク・新たにグロス(三色)と、容子作のパーティーバッグだ。
斜め掛け出来るバッグになっており、ビジューが雪の結晶を模様していて可愛く仕上がっている。
複製するのは、大変だった。
クリスマス一週間前に、企画を出すとかアンナは鬼だ。
12月20日に朝礼に出て販売の告知をしたら、社員から前もって言えと怒られた。
君たちの要望に応えたのに、酷い言い草だよ。
店長にクリスマスコフレの在庫を渡して、後は頼んだと私はサイエスへ高飛びした。
久しぶりに皆と合流したけど、彼らの感覚では一週間も経ってなかった。
そうだよね。
知ってたさ。
「アンナ、日本でCremaでクリスマスコフレを販売するように手配しておいた。後、はじまりの町でギルドランクの昇級と基礎化粧品セット特許取得もしてきた」
「因みに特許は、何割でですか?」
「三割」
アンナの問いに答えたら、鬼の形相になった!
「何で三割なんですか!! そこは、七割でしょう!!!!」
怒髪天と言った感じで怒る怒る。
「基礎化粧品セットの作り方が分かったところで、私の基礎化粧品セットには負けると思う。それに、他店が化粧品に力を入れて売り出されれば品質も徐々に上がる。七割にしたら、特許申請した意味ないしな。競争相手が居て、初めてブランドや実績が出来るなら安くないと思うけどなぁ。後、裏技で上級ポーションのスクロールと打ち身の薬のスクロール貰ったから、そんなに怒るなよ」
これから商売敵が、化粧品を模倣して暫くは粗悪品が出回るだろうが、Cremaの化粧品セットの名が売れると考えれば安い宣伝費だ。
「私も三割は妥当と思う。高すぎると意味ないし。定期的に特許料が振込まれるなら良いじゃん」
「Cremaに入るようにしといた。会社が潰れない限り永久に入るよう手は打った」
特許料の振込先を私個人にしたら死後は払わなくて良い状態になるので、それは避けたい。
残った者達が困窮しないためにも、少しでもお金が入るならば悪くはない選択だ。
「珍しく宥子も、ちゃんと考えてるじゃん」
容子が、親指を立ててグッジョブと言ってくる。
「ボランティアの成果は、どうだったのさ?」
「炊き出しで、クラムチャウダーとカレーを提供した。スラム街の住人には、ゴミと交換して食事を提供したよ。自力で取りに来れない人の為に、屋台を引きながら各所を回ったから疲れたわ」
「庶民では、銅貨三枚で販売しました。容子印のスプーンを持ち帰れるようにしております」
報告を容子とアンナからの二人聞く。
容子は完全に慈善事業をしているが、アンナはスーベニアを真似て販売していた。
アンナの様子を見る限り、赤字にはなっていないようだ。
「アンナの方は、スプーンがもれなく付くんでしょう? 赤字にならなかったんだよね?」
「大丈夫です。スプーンのおかげで完売しましたので、赤字にはなりませんが黒字にもなりませんので±0ですね」
「二人とも絡まれたり、いちゃもん付けられたりしなかった?」
「私のところは、ゴロツキがいちゃもん付けてきたから適当にボコって転がした」
「私は、スプーン目当ての方が何回も並ぼうとしてましたね。勿論、お断りしましたが」
多少のトラブルはあったみたいだが、順調だったようだ。
「宥子様、クリスマスコフレはこちらでも販売されるのですよね?」
アンナの目が¥になっている。
「いや……予定はない、で?」
「はぁ? 何言っているんですか!! こちらも売り出しましょう。年始に向けてお祭りがあるんですよ!! 丁度、財布の紐も緩んでくる時期ですので売り出すべきです」
はぁ? って言われた時の顔が、滅茶苦茶怖かった。
目で人を射殺せるんじゃないかと思うくらいの眼光だ。
「容子にコフレ用のバッグ作って貰わんとあかんし……」
「複製スキル持っているから時間は掛かりません。やりましょう。取敢えず、千セットでお願いします」
複製スキル使う時、少なからずMP消耗するんですが!
「「無理無理無理ぃぃい」」
半泣きになりながら容子とシンクロして拒否したが、
「何言っているんですか! かき入れ時ですよ!! 今、販売しなくて何時販売するんです。売れる時に売るが商人たる心構えです」
と力説された。
こうなると、アンナは梃でも動かない。
「「はい……」」
暫く容子と一緒に馬車馬のように働くのか。
誰だよ、社長に優しくないブラック企業を作ったのは!!
アンナのゴリ押しで私と容子はクリスマスコフレの制作のため缶詰になった。
缶詰になる前に、パンジーに自宅の合鍵を渡しヘビ様のお供え物とお社の掃除、部屋の掃除をこまめにするようお願いしておいた。
こうして、私と容子に優しくない会社はスクスクと業績を伸ばしていくのだった。