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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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神が空から降りてきた/1

 毎日のように近くのレストランで外食。さっぱりしたサラダをフォークとナイフで、澄藍は上品に食べようとすると、コウがぽわんと音を出して、煙が拡散するように現れた。


「人間から神さまになれるって知ってたか?」

「そうなの?! なれないと思ってたよ」


 奇跡来だったら今ごろ、ガチャンと派手な音を出してフォークとナイフを落としているところだったが、冷製な頭脳を持つ澄藍はただ手を止めただけだった。


「どうしてそう思う?」


 落としてしまったルッコラを再びフォークに刺して、独特の香りを楽しむ。


「人は人、神さまは神さまでしょ?」


 同じ世界に存在できるはずがないと、勝手に信じ込んでいた人間の女に、子供の姿をしているが大人の神である、コウはどういう存在だと思って神々が生きているかを説いた。


「神さまも人として生きてる。それに、心に線引きなんて必要ないだろう? それこそ差別だ」

「そうか……」


 炭酸ジュースが受け付けなくなった澄藍は、水を飲んで物思いにふけった。


 境界線を引いていたら、神さまはおそらく横暴になるだろう。人間を自分たちよりも下に見ていることになるのだから。同じ心を持っている存在だと、神は思っているからこそ、世界の境界線を乗り越えられて、人間に手を差し伸べられるのだ。


 逆に言えば、神さまも心を持っていて、傷ついたり、悩んだりもするのだと気づいたものが、神界へ行ける条件をひとつクリアするのだ。


「人間だって心を磨いて、神さまと並べば神界へと上がる」

「神さまになる人間がいるんだ」


 傲り高ぶらないからこそ、神の領域へと行ける存在。だからこそ、本人は何も言わないから、名前もそんなことがあるとも知られていないのだ。


    *


 陛下が座す城はどこにも見えず、あの首都の摩天楼の群れももちろんなかった。晴れ渡る空は同じ。いや少々不透明だった。神世と違って、美しさが少ない世界。


 人々は今日も集まって、あれこれと話し始める。


「悪が倒されてから、はや三年」


 頭の上に光る輪っかが乗り、背中に立派な両翼を従えた人々。地上と神界の間にある、霊界の住人であることを表していた。細く分けるのなら、神の世界へあともう少しで上がれる人々が暮らす、天使たちが住む天界。


「色々と法則が変わりますね」

「えぇ、しかし、神さまのすることですからなあ」


 家族や愛する人でも、霊層という魂の透明度を分ける数値が違えば、一緒に住むことは許されない、厳しい世界が天界を含めた霊界だ。


「そうですな。私たち人間にはどうすることもできません」


 統治者が邪神界を倒したとなると、《《普通》》の価値観が要求され、霊層を分ける条件が変わり、同じ世界にいた人々が別の次元へ移動することが言い渡されるなど、人の動きが激しい日々だった。


「先生、いかがですか?」


 空を見上げ、見えない神界を眺めていた男は、隣に立つ背が異様に高い男に声をかけた。漆黒の長い髪は、頭高く結い上げてもなお腰までの長さがあり、聡明な瑠璃紺色の瞳はどこまでもクール。


「私は先生ではありませんよ。みなさんと同じ人間であり、霊層です」


 謙遜する男は、薄手の白い着物のような服を風になびかせた。


「そうは言ってもですなあ」

「生きていた頃の話です。人間である私には何の力もありません」


 死後霊界へときて、地上よりも世界は広く、霊層というものが必要不可欠で、それがないばかりに、幽霊の自分には世界を変えることはできなかった。


 男のまわりにはいつの間にか、たくさんの人々が集まっていて、神か何かをあがめるように手を合わせて、頭を下げ始めた。


「色々と教えていただいたのは、先生のお力です」

「そうです。先生がいてくださったから、私たちはこうして無事でここにいるんです」


 昔の名残りはいつまで続くのか。男はそう思う。そこに甘んじていては、足元を救われ、自身の発展はない。つまり、勝つ――世界を変えるために必要な霊層が上がることはない。


 それは自身で気づき、登ることだ。自分は人々に何もしていない。アドバイスはできても、最終的に変えたのはそれぞれなのだ。男は春風のように柔らかく微笑んだ。


「少しでもお役に立てたのでしたら、嬉しい限りです」

「さすが先生は有名な《《軍師》》であっただけありますね?」


 にっこり微笑む彼の心の内では、それはもうすでに過去なのだ。ただの事実のひとつに過ぎないのだ。


「死んだのはもうずいぶん前の話です。ですから、軍師ではもうあり――」


 男の言葉の途中で、集まっていた人々の一人が空を指差し、大声を上げた。


「あ、あれは!」

「誰かが降りてくるぞ!」

「あれは神さまではないのか?」

「神さまが人間の世界にくるのか?」


 人々の意識は空から降りてくる、光り輝く二人の人物に次々に集中した。希望の光が人々に降り注ぐように地面に降り立つと、貴族服を着たウサギと人間が、同じ背丈で漆黒の長い髪をした男へと近づいてくる。


 人々は威厳と神聖を肌で感じ取って、モーセが海を割いたが如く左右に分かれ、貴族服の人たちと男との間に道を作った。

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