価値観の接点を探して/2
そこでさっそく買ったパソコンは注文してから三十分ほどで、家に届けられるほどのサービス満点。床板に置いたまま、まだ少し慣れない指使いで操作する。
「昨日行ったカフェで、綺麗な絵を支払いにしてる人を見かけた。その絵はとても素晴らしいものだった。代価としての価値があれば、お金として使える。当然、相手の心を動かせるほどの素晴らしいものでなくてはいけないけど。これが経済の主流」
それは、とても微笑ましい光景だった。客が帰ったあとにカフェの壁に、店の雰囲気を引き立たせる絵が飾られ、他の客たちもそれ眺めながら、憩いの時間をさらに味わっていた。
お金を稼いで物を買うのか。それとも、自分の能力で物を交換するのか。どちらか選べる自由さがこの世界には許されていた。
「ボクだったら、みんなが気づいてない理論を教えて、代価にするもできるってこと」
しかし、どんな分野でもレベルは半端ない。何千年も生きている人が大勢いて、億単位の人もいる。人間に知恵を与えた神さまたちと対等の位置へ立たないと、代価にならない。小学校一年生でも地上の言葉全てを読み書きして、話せるような世界だ。
「お金に人々の重大価値が集中していない」
白雪が風に舞い、グレーの空の下で柔らかな線を引いてゆく。全てを記憶する頭脳で、街ゆく人の顔を一人一人思い出す。
「他の種族の人たちの価値観は、ボクたち人間とは違っていることが非常に多い」
目線が違えば、見ているものも感じるものも違って当然で、人々の話や言動を見ると、自分が今まで培ってきた可能性の数字を簡単にひっくり返された。
「笑いのネタも人間に通じても、他の種族には通じないということろをたくさん見てきた。自虐ネタや死亡フラグというものは、人間で面白いと思う人が少しいるだけ」
首都の中央にあるスクランブル交差点には、ビルに大画面テレビがあり、今人気の二本足で立つ猫のアーティストが出ているミュージックビデオが流れていた。
「音楽に携わってる人は人間が思いもつかない独特のリズムや、人が出せない声をしてたりする」
そのあとに入った店は子供の洋服店で、同じデザインなのに大きさや形が様々なものだった。チップを持って買い物にきていた子供に、丁寧に頭を下げるカンガルーの女性店員をうかがった。
「子供たちは誕生日を祝うのが誰でも当たり前だけど、プレゼントで洋服を買いに行くと、店員の人は必ず、『お友達は何族の人ですか?』と聞いてくる。服の形やデザインなどが違うってこと」
アイスクリームという冷たくて甘いものも食べた。龍が空を飛んでデパートへ入ってゆく雄大な姿も眺めた。歩道に立っているだけでも、遊園地並みに興味が引かれてばかりの首都の街だった。
「そういうわけで、地上で培ってきたものが通用しない部分が多いってこと。多種多様に大切だと思うことがある。そうなると、さらにこの世界の価値観を勉強しないと、ボクの塾は始めても行き詰まってしまう可能性が非常に高い」
白いモード服は不意に横になって、肘を立てて頭を手のひらに預けた。
「できるだけ、街に行って情報を収集してこよう」
縁側に寝転がりながら、一番硬いと噂のせんべいをバリバリと噛み砕く。
「本を読む。パソコンは少し手が動かしづらい時があるけど、使いこなして情報を得る。どうも地上では、ネットは危険らしんだけど、偽の情報が載っていたりね。でも、この世界では犯罪が起きないから、大切な情報源として使ってもオッケー」
足でパソコンを自分へを呼び寄せて、パタンと画面を閉じた。
「みんな仲良くという法律は、人を困らせてはいけないのも入ってるってこと」
偽の情報を信じて、その人の心が傷つけば、治安部隊などに拘束されるということだ。そんな人はそもそもいないのだが。
罪を犯せば、神であっても地獄へと入る。陛下でさえ、新しい法則に変わり、自身がそのルールからはみ出たのなら、地獄へと自ら落ちたこともあった。
特別扱いをしないからこそ、陛下に人々がついてゆくのだ。しかし、人間が数千年かかるところを、神は他人優先の心の清らかさで数時間で出てきてしまうのだが。
「あとは、陛下が主催するパーティに参加することかな? そこで知り合いができれば、そこから枝葉を伸ばしていってもいいし……」
気持ちはとても楽だった。命を狙おうとする人がどこにもいないのだから。自分を邪魔するものはない。ただ自分のノウハウは極秘にしておいかなければいけない。価値のあるものにするのだから。
「とにかく、今日は十七時から陛下主催のパーティがあるから、そこに参加して話を聞こう」
毎月、何か特別な日がカレンダーには設けられていて、その度に陛下主催のパーティーが城の大広間で開かれる。そこまで堅苦しいものではなく、雛祭りや七夕といった行事だ。
隣接する高級ホテルへの宿泊もできて、快適さが人々には人気となっていて、大人から子供まで楽しめる社交場となっていた。
「よし、そろそろ行こう」




