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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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逆順番で恋に落ちて/2

 説教ではそんな話もあった。自分を律した先に、他人を優先させて、自身が幸せを感じられることがあるのだと。


「とにかく僕はルール違反をしている。だから、彼への想いは忘れるべきだ」


 様々な動物たちが二足歩行で、サッカーをしているグラウンドの隣を、光命は一人ボソボソ言いながら通り抜けてゆく。


「忘れることができる可能性の高いものを探さないといけない」


 愛に出会えば、それが真実であり、永遠に続いてゆく世界。片思いの相談はたくさん載っているが、最後のオチは必ず、相手も好きだったという両思いの話ばかり。


 はっきり言ってバカップルだらけの神界。別れというものはない。終わらせ方もない。


「人を好きになったことを取り消すなんて情報はどこにもない。片思いが両思いになったや、付き合っていたが結婚したしか事例がない。僕の今までの情報から可能性を導き出すしかない」


 どこでどうやって、恋に出会ってしまったのかと、光命は全てを記憶する頭脳を正常に稼働させようとしたが、白と黒の大きなボールが勢いよく向かってきて、


「夕霧がそばにいることで、ドキドキするようになったのは、五年前の――っ!」


 光命の頭に、サッカーボールが直撃して、ぶつかるという危険を予測できなかった優等生は、そのまま地面に仰向けに倒れた。


 サッカー部の生徒たちが慌てて走り寄ってきた。


「大丈夫か?」

「ごめん、ボール間違って飛んでいっちゃって」


 目を閉じたまま、動かない光命。死がない怪我がない病気がない世界で、生徒たちは線の細い体を揺すぶってみた。


「光くん?」

「眠った?」

「どうした?」


 光命をあの日からずっと目で追いかけてきた夕霧命が走ってやってきた。危機感がない生徒たちは、無感情、無動の瞳を見上げて首を傾げる。


「あぁ、夕霧くん。光くん、目を閉じたまま動かないんだけど、どうしたのかな?」


「光? 光?」何度か問いかけては見たものの、冷静な水色の瞳が姿を表すことはなかった。夕霧命は光命の背中に手を回す。「俺が運ぶ」


 従兄弟の様子がおかしい。学校で倒れて、目を開けないなんて、そんな生徒は今までいなかった。夕霧命は光命をお姫様抱っこして、保健室へと向かった。


    *


 利用者が滅多にいない保健室に、明かりがついていた。学校から連絡を受けた両親はびっくりして、リムジンでくることもせず、瞬間移動でやってきた。


 光命はすぐに目を覚ましたが、ベットに腰掛けて、夕霧命と見守っていた。先生の話がさっきからリピートし続けていることを。


 カンガルーの保険医が両親に、あきらめずにもう何度したのかわからない説明をする。


「気絶というものです」

「どういうものですか?」

「我々、魂で存在するものには起こることは滅多にないんですが、肉体というものにはよく起こります。意識がなくなるんです」

「それは眠っているのではないんですか?」

「そうではなく、自分の意思に関係なく、意識がなくなるんです」


 急に眠くなることだってある。両親は何度聞いてもやはりわからず、ため息まじりにうなずくしかもう方法がなかった。


「はぁ……」


 ガラス細工のような儚さを持つ光命を、カンガルーが見つめると、紺の長い髪がサラサラと窓からの風に揺れた。


「物が当たったぐらいではならないのですが、息子さんは繊細な性格なのかもしれませんね。また倒れるようなことがあれば、病院を訪れるといいですよ」

「はい、ありがとうございました」


 この事件は氷山の一角だと、まだ誰も気づいていなかった。


    *


 十五歳、高校二年生。腰の重い従兄弟に転機が訪れた。学校の中庭にあるベンチで、深緑の短髪の背後から、光命が顔をのぞかせた。


「何を見てるんだい?」

「武術を習いに行くことにしたんだが、道場の候補を絞ろうと、動画を見ていた」


 大会の応援にこれで行けるという可能性が出てきて、光命は夕霧命の横へ座った。


「淡々と物事をこなす君にはいい習い事かもしれない。動画を見せてくれるかい?」

「構わない」


 渡された携帯電話の画面には、袴姿の男ともう一人映っていたが、光命は以外というように言った。


「猫……?」

「そのまま見ていろ」


 触れてもいないのに、相手が倒れるという武術だったが、ちょっとした隙に、真っ白な毛皮に覆われていた猫は、小さなおじいさんに変わってしまった。


「……いや、人間に変わった。魔法という可能性もあるけど……」


 夕霧命は珍しく目を細めながら、首を横に振った。


「魔法ではない、武術の技だ。道場は数あれど、姿形を変えて教える人間はこの人だけだ」


 原理が知りたい。理論的に物事を捉えたい。光命はあごに手を当て考え始めた。


「どうやって変えているんだろうな? やはり姿形は魂が強く関係するから、心を変えるという可能性が高いだろうか?」

「お前が考えてできるくらいなら、世に中、達人だらけになっている」


 もっともな意見を真っ直ぐぶつけられた光命は、デジタルに記憶を持ってきた。


「これは剣を使っていないから、去年話してくれた無住心剣流とは違うってことかい?」

「そうだ。これは合気だ」

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