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大惨事!偶像(アイドル)大戦

作者: 0024

 世はアイドル戦国時代。


 そう呼ばれたのも、過去の話。

 何故なら、アイドルによって、この国は一度滅びたからである。


 アイドルの持つ『推される力』……即ち、『被推力(ひすいりょく)』は、そのあまりに強大すぎる力により人心を惑わし世界を巻き込み、戦争を起こした。


 最初は些細なモノだった。

 ただの派閥争い。


 それにより起こった『アイドル大戦争』……通称『第一次偶像(アイドル)大戦』。

 その終結は、痛み分けという形で迎えた。


 しかし、それから10数年後に起きた『第二次偶像(アイドル)大戦』は、原因が『推しの奪い合い』という、領土問題に匹敵する血みどろの戦いとなり。

 目を覆う程の悲惨な終わりを迎える事となる。

 一つの国を滅ぼすほどの徹底的な被推力の行使。


 この大戦の教訓から人類は、ある原則を誓う事で平和に向けての道を歩もうとした。


 被推三原則(ひすいさんげんそく)


 1.アイドルを推さない

 2.アイドルに人生を賭けない

 3.アイドルの道を走らない


 そうしてアイドルは、世からひっそりと姿を消していく事に……



 なるはずもなかった。



 ♡♡♡


「うっひゃぁ、遅刻する〜!」


 私、(ひのと) サツキ・23歳は、地下(アンダーグラウンド)アイドルだ。

 文字通り、地下に潜り、こっそりとアイドル活動をしている。


「まずいまずいまずい、またお給料差っ引かれちゃう!」


 ただでさえ()()()の活動なのに。

 私は慌てていつもの坂道を下る。

 いつ見ても、真っ黒な道だ。


 それは、アイドルたちの血で染まった、赤く黒い、道。


 私は気をしっかり持つために、パァン!と頬を一発、両側から叩く。

 そして、大声で宣言するのだ。

 いつもの儀式として。



「絶対、天上偶像(トップアイドル)になってみせるぞー!」



 ♡♡♡


 そもそも。

 天上偶像(トップアイドル)とは何か。

 という話をせねばならない。


 それは、国を(ほろ)ぼす事が出来るレベルの伝説級アイドル。


 そのアイドルを求めて、人々が戦争を起こす程の被推力を持つアイドル。


 ――それが、天上偶像(トップアイドル)


 勿論、そんな危険な存在を政府が野放しにしておく訳がない。

 第二次偶像大戦後、名だたる国家はいずれも、アイドルを規制し始めた。

 そして、政府の管理下にあるアイドル――国営(ナショナル)偶像(アイドル)育成(トレーニング)事務所(オフィス)の出身以外のアイドルは、軒並み()()()として取り締まられる結果となった。


 当然。


 そんな()()()()()でやっているアイドルなんて、華やかさも魅力も、まるでホンモノのアイドルには届かない。

 お仕着せの、去勢された、牙を抜かれたアイドルなど、偶像(アイドル)ではなく木偶(でく)である。


 だから人々は求める。

 地下(アンダーグラウンド)に。

 アイドルの原石、ホンモノのアイドルを。


 ♡♡♡


「おっくれましたー!」

「遅いわよ、サツキ」


 私のマネージャーをやっている、天猿(ティエンホウ)さんが丸いサングラスの奥から眼光鋭く睨み付けてくる。

 相変わらず、怖い人だ。


「ごめんなさい、テンザルさん」

「誰が天ざるよっ!」


 私は言いにくい彼の名前を日本語読みで『テンザル』と呼んでいる。

 可愛いと思うんだけどなぁ、このあだ名。

 まぁ、お気に召そうが召すまいが私は勝手に呼び続けるのだが。


 図太くなきゃ、アイドルなんてやってられるか!


「今日のステージも満員御礼よ。ホラ、全力で可愛さアピールしてきなさい」

「まっかせて!」


 私は素早くアイドル衣装に着替える。

 そして下ッ(パラ)に気合を入れる。


(フン)ッ!」


 身体全体に漲る、被推力。

 推される為に、どんなアイドルも持つその基本的な力。

 それは、指先から髪の毛一本に至るまで、私の自信を表すかのように淡い光を放ち始める。


「良い"氣"ね」


 満足げにテンザルさんは口角を吊り上げる。

 己の伝授した『被推力』の完成度に、惚れ惚れしているようだ。


「そりゃあ、テンザル師匠直伝の錬氣術(れんきじゅつ)ですからね」


 私はマネージャー兼、アイドルの師匠であるテンザルさんに微笑みかける。


「あなたが地下アイドルになって、もう1年……ふふ、なんだかもう何年も昔のことのようね」

「ちょっと、死亡フラグみたいなこと言わないでよ」


 テンザルさんが遠い目をし始めるので、私は顔をしかめた。

 そう。

 あれは、1年前。


 ♡♡♡


「う、ううっ……」

「全く、この社会不適合者め!」


 私に手錠をかける特殊警察……通称"アイドル摘発課"。

 見るも無残に破かれたアイドル衣装。

 私は、地下アイドルの巣・ライブハウスのステージ上で、くずおれていた。


「いい歳をして、マトモな仕事にも就かず、反社会的行為に身を染め……恥ずかしいと思わんのか!」


 私は、ぎゅっと唇を嚙み締めた。

 マトモな仕事にも就かず?

