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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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パパがお世話になりました/3

「本名は明引呼っつうんだ、よろしくな、独健さんよ」


 ハングリー精神旺盛なボクサーのように、鋭い眼光を向けてきた明引呼に、独健はさわやか好青年で微笑み返して、語尾でさりげなくパンチを放った。


「あぁ、よろしくな。パパ友として」


 明引呼は迷惑顔で、パンチを手のひらで受け止めるように防御した。


「だからよ、ガラじゃねえんだよな」


 独健はしてやった的な微笑みを隠しながら、つかんでいた手を離して、次のパンチを放つ。


「そうか? 父もパパ友って、他の保護者から呼ばれてるぞ」


 ふたりの間であごに手を当て、足を軽くクロスさせていた貴増参が、意外というように話に参戦した。


「おや? ずいぶん寛大になったみたいです」

「昔の感じからして、怒るんじゃねぇのか? 心境の変化ってか?」


 どうやっても、あの広域天が納得するとは思えなかった。多少は感情の抑えが効く明引呼でさえ、違和感をあらわにしているのに、あの男が何も言わないのは少々おかしかった。


 独健は楽しそうににっこりして、笑いのオチをつけた。


「そうだ。家に帰ってくると、いつも憤慨してる」


 やはり怒っていた、あの熱い男は。しかも、間違いなく親子だと思った。油断も隙もない、その息子も。いいところを狙ってパンチを喰らわしてきやがると思って、明引呼はふっと鼻で笑った。


「だろうな」

「三つ子の魂百まで――いいえ、永遠です」


 自分たちよりもはるか昔から生きているだろう男に、貴増参は言葉を捧げた。会話が途切れると、開け放たれた教室のドアの向こうを、深緑の短髪を持ち、無感情、無動のはしばみ色の瞳を持つ男が横切り始めた。


「おう」


 明引呼はそれが誰だかわかると、人差し指と中指を立てて、合図を送るように目の前で横に振った。


 紺のスーツを着た男は無表情のまま軽く会釈をして、貴族的な雰囲気をまといながら去っていった。


 普通の人と違っている感が否めず、独健は聞いた。


「今の誰だ?」

「僕も初めて見ます」


 ふたりが知るはずもない。生まれで数年しか経っていないのに、大人として生きている男なのだから。


「紀花 夕霧命だ。うちのガキが一人、クラスが一緒でよ」


 女王陛下の姉妹の苗字だとわかって、独健は夕霧命の後ろ姿から視線をはずした。


「子供が増えると、パパ友が多くなってな」


 単純計算でいけば、子供の数だけ、クラスメイトの父親と母親がいるのだから、覚えるだけでも大変だった。しかも、種族によってはミドルネームだの何だのと、長い名前の人も多かった。


「えぇ、えぇ。混線状態、複雑怪奇です」


 貴増参は真面目な顔をしてボケ倒した。さりげなく、お化けみたいな言い方をしてきた優男に、兄貴は強烈なパンチをお見舞いした。


「『怪奇』は余計なんだよ」

「お前、時々天然じゃなくて、策略的なんだよな」


 あの邪神界と対峙する世の中で、やはりボケだけでは生き抜いてはこれなかった。貴増参は得意げに咳払いをする


「コホン! ちょっとした罠でした」


 派手さはないが、男に色香という言葉を使わずにはいられないほど、性別を超える魅力が匂い立つ色気が、夕霧命の歩いた廊下に漂っているようだった。


 妖艶な魔法にかけられた男三人の中で、一番落ち着きを持っていた貴増参が場を仕切り直したのだった。


 寡黙で無動の視線が印象的な男について、明引呼はただのパパ友達としてアドバイスする。


「さっきの野郎のとこもよ、ガキ増えてきてっから、クラス一緒になっかもしれねえぜ」


 スーツ姿にしては、歩き方がどうも不思議というか、足音がしておらず、独健は首を傾げた。


「落ち着いた感じに見えたが、何かやってるのか?」

「細けえ名前は忘れちまったけどよ、武道やってるってよ」


 あの男の色香が匂い立つ夕霧命が、上が白で下が紺の袴姿で、百九十八センチの長身で重厚感を持って歩いてくる姿が、男三人の脳裏に浮かんでいた。


「この世界によくいる男性の一種類に分類される、一点集中型――修業バカタイプです」


 あごに手を当てていた貴増参は、にっこり微笑んでいるが、さりげなく判定を下した。独健はため息をつき、鼻声でしっかりツッコミ。


「お前もあんまり人のこと言えない」

「僕は修業バカではありません」


 ついこの前までは鎧兜を着ていたが、決して一点集中ではなく、武術など無縁に近い生活だった。そんな貴増参の右隣で、明引呼は声をしゃがれさす。


「もうひとつに引っかかんだろ?」

「のんびり天然ボケタイプ」


 してやったりと微笑んだ独健の隣で、貴増参は頭に手を軽く当てた。


「そちらは僕も直したいんですが、知らないうちにボケてしまうので、僕にも困ったものです」

「俺と明引呼はどっちにも入らない、珍しいタイプってことだな」

「希少価値があると言うことで、ふたりは女性に持てちゃいます」

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