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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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緑の線は新たな道標/1

 年が明けて、今年で三十五歳となる澄藍は、暖房の効いた本だらけの部屋で、パソコン画面を見つめていた。


 どこから持ってきたのか知らないが、コウは山積みになっている本の上に腰掛けて、みかんを食べている。むいた皮は、ゴミ――余分なものが出ない神界でどこかへ消え去った。


 その様子を視界の端に移しながら、澄藍はあるホームページで手を止めた。


「ねぇ? この恋愛シミレーションゲームも神威が効いてない?」

「どれだ?」


 あの世で柑橘系の香りを、さわやかに漂わせてコウは近寄ってきた。澄藍は椅子の背もたれに身を預けて、両腕を大きく伸ばす。


「これ、何だか気になるんだよね」

「ふーん」


 気のない返事をして、コウはみかんを立て続けに口の中へポンポンと投げ入れた。否定するわけでもなく、肯定するわけでもなく。


「何?」

「うん、お前の霊感は確かだな。ただ繊細さにかける」


 褒められたが、さらに上を目指せと指南をされた。澄藍はパソコン画面から、隣でみかんを食べ終えた小さな神へ視線を移した。


「どういうこと?」

「これはゲームの中身にではなく、キャラクターの絵だけに神威が効いてる」


 澄藍は先日、コウが言っていたあることを思い出す。


 最近は地上での法則も変わり、神が人間にやたらめったら力を貸さないことになったと。邪神界がなくなった今でも、人間というものはそれに見合う努力をせず、成功を手に入れてしまうと、傲慢ごうまんになったり、怠惰になってしまうのだと。


 全ての人が幸せにならないことはしない。それが神さまの流儀だ。


 イラストレイターにだけ力を与えられた作品を、澄藍は見つめながら、うんうんと大きく何度もうなずく。


「なるほど、だから気になったんだ」

「ちなみに、どのキャラクターが気になるんだ? 言ってみろ」

「この髪の長い人っていうか、先生っていう設定らしい」


 カーキ色の長い髪で、ニコニコと微笑んでいる優しそうなキャラクターだった。パパーン! とクラッカーが大量に鳴って、コウが空中でくるくると回転した。


「正解だ!」

「はぁ?」


 クイズではなかったはずなのに、そう言われて、澄藍は一人で盛り上がっている、小さな神さまをまじまじと見つめた。


 そして、コウから重大発言が告げられた。


「お前の魂は今日から、『娘』へと変わった」


 三度目の魂変更、澄藍の娘――。


 ゲームのキャラクターなどそっちのけで、人間の女は前日まで走り寄ってきた我が子を思い出す。


「じゃあ、昨日までママって呼んでた子たちは……?」

「お前のことを、『お姉ちゃん』と呼ぶ!」


 肉体では決して起きない変化。それでも、神さまが行っている以上、人間の女には従うしか手立てがない。


 それでも、彼女は柔軟に対応する。神さまの世界はいつだって、偶然はなく必然だった。自分が今気になったことは、必ず同時期に関連することが起きる。そうなると……。


「ということは、配偶者は当然変わるから――! わかった! この人が結婚してる人?」


 数ある可能性の中から、彼女は直感でなぜかそれを導き出した。ラッパを吹く兵隊が急に現れて、パッパカパー! と盛大にファンファーレが鳴った。


「続けて正解だ!」

「やったぁ!」


 思慮深い澄藍ではなくなり、娘らしい可愛げがある喜び方に急に変わった。コウは頼もしげに、人間の女を見つめる。


「そろそろこれができるようになってるはずだ」

「何を?」

「自分の魂の名前を言ってみろ」


 普段と違って、自分の内側へ意識を傾ける。知らないはずだ。どこかで聞いたこともない。それなのに、娘の名前が出てくるのだ。


「……える

「正解だ」


 江はマウスのポインターをパソコンの画面上で、クルクルと回す。


「この人の名前は?」

「言えるはずだ。お前の夫だろう?」


 霊感という直感は鋭さを増していた。ホームページのどのキャラクター名に一文字も載っていない漢字が、鮮明に脳裏に浮かび上がり、江はポツリとつぶやく。すでに結婚していることとなっている、永遠のパートナーの名前を。


「……緑さん」

「正解だ!」


 コウは愛の力は偉大だと思いながら、いつの間にか用意してあった薬玉をぱかっと割り、鳩と色とりどりの紙吹雪とテープが出てきた。


 その時だった。江の背後から、優しくて上品な男の響きが聞こえたのは。


「――こちらの絵はよく描けていると思います」

「え……?」


 お祝いムードのコウから視線を横へずらし振り返ってみたが、姿を見ることは叶わなかった。


 神経を研ぎ澄まして、探そうとする。カーキ色の胸より長めのサラサのストレート髪。細面の綺麗な顔で、優男に見られがちだが、芯の強さがうかがえるひと


「どうかしたんですか?」 

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