 反社会的行為に身を染め?


 ――お前らなんかに、アイドルの何が分かるんだ!


 思わず殴り付けたくなる。

 だが、私はグッとこらえる。

 そんな事をすれば、更に余罪を追及される。


 誰か、私の気持ちを踏みにじる特殊警官に対して、鉄槌を下して。

 私がそう考えた時。

 悔しい気持ちを胃の底に沈めた私の想いに呼応するかのように。


「ホァチャァ!」


 ぐしゃあっ!


 どこからともなく、鉄拳が飛んできた。

 それは特殊警官の頭蓋骨を卵の殻のようにぶち壊した。


「あへっ」


 間抜けな声を上げて倒れる特殊警官。

 そのかたわらには。


「ふぅ~~~……全く、健気なアイドルの気持ちを台無しにしようとするなんて……万死に値するわね!」

「あなたは……?」


 丸い黒メガネ。

 真っ黒なスーツ。

 短く刈り込んだ髪。

 スーツの上からでも分かる、鍛えに鍛え抜いた肉体。


「うふっ。私は天猿(ティエンホウ)。通りすがりの、敏腕プロデューサーよ」


 男は怪しげな肩書きと名刺を手に、私に微笑みかけた。


 ♡♡♡


 以来。

 私は彼の指導の元、歌って踊れて()()()……そんなアイドルを目指し、日々研鑽を積んできた。


 そもそも、アイドルたるもの。


 一、人々を惹きつけ、夢中にさせねばならない。

 二、格闘術に秀でていなければならない。

 三、武器の扱いに長けていなければならない。


 これが、天猿師匠の方針であった。


 私の思っていた『アイドル像』とはだいぶ違うが……確かに、昨今のアイドル弾圧の流れや、アイドルの理念……『命を賭して推され、熱狂させ、人々の心を掴む存在』という原義を考えれば、全く不自然ではない。


 アイドルは、強く在らねば。


「さあっ、行ってらっしゃい! 私の育てた、強く可愛いアイドル、サツキ!」

「うんっ!」


 テンザルさんの力強い後押しを受けて、私はステージに立つ。


 ♡♡♡


「わぁああああああっ!」

「サツキちゃん、サイコー!」

「かわいー!」


 私は地下アイドルの中では結構、人気のあるほうだ。

 ステージを埋め尽くす観客。

 みな、それぞれが熱狂的にサイリウムを振り、私の歌や踊りに夢中で応援してくれる。


 ――その被推力こそが。

 私の力の源となる。

 身体中に溢れる"氣"。


「~~~♪ ~~~♪♪」


 そしてまた私の歌が、皆の力の源になる。

 熱狂は熱狂を呼び、幸せな"氣"は循環する。

 これが、負の連鎖ならぬ、正の連鎖。


 ……本当は、どのアイドルもこうして楽しく活動できるのが当たり前なのだ。

 私は今やすっかり衰退した、マス・メディアを牛耳る程のアイドルたちに想いを馳せながら。

 己のちっぽけな魂を奮い立たせ、燃やし尽くす。


 歌え。

 踊れ。

 笑え。


 喜びのステップは民衆(ファン)を駆り立て、蜂起させる。

 いずれこのクソみたいな世界にも、救いを。

 どんなアイドルだって、堂々と表舞台で戦える時代に。


 ――戻って。


 願いを込めて、私は舞う。

 それはまるで、神様への祈り。


 神様なんて、いないけどね。


 ♡♡♡


 ステージもやがて佳境。

 最後の曲を歌う。


「それじゃあ聞いて下さい! 本日最後の曲――」


 私が最後の曲名を言おうとした、その瞬間だった。


 ヴィィイィィイイイィィイイ!!


 耳をつんざくような、スピーカーの音が割り込む。

 私も観客も皆、驚いて目をしばたたかせた。

 そして。


「そこまでだ! 本会合は違法行為である! 即刻解散せよ!」


 ――特殊警察(アイドル摘発課)


 くそっ、尾行けられていたのか。

 私は歯噛みする。

 観客は大慌てで逃げ出そうとする。


 だが。


 私はマイクをギュッと握り締め、観客と、そして特殊警察の連中に向けて。

 全力で、大声で、叫んだ。


「最後の曲は―――!」


 バトル・ウィズ・ザ・ドッグス。

 狗どもと共に踊れ。


 私が今日という日の為に、テンザルさんと一緒に作った曲。

 それを歌い始める前に。

 腹の底から、本日一番の"氣"を捻り出す。


「あ! あ! あ! ああああああああっ!」


 ゴォッ!


