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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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死んでも治らないお互いに/3

 まだ準備中で、人に聞かれては困る極秘事項。孔明は何気ない振りをして、あたりを見渡したが、人々は遠くを歩いていて、そばには誰もいなかった。


 張飛は確かにお調子者で感情的になりやすいが、情には厚い。しかも、内緒話はよくしたものだ。孔明は少しだけかがみ込み、耳元で口止めを要求する。


「ここだけの話」

「いいっすよ。昔のよしみっす」


 張飛は酒が入ったグラスを口につけて、視線は前をまっすぐ向いたまま、大した会話ではない振りをする。孔明はお礼を言って、そのまままっすぐ伝えた。


「ありがとう。私塾を開こうと思ってるんだ」


 少しの間、風が遠くに飾ってある大きなクリスマスツリーを揺らしていたが、張飛は孔明に振り返って、ひげだらけの顔で微笑んだ。


「いいんじゃないすか? 孔明の頭の中をたくさんの人たちに広めるのは、世のため人のためじゃないっすか」

「張飛は本当に何でも前向きだね。でもそれが安心するかも?」


 可能性の数値というものは、新しい情報が入ってこない限りはほとんど変化しない。神界の前向きな考え方に触れていない孔明にとっては、張飛の解釈が今は心地よいのだった。


「そうっすか。それならいいんすよ」


 同じ時代を生き抜いてきた張飛だ。少しぐらいの知恵はある。さっき泣いていた孔明が幸せなら、何でもしようとお人好し全開だった。


 近くの植え込みを歩いてゆくカップルを、張飛はチラッとうかがう。


「誰か好きな人は見つかったっすか?」

「ううん。張飛は?」

「俺っちもいなかったすね」


 孔明はわざとらしく、疑いの眼差しを向けた。


「酒池肉林じゃなかったの?」

「ならないっす。肉体から抜けたら、まったくそんなものに振り回されなくなったっす」

「人間の三大欲求がないのが、霊界と神界だからね」


 自分も体感しているのに、孔明はわざと張飛に言った。冗談が言え合えるほど仲のいい関係が出来上がってゆく。


 骨付き肉を大きな口を開けて、一口でかぶりついた張飛はもぐもぐとあっという間に食べて、今は若くてイケメンになってしまった孔明を見つめた。


「結婚はしないんすか?」

「しない。純粋に仕事だけをしてみたいから」


 結婚と出産ブームの世界で、違う道を歩もうとしている孔明。張飛はここぞとばかりに突っ込んでやった。


「孔明は相変わらず、仕事バカっすね」

「いいでしょ? 好きなことを好きにやりたいんだから。子供なんて育ててる暇はないもん」


 雪が止んだ空を見上げていた聡明な瑠璃婚色の瞳が、こっちへ向いて漆黒の長い髪が緩やかな円を描いた。


 後ろにオレンジ色の明かりが広がり、クリスマスツリーの飾りがあちこちで色とりどりの花を咲かせて、凛々しい眉をした男を引き立たせて、まるで映画のポスターでも見ているような気分にさせる。


 張飛の隣でカラになった皿が全て山積みになると、自動回収システムで姿を消した。


「そうっすか? 子供も自分の心の糧になるっすよ」


 両手をそろえて、グレーの光沢があるタキシードを着た、孔明はきちんと座り直した。


「とりあえず今はいい。張飛は仕事は決まったの?」

「俺っちは、聖獣隊っす!」


 張飛はサッと立ち上がって、ちょうど近くにきた給仕係から食後のお茶をふたつ分受け取った。


 渡された湯飲みを、孔明は両手で包み込むように持つと、寒さは感じないのに、白い湯気がゆらゆらと上がった。


「あれ? 張飛、議会のメンバーになるんじゃないの? あんなに政治好きだったのに」


 皇帝陛下が玉座に座っているから、王政だと思いがちだが、立憲君主制なのだ。議会が基本的に政治は仕切り、意見が分かれた時に、皇帝陛下が決めるという政治体制だった。


 口直しのお茶を一気飲みして、残っていた酒のグラスに、張飛は手を伸ばし始めた。


「本当に向いてることが他にもあるかも知れないって、思ったす。すぐに職を変えられて、世の中をよく知ることができるって言ったら、特殊部隊の聖獣隊が最適かと思ったんす」


 豪快に好きなものを好きなだけ食べて飲んでをしている男は、抜け目がないのだった。城に関わっていれば、新しい情報は入ってきやすい。孔明はお茶を一口飲んで、隣の男を評価する。


「ふ〜ん。張飛って、見た目に反して、意外と計画的なんだよね」


 ただおしゃべりなのだ。それは情報漏洩が簡単にしてしまうことだった。


「そうっすか? 世の中が平和になっていくほど、特殊部隊の存在は必要性を失う。いつかはメンバーを減らして、規模を縮小する可能性があるっす。そうしたら、辞める日がくる。もちろん、陛下への忠誠心は持ってるっすけどね」

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