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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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パパがお世話になりました/4

 陛下の十八歳になる息子の一人は、しっかり者タイプで、国家公務員なのに、結婚しているのに、子供もいるのに、ファンクラブができているような世の中だ。


 恐れ多くも皇子殿下と一緒にするなと思い、貴増参の腕をパシンと、明引呼は軽く叩いた。


「ふざけてんじゃねぇよ。現実は、野郎どもにだろ」


 兄貴と呼ばれて、二千年ちょっと。一人にパンチをお見舞いすると、次の攻撃が独健からやってくるのだった。


「俺はのんびりしてるやつには、驚かせることをするぞ」


 傷口に塩を塗るようなことを、さわやかな笑みで言ってくるものだから、明引呼は鋭くカウンターパンチを放った。


「てめえも親父さんに似て、まっすぐじゃねえな?」

「そのほうがしっかりするだろう? 人助けだ」


 どこまでも明るく前向きな神々ではなく、パパたちだった。新任教師の紹介やら、行事の説明やらが続いてゆく教室の後ろで、男三人の話はまだまだ盛り上がり中だった。


 振り返って手を振る我が子に、貴増参は振り返しながら、


「そんな悪戯をする独健に質問しちゃいます。仕事は何にしたんですか?」


 独健は両腕を組んだまま、窓から見える城の屋根を、春の光の中で仰いだ。


「陛下には父の件で恩義もあるし、尊重という意味で、聖獣隊だ」

「より一層忠誠心があり、能力もある人物がなれる特殊任務部隊です」


 地上と変わらず、様々な人々が交差して、大きな運命の歯車は回ってゆくが、神と呼ばれていても、その上に神さまがいる彼らは自分の未来を見ることはできなかった。


「先鋭がそろってるっつうのは聞いたぜ。息子も優れてたってことか?」


 明引呼が足を動かすと、ウェスタンブーツのスパーがカチャッと鳴った。その音が自分が以前着ていた甲冑がすれる響きと重なり、城の廊下で先日すれ違った、光秀という長い黒髪を持つ上品な男が脳裏に鮮明に蘇った。


 独健にも同じ隊にいる光秀が浮かぶ。剣の太刀筋は素晴らしく、目の付け所も隙がない。


 確かに独健は神と呼ばれてはいるが、実際に地上で戦ってきた人間がどれほど大変だったのだろうと思うと、彼はゆっくりと首を横へ振るのだった。


「いや、俺は本当に陛下についていこうと思ってるんだ。ありがたい配属だと思ってる」


 人の生まれは関係ない。その存在と心が大切なことだ。母親が前統治者の身内だからという理由で、特別扱いされてきた独健だったが、それが間違いだと以前から思っていた。


 しかし、それを取り払うこともできず、今やっと呪縛から解放された。平等という自由を、陛下が与えてくださったのだ。


    *


 調律もされていないピアノを弾いていたが、澄藍は手をふと止めて、すぐ近くの書斎机からノートを引っ張り出した。


「いいか? あとは独健だ」


 黒光りするピアノのボディーには映っていない、コウが言った名前をシャープペンシルで素早く書く。


「独健さん……」

「広域天と弁財天の子供だ」


 神さまの家系図が少しずつ出来上がってゆく。


「ん〜〜? 弁財天さんは恩富隊、いわゆる音楽事務所の社長さんってことね」


 澄藍の心の奥底を、青の王子がかすめてゆく。専属アーティストとして、今も曲を作っているであろう彼を思い出さないようにして、一生懸命紙に書き込んでゆく。


「で、お父さんが政治関係の聖輝隊……」


 コウは空中を右に左に、腕を組みしながら行き来する。


「息子も父の意思を継いで、そこで特殊任務をする聖獣隊だ」

「それね」


 すでに書いてある組織名で、澄藍はメンバーに目を通してゆくと、見たことも会ったこともない神々だが、それぞれの細かいエピソードがまだ脳裏に浅い部分にあって、パソコンのキーボードを叩く手を止めた。


「あれ? この人とこの人が仕事一緒なんだ。こうやって書いてくると、不思議な人間関係が見えてくる」


 物質界と神界――。


 彼女は常にふたつの世界が織りなす人間関係の中に身を置いている。同時進行してゆく時もある。物質界で誰かと話している間に、自分の子供が走り寄ってくるなど日常茶飯事。


 いきなり違う部屋にいるなんてことも起き始めていた。肉体は相変わらず同じ場所に座っているのに、霊視している場所が変わる。脳に記憶されていないのに、知っている空間。


 コウに相談すると、あの世にある家へと魂が戻っている時の記憶が、霊感を通して影響を受けているから、霊視しているのと同じ状態になるのだとか。知らない人と会って話しているような場面がぼんやり見える時もあった。


 つまりは、澄藍は人の二倍覚えてなくてはいけないことが起きていて、とても忙しくなってしまって、神々のほとんどが忘却の彼方へと消え去るとは考える暇もなかった。

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