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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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カエルの歌はママから/3

 放課後の我が家に時間は戻ってきて、澄藍は思わず両手で顔を覆い、畳の上に打ちしがれるように横ずわりを崩した。


「あぁ〜、やってしまった。先生ご迷惑をおかけして申し訳ないです」


 人間の女は神の御前で深く深く懺悔をした。学校中の生徒を幸せにできたと思っている我が子は、右に左に嬉しそうに体を揺らしながら、カエルの歌を熱唱していた。


 親としても、子供の自主性を摘むようなことをしたくない。かと言って、このままではいけない。澄藍は母親として子供を導いた。


「とりあえずさ、何人でやるか決めて歌おうよ。他の遊びをしたい子もいるかもしれないでしょ?」

「オッケー!」


 子供は両腕で頭を囲むように円を作り、にっこり微笑んだ。見たこともない返事の仕方を前にして、持ちつ持たれつつの学校生活をママは想像した。


「それも学校で流行ってるの?」

「そう! みんな、オッケーってやってる」


 子供はまた両腕で円を頭の上に作った。何かの話をしていて、中庭や教室で小さな子たちが合図みたいにしているのかと思うと、澄藍は微笑ましなくなった。


「かわいいね。小学生って」


 遠くのほうで別の子供が呼ぶ声が聞こえた。そばにいた子供は慌て出し、小さく手を振って走り出す。


「あ、アニメが始まる時間だから、急いでリビングに戻らないと! またくるね、ママ」


 あっという間に、あの世の自宅にあるテレビへと行ってしまった子供を見送って、澄藍は幸せの吐息をもらす。


「はぁ〜、神さまの世界も人と変わらないんだ。アニメを楽しみにしてるなんて……。明日、学校で友達と話すのかな?」


 邪神界が倒されてから、急速に人間の世界に近くなった神界。今頃、神さまたちも洗濯はないが、テレビでアニメを見ている子供たちと話をしたりしながら、夕飯の支度をしているのかもしれなかった。


 そうして夜――。


 畳の上に布団を二枚敷いて、あとはお風呂に入って眠るだけとなるころ、子供がクマのぬいぐるみを抱えて、眠そうな目をしてこっちへやってきた。


「ママ?」

「どうしたの? こんな時間に」

「今日こっちで一緒に寝てもいい?」


 自分は分身をしていて、本体は向こうで暮らしている。それでも、こっちにきたがって、やってきたのだろう。しかし、あの世でも配偶者がいる。


「それじゃ、パパに聞いてこないとね。何も言わないでくると、どこに行ったのかなって心配するよ」

「わかった、じゃあ言ってからまたくるね」


 五歳の小学校一年生でも、言葉はきちんと覚えていて、漢字まで使える。きちんと話せば理解もする。


 澄藍の視界は一人きりの寝室で、涙に揺れる。


「私は幸せだと思う。この世界では違うけど、本当に幸せだと思う。まわりの人からそう見えなくても、私は幸せだ」


 神世を見られる人が少ない霊感。物質界には共有できる人がいない。瞬きをすると、頬に一筋の涙がこぼれ落ちていった。


「永遠の子供がそばにいる。永遠に愛する人もいる」


 この世界ではどんなに努力を重ねても、心が通じ合えない夫婦仲。責められることはあっても、認められることのない日々。


 義理の両親は優しいけれども、結婚に本当に大切なのは配偶者との相性。それが合わないとお互いに思う。何とか前向きに解釈しようとしてきたが、ついにたかは外れ、涙が次々とこぼれ出した。


「私の心の支えは、向こうの世界の家族だ。死んでからも続いてゆく家族。大切なものはみんな向こう側。だからと言って、現実から逃げるつもりはないけど……」


 配偶者が部屋へ戻ってくると入れ替えに、澄藍はお風呂の用意をして、襖を閉めて廊下を歩き出した。


 入浴剤もアロマオイルも入れられない湯船に、一人で浸かる。既成概念を捨て、差別をも捨て、神さまの恋愛事情を考える。


「神さまは自分勝手だったり、肉体の欲望がない。だから、自分たちが付き合うことで、他のみんなも含めて幸せであるかを見極めてから結婚する。そうなると、陛下はたくさんの人を愛することが個性のひとつなんだろうな。他の神さまたちは男女の一対一で結婚してるんだから」


 お湯を肩までかけると、チャポンと水の音がこだまする。どこかの空想物語も真っ青な、実在している夫婦の形。女である自分には、ハーレムなど興味もないが。

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