 私の身体から、立ち上る"氣"。

 観客も。

 特殊警察も。


 私に、視線が、集中する。


 ――そして、戦い(ダンス)は始まった。


 ♡♡♡


 バゴッ、ドゴッ、グシャッ!


 私の舞うような拳打に、掌底に、蹴撃に、特殊警察の連中は次々とダウンしていく。

 "氣"を込められた攻撃に、所詮は訓練を積んだ程度の一般人が敵う訳がないのだ。


「~~♪ ~~~♪ ~~~~~♪♪♪」


 ズンッ、ドスッ、バキィッ!


 蹴散らす。

 殴り飛ばす。

 戦慄と共に。

 或いは旋律と友に。


 観客のボルテージも爆発寸前だ。

 私と共に特殊警察の連中に殴りかかり、ステージは阿鼻叫喚の地獄の様相を呈する。

 だが、その暴力の嵐の中にも、私達の喜びは溢れる。


 悦びだろうか?


 私達を締め付け苦しませた連中への復讐。

 自由を求める闘争。

 それは歌と共に"氣"を増幅させ、ただの一般人であるはずの観客にすら力を与えているようだった。


 そこに、師匠までやってきたもんだから、もう収拾がつかない。


「まぁったく! 無粋な連中よね! パーティが台無しだわ!」


 なんて言いながら、嬉しそうに彼自身も踊る、戦う、舞い躍る。

 猛りを抑えきれない様子で、ジャケットを脱いで筋骨隆々の身体が特殊警察の連中をブッ飛ばしていく。

 見てて気持ち良い!


 ――そうして約5分後。

 最後の曲を歌い切り、私達のライブは終わった。


 ♡♡♡


「アンコール! アンコール! アンコール!」


「ふぅ~~~……」

「お疲れ様。アンコール、殺到してるわよ」


 勘弁してよ。

 全力、使い切っちゃったってのに。


 "氣"を使い果たした私はグッタリとその場にくずおれる。

 だけど。


「――ファンからのお願いなら、しょうがないか!」


 なんせ、私は天上偶像(トップアイドル)を目指す女だ。

 この程度の戦いでバテてたら、話にならないもんね。


 私は残り少ない……いや、底をついたとしか言えない微かな"氣"を奮い立たせ、練り上げる。


「行ってらっしゃい!」


 師匠は背中をバン!と強く叩き、同時に彼の"氣"が僅かばかり、私の身体に染み渡る。


「ありがと! テンザルさん!」


 誰が天ざるよっ、と定番のやりとりをしつつ。

 私は笑って、ステージへ再び上がる。



 熱狂の渦に包まれた、アイドルの花道を歩く。



(終わり)

はいどーも0024です。


久々にバカなノリの話を書きました。

楽しかった!


本作は『アイドルマスター』の中国語訳であるところの『偶像大师』からイメージ的なヒントを得て作った、架空の世界の物語でございます。

アイドルが国家戦略に使われるプロパガンダ、人間兵器のレベルに昇華されてしまった世界。

そこでは楽しく活動するだけのアイドルなんてものは認められず政府の管理下にある。


みたいなイメージから『非核三原則』をパロって『被推三原則』なんてアホなネタを考え付いたり。

戦闘パートは『少林サッカー』とかのノリで読んで貰えると嬉しいですね。さしずめ『少林アイドル』ですか。

あのバカ映画、最高に好き。


さて、恒例の名前解説ですが。


(ひのと) サツキ……これは色々なアイドルの名前をもじって作りました。

名前の部分は僕の担当アイドルたる『島村卯月』からひと月ズラして。

苗字は確か『"星"宮いちご』からの連想で『太陽』『恒星』のイメージを考え、『()()』みたいな考え方で強引に付けたんだったかな?


天猿(ティエンホウ)さんは、まあ本作がそもそもカンフーものなので(?)中国人っぽく。

あと、官憲が(イヌ)だからってことで"犬猿の仲"から。

『天ざるさん』って言わせてツッコませるってネタのために考えた名前でもあります。

蕎麦かよ。まぁプロデューサーは常にアイドルの(そば)にいるから間違ってはいねえな。


はい、そんな訳で好き勝手に書いたお話でしたが、いかがだったでしょうか?(クソブログ定型文)


何となく『連載の第1話』っぽい終わらせ方ですが、別に続きは考えてません。

まあ続けようと思えば出来なくはないでしょうけど、連載は体力使うんでね……。


ではでは、また。

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