102.乞食パーティー再来
始まりの町を目指して、基礎化粧品のレシピを売りに王都を出ようとしたところで背後から声を掛けられた。
振り向くと、会いたくない奴らに会ってしまった。
「マサコ! やっと会えたな!! ヒロコには、話をしてくれたのか?」
厳つい鎧を着た小汚いおっさんが、私のパーソナルスペースにずかずかと入り込んでくるので、思わず顔を顰める。
こいつらが、容子が言っていた乞食チームか。
ええっと、ガルパ? バカガ? ガババ?……名前が思い出せない。
「人違いです」
しれっとした顔で嘘を吐くと、尚も食い下がられた。
「そんなはずないだろう!」
いや、本当に人違いなんだけどなぁ。
だって、私は容子じゃないもん。
「容子じゃありませんので人違いです」
「ヒロコか! 相変わらず似てるな」
間違いを謝罪することなく、話を続けようとしているおっさんに殺意が沸いた。
殺気に気付いたのか、
「……悪い」
と謝った。
「パーティー勧誘は、お断りします。後、化粧品や武器などは一切販売しません。買いたいなら商業ギルドで基礎化粧品セット売ってますので、そちらで購入して下さい」
言われる前に言ってやった。
しかし、それで諦める輩ではなかった。
「そう言うわないでよ。私と貴女の仲じゃない。マサコは、同じ釜の飯を食った仲でしょう。常時じゃなくて良いから、時々私達とパーティー組めば儲かるわよ。こう見えてもAランクパーティーだし、実入りも悪くない。損はしないわ」
あんた達にとって得になるが、私にとっては損でしかない。
ニコニコと笑いながら上から目線で勧誘してくるのは、確かリリアナと言ったか。
「そうですよ。こう見えても私達強いんです! ヒロコ様とマサコ様が前衛に加わって下されば、ダンジョンの最深部の攻略も可能になります」
胸元で両手を組みながら上目遣いに見上げてくる女は、聖魔導士のテレサだったかな?
女相手に屈みながら巨乳を見せつけて、上目遣いするって馬鹿じゃねーの。
「基礎化粧品セットが欲しいのよねぇ。前回に購入してから、どこに行っても手に入らなくてさ。もう切れて無くなったんだ。手持ちがあるなら譲ってくれよ」
タダで貰えるを前提とした言い方をしているのは、剣士フィーア。
思い出してきた。
前回も散々たかってきた奴らだ。
こいつらが蠅なら、蠅叩きで地面に叩き落としたい。
こちらの意思は丸っと無視して、自分の都合だけ押し付けてくる。
私の大嫌いな人種だ。
「聞こえてなかったんですか? 貴女方のパーティーに入りません。入るメリットがありません。単身でゴブリン三千匹倒した後で勧誘し直して下さい。後、何故無償で基礎化粧品セットを渡さなければならないんですか? 購入出来なかったのは残念でしょうが、私には関係ありませんよね。貴女の運が悪かっただけです。商品は全て商業ギルドに下ろすことになってますので、勝手は出来ないんですよ。商業ギルドで売れないものは、露天で売ることもありますけど。誰かを優遇することは絶対しません」
ノンブレスで一気に言い切った。
はぁー、スッとしたわ。
「浅からぬ縁じゃないか。少しくらい融通を聞かせてくれても罰は当たらないんじゃないか?」
あからさまに不機嫌になったリリアナが、文句を言ってきた。
「縁も何も、赤の他人でしょう。ただの顔見知りであって、それ以上ではない。もっと言えば、私やマサコに集る蠅ですね。ゴキブリに昇格させてあげましょうか?」
虫に例えたら、彼らは顔を真っ赤にして漸く黙った。
「ヒロコ様、そんなつもりで言ったわけでは……」
テレサが間に入って仲を取り持とうとするが、すかさず一刀両断した。
「じゃあ、どんなつもりで言ったの? あんたら、私達の力や商品しか見てないでしょう? そんな人と付き合うと思うわけ? いくら性能の良い武器やアイテムを所持しても使いこなせるとは限らないんだよ。私はSランクでパーティー組んでいるから、格下のAランカーとパーティー組む気はない。二度と声を掛けるな」
「……っ! その様な発言は慎んで下さい。いつか、アーラマンユ様の怒りを買いますよ!」
アーラマンユって何よ?
…………ああ、確かこの世界で最も信徒が多い一柱か。
アーラマンユは少し興味は出たけが、テレサに説法を聞く気はない。
下手に情報を引き出そうとしたら、乞食記根性を発揮されてクレクレされる。
後で、ワウルを使って調べて貰おう。
「ふーん、だから?」
「だからって、貴女ね! 創世神アーラマンユ様を侮辱したことを教会に報告させて頂きます!!」
フンガーッて鼻息を荒くしながらフジコるテレサに、ハイハイ・ワロス・ワロスと聞き流した。
後に教会がちょっかいを掛けてくることになり、私の逆鱗に触れ新信仰を祀り上げて布教して大きく対立する事になるとは、この時の私は知る由もなかった。