始まりの終わり
目が覚めると俺は森の中にいた。
まあ、ありがちなパターンだろう。
まずは自分のことを確認する。
足元、手先を見て顔を触る。鏡がないからハッキリしたことは言えないが前の俺より全体的に小さそうだ。
耀「さてと、どうしたものかな」
声を出してみるとやはり自分の想像より高い音がでた。結構イケボじゃない?
周りを見渡すがただの森にしかみえない。
アバンという世界が地獄のような場所ではなかったことに少し安心する。
ガサガサっと茂みをかぎわけるような音がして俺は身を小さくした。
ここが異世界なら急に魔物に襲われるなんていう展開もあるだろう。
火魔法特大があると言っても使い方が分からないのであまり意味はないだろう。
息を潜めしばらく待つとひょっこりウサギのような生き物が顔をだした。
耳がめちゃくちゃ長いこと以外は俺の知っているウサギと同じだが凶暴な生き物の可能性も否定できないので油断はできない。
ウサギもどきは耳を揺らしながら周りを見渡すとまた茂みの中に帰って行った。
耀「ふぅ…」
深く息を吐く。ここが異世界であると言うことをハッキリと痛感した俺はまずは身の安全を考える。
俺にできる防衛手段と言ったらやはり火魔法特大だろう。
しばらく考えた俺は知っている火属性っぽい呪文を唱えてみた。
耀「〇ラゾーマ!…〇拳!…ファイヤーボール!!」
しかし何も起こらない…
変わったことがあるとするなら俺の体温が少し上がったくらいだろう。恥ずかしさで。
適当にやっても上手くいくはずはないのだろうが異世界転生とあって俺も少し浮かれていたのだろう。
耀「まずはお決まりのやつから試してまよう。ステータスオープン!」
そういうと俺の視界にステータス画面のような物が映し出された。
やったぜ!これは通用するんだな!!
俺はゆっくり自分のステータスを確認してみる。
ステータス
name・・・Hiura You/人
Lv・・・1
HP・・・15/15
MP・・・10/10
能力…火魔法特大
ふむふむプロミネンスというのが恐らくは魔法の名前だろう。
それ以外は正しくレベル1と言ったところか。
そこまで見たところでまた茂みから物音が聞こえた。
俺は先程と同じように身を潜める。
茂みの方を見るとゴブリンと思われる生き物が出てきた。
子供程の背丈。緑色の肌、手に持っている棍棒。先程のウサギもどきと違いこいつが危険な生き物だということは一目で分かった。
幸いなのはこいつが1匹でいることだろう。
俺は息を殺したままゆっくりと後ろに下がる。
バキッ!音がした方に素早く目がいく。目の先には俺の足元があった。残念なことに俺の足元だった。
やばいと思うと同時に前を向くとさっきのゴブリンがこっちに向かってきている。
もうバレたと思って間違いないだろう。
耀「クソっ…」
戦うという選択肢は頭になかった。
俺は後ろを向き全力で走り出す。
ギィエエエー
耳障りな声が響く。ゴブリンの鳴き声だろう。後ろを振り向こと真っ直ぐこちらに走ってきていた。
森という地形、不慣れな体。レベル1といステータスの低さ。俺は程なくしてゴブリンに追いつかれてしまった。
逃げれないことを悟った俺がやれることはただ1つ。
耀「プロミネンス!!」
大きな声と共に、目の前に現れた巨大な火の玉が相手に向かっていく。
なんていうことはなかった。
俺の声が虚しく響く。
ゴブリンは声に驚いたのか一瞬立ち止まったがすぐさま襲いかかってきた。
ゴブリン「ギィエ!!」
棍棒が振り下ろされる。
間一髪避けることに成功するが俺の焦りは尋常ではなかった。身体中から冷や汗がでる。
頼みの綱であった魔法は不発。まさに絶対絶命である。
耀「なんでだよ!?ステータスオープン!」
俺はもう一度急いでステータスを確認する。
能力…火魔法特大
使い方が分からないかと手当り次第画面に触れる。
プロミネンスの部分に触れると同時に魔法の詳細がでてきた。
プロミネンス…巨大な火の玉が相手を襲い、着弾とともに大爆発を起こす。
消費MP 120
耀「MP不足かよ!!」
叫ぶのと同時にステータス画面からゴブリンに視線を戻す。
目の前には既に棍棒があった。
何がそうそう死ぬことはないだよ!クソ神が!呪ってやる!
こうして俺の異世界転生は5分足らずで幕を閉じた。