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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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神が空から降りてきた/2

 話ができるほどそばへやってくると、ウサギの耳が前へお辞儀して折れた。


「失礼します」

諸葛亮孔明しょかつりょうこうめいでよろしいですか?」


 人間の形をした神に、男は生きていた時の名前を言われた。聡明な瑠璃紺色の瞳は隙なく神ふたりを見つめる。


「はい。ですが、《《亮》》の名は死んだと同時に捨てました。ですから、現在は諸葛孔明です」


 警戒心は自然と出る。邪神界の上層部は神の領域だったと聞いた。新しい統治者が人々の幸せを考えているとは限らない。


 ウサギはにっこりと微笑み、深々と頭を下げた。


「さようでございますか。失礼いたしました。それでは、改めまして、諸葛孔明、陛下がお呼びでございます。神界の謁見の間へご同行願えますか?」


 孔明と呼ばれた男は、クールな頭脳の中で自分の秤にかけた。


(部下の言葉遣いと態度がきちんとしている。神であっても、人間の意見を問うている。陛下は人々の幸せを考えているという可能性が非常に高い。自分の欲や地位のために上に立つ者の部下は横柄になり、身分で人を差別して、相手の意思を無視する傾向が強い。そういう政治は長く続かない。話をする価値は十分にある)


 ここまでの思考回路、0.01秒。孔明は足をそろえて、陛下の部下に頭を深々と下げ、


「はい、かしこまりました」


 すると、神の力であっという間に、神界にある城の謁見の間へ連れていかれた。


    *


 瞬間移動をかけられた孔明は、さっきまでいた霊界とは違って、暖かな柔らかい空気が自分を包み込み、どこかの聖堂かと思うような高い天井がある建物の中にいた。


 真紅の絨毯の先には立派な玉座。その両脇には、獅子が前足を上げ立っている堂々たる姿が描かれた国旗が掲げられていた。


 洋風の甲冑を着た男が肘掛にだるそうにもたれかかり、こっちをじっと見ていた。生前や霊界での経験を生かし、孔明は絨毯の上に最敬礼で跪く。


 すると、高い声を無理やり低くしたような男の声が、臆することなく響いた。


「そなたのことは以前から聞き及んでいる」

「身に余る光栄でございます」


 お礼はするが、それで浮かれるような自分ではない。何の用件で呼ばれたのかと思いきや、陛下がおっしゃったのは驚きの内容だった。


「私はそなたを神の域へと上げたい」と言って、絨毯の両脇にずらっと並んだ重鎮たちに陛下の視線を向けられた。「しかし、その前に、お前たちに聞きたい。この者の評価はどうだ?」


 すると、一人がサッと手を上げた。


「はい」

「申せ」

「人間として生まれましたが、神にも勝る頭のよさです」


 品定めといったところだろうと、孔明は思った。


「はい」

「申せ」

「反則と言っても過言ではありません!」


 謁見の間がざわざわとし、他の部下たちも同乗した。


「はい」

「申せ」

「ここまで頭の切れる人物は、神世でも存じ上げません」


 百点満点どころではなく、千点満点だった。陛下は足を堂々たる態度で組み替え、重鎮たちを見渡す。


「他は?」

「…………」


 さっきまでの活気はなくなり、人々の視線は孔明がいる絨毯に雪崩れ込む漆黒の長い髪に集中していた。


「ないか?」

「…………」


 あとからきた者を取り立てる。それは先にいたものにとっては、少々気になることであって、陛下はそれを考慮して、部下たちの意見も聞いたのだった。


「それでは、この者を神の領域へと上げる」


 謁見が終わってしまうような流れになり、絨毯を見つめたままの孔明の瑠璃紺色をした瞳は少しだけ大きく見開かれた。


(陛下のご意思はどこにあるの? みんなの意見だよね? それとも……)


 陛下の話の順番に、どうもきな臭い感じが漂っていた。


「お待ちください」


 孔明はサッと立ち上がって、陛下の瞳をじっと見つめた。それでも、皇帝は動じることもなく、ただただ椅子に腰かけている。


「何だ?」

「なぜ、陛下は私のことを神の領域へと上げるとご判断されたのですか?」


 もうすでに駆け引きは始まっていたのだ。感覚の人間であれば、質問を投げかけ続ければ、相手の情報は手に入る。


 しかし、相手も駆け引きができるとなると、質問するのは愚策。自分の聞きたがっている内容が情報として渡ってしまうのだから。もちろん余計なことを話すのは論外。


 つまり陛下は理論の人なのだ。そうなると……。


 ここは素直に聞かないと、負ける可能性が一気に上がってしまうと、孔明はそう踏んで陛下へ問いかけた。そばに控えていた部下は、孔明と陛下の駆け引きが何なのか知らず、人間から神へ今上がったものを、いさめようとした。


「これ、失礼が過ぎ――」

「構わん」


 陛下は相変わらず、肘掛にだるそうにもたれたまま、声の威圧感だけで部下を制した。


「は、はい……」


 お付きのものが戸惑い気味に返事をすると、重鎮たちの視線は二人に集中した。陛下が噂話を鵜呑みにしていないことが明らかになる。

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