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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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価値観の接点を探して/5

 雲の動きを見て天気を予測できるほど眺めた地上からの空を、孔明は鮮明に思い出して、平民は戦いなど望んでいないのだと、痛感する毎日を脳裏でたどる。


「私も戦争ばかりの日々に生まれ、心を痛めていました。戦争に加わるよう言われましたが、私は戦争をやめることこそが平穏な暮らしの第一歩だと思っていました。ですが、私は考えをその後改めて、自身の手で平穏な暮らしを手に入れようと思いました。人は無力だということも知らずに」


 孔明は一旦言葉を止め、究極の慈悲を持つ男をじっと見つめた。


「明智さんのほうが優れていらっしゃる。戦いを未来で食い止めたのですから」


 本当の敵は人間ではなく、邪神界という悪の集団だった。それに気づくことなく、無防備に思案した結果が孔明の人生だった。


「私は決して一人前ではありません。陛下のお力添えがあってのことです」


 光秀はどこまでも謙虚だった。この男と面影が似ている人は、あの謁見の間で玉座に在わす方だった。


「あなたでいらっしゃいましたか」


 目の前にいる男は、地位も名誉もいらないのだ。最低限の礼儀として、孔明はそれ以上わざと言わなかった。


「お気遣い恐れ入ります」


 光秀もわかっていて、少しだけ目を伏せた。パーティー会場にいる人々は男二人のやり取りに気づくものは誰もいなかった。


 孔明は思う。自分がやってくる前にも、この世界は様々なことが新しくなっていて、その間に起きた出来事を聞いた限りを脳裏に蘇らせた。


(陛下の過去世から分身されて、別の個体として生きていらっしゃる方が、お二方いると聞いたけど……)


 また音楽が一小説も奏でられない間で、光秀は慎み深くステージの中央に掲げられている、獅子の紋章の旗を見上げた。


(私は本来なら、陛下に取り込まれており、存在は許されません。ですから、誕生させていただいただけで光栄です。私は何も望みません。明智を名乗っている以上、私は皇家ではないのですから)


 身内優先主義の皇帝が人々の尊重など受けられるはずもなかった。それでも、陛下は堂々たる態度で、特殊部隊のメンバーに光秀を含めて彼の息子たちも据えたのだ。


 彼らの人となりは少しでも話せば、他人優先の慈悲に満ちあふれた人々だと、神様の世界に住む人々はすぐに理解した。陛下への忠誠心は揺らぐどころか、より強くなったのだ。


 謀反は噂話ではなく、単なる過去の言葉として言っていたのだ。不思議そうな顔をしたのは、なぜそんなことを光秀が言われているのかが、他の種族にはまったく理解できなかったからだ。


 会場に流れていた曲調が急に明るく速いものに変わり、それがまるで合図というように、孔明が丁寧に頭を下げると、漆黒の長い髪がタキシードからサラサラと落ちた。


「失礼いたします」

「失礼」


 光秀が頭を気品高く下げると、ステージ上でゲーム開始のアナウンスが流れた。孔明はわざと離れてゆくそぶりを見せて、さっきとは違った軽い調子で別の話題をふった。


「あぁ、そうでした。この世界へきてから、身長と年齢はお変わりになりましたか?」

「えぇ。背は伸び、年齢は若返りましたよ」

「ありがとうございます」


 孔明はカクテルグラスの酒を一気飲みして、カラのグラスをちょうどきた給仕係が持っているトレイに乗せて、背が高い分人よりもよく食べる彼は料理のテーブルへ近づいてゆく。


(思慮深い方だった。陛下とは雰囲気が全然違う。ボクとも違って、落ち着いてる。礼を重んじる人)


 動くことは滅多にないのだが、大切な人だと気づけば、自ら出向いて頭を先に下げる光秀が見てとれた。


 孔明は冷製のラム肉を皿に取って、ソースをかけながらさらに考える。


 ――マキャヴェリズム。


 悪がいる世界では、AとBのどちらか一方しか選べないという場面によく出くわす。

 Aを選ぶと千人助けられる。

 Bを選ぶと千一人助けられる。

 この時、一人でも多いBを選び、Aの千人を切り捨てるという考え方が、マキャヴェリズム。

 それを何の迷いもなしにできる人物。

 人生には制限時間が必ずある。戦争ともなれば、一秒の迷いでも命取りになる。

 だからこそ、理論で無感情に千人を切り捨てられる人材が必要となる。

 彼はそれを実行した人――。


 山盛りにした皿から顔を上げると、光秀の姿は様々な姿形の人たちに隠れてしまっていた。


「彼と仲良くなりたいけど、どうも彼は他の種族の人たちに好かれるみたい。落ち着きを持ってる人間の中には、そういう傾向がある人がいるらしい」


 生きている時よりもよく見え、錯覚という誤差も起こさない瞳で、光秀のそばにいる種族を口にする。


「パンダでしょ? キリン、龍、ウサギ……。この言い方はよくないけど、動物園みたいだ……。あんなにまわりを囲まれてる」


 何かの運命に阻まれているように、孔明と光秀を溝のようなもの――いや幸運という名のリボンが一本横切っているようだった。


「ボクの入り込める余地なし……」


 孔明が軽く嘆息すると、離れた場所から争うような声が聞こえてきた。楽しいゲームタイムのはずなのに、穏やかではない出来事が起きている。


 音楽も鳴っていて、人々の話す声でかき消されてしまうはずなのに、なぜか孔明の耳というか心に入り込んできた。


「この声どっかで聞いたことがある……」


 人混みをかき分けかき分け、漆黒の長い髪を持つ男は進んでいった――

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