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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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神の御前で恋は散って/4

 自分の手の届かないところへ行ってしまう。たとえ今後、大人の神さまが見えるようになったとしても、彼は既婚者で妻がいて子供もいる。神である以上、どんなことが起きても誠実でいる。


 人間を好きになったようにはいかない。言動に起こさなければ、好きでいても罪にはならないという妥協案ができない。


 心に思ったことは聞こえてしまう。伝わってしまう。恥をさらして、神の御前に立つわけにはいかない。そんなことはしたくもない。


 澄藍の落胆は絶望だった。フェードアウトではなく、切断が要求される恋心。子供には見えても、大人の神さまであるコウの前で、栄えある彼女に選ばれた女性神のことを思いながら澄藍は無理に微笑む。


「そうか。光命さんはそういう女の人が好きだったんだね。みんな結婚してたもんね。だから、光命さんもすぐにするね」


 あの神さま名簿は、あっという間に配偶者が追記されてゆく毎日。別れる人は誰もいない世界。悪という概念がないからこそ、発展し続ける方法を懸命に考えて、前に進む神々。


 それにもれずに、光命も自身の家庭を持つと予言して、コウはすうっと消え去ってゆく。


「そうなるだろう。俺は大忙しいから、またくるぞ」

「うん……」


 配偶者はもう起きていて、一人きりの寝室。澄藍の瞳の縁に溜まっていられなくなった涙がこめかみを伝い、シーツをそっと濡らし出した。


(そうか。前にこの肉体に入ってた、奇跡来みたいな人が好きだったんだ。理論じゃなく、感覚の人でリアクションが大きくて勘が働いて、今の私にないものを持ってる人が好みだったんだ)


 自身にまるっきり似ている人とは上手くいかないと、よく聞くが本当にその通りだったと思った。光命の思考回路が好きで追いかけた結果、澄藍は彼に似ていったのだ。


 しかも、言葉を交わすどころか、会うこともなく、自分で勝手に恋をして、失恋をして、究極の独りよがりで身分違いだった。


(自分を卑下するつもりはないけど、神さまが人間の自分を見てくれるはずがない。私の存在どころか、地球のこともたぶん知らないんだと思う、光命さんは。それでも、彼が幸せになれたことを心から祝福しよう。そして、私は彼を忘れる努力をしよう。そうやって生きていこう)


 待っても意味がないのだ。青の王子はもう振り向かないのだ。


(それよりも何よりも、神さまの世界は永遠だから別れることは絶対に起きない。その女の人と永遠の時を生きるって、光命さんは決めたんだ。私の入る余地はもうない。というか、そんなことを望んでいたのかと思うと、私は私利私欲の醜い魂――神さまから見れば、見た目も醜い人間なんだ)


 一番大切な心さえ、澄藍と光命は天と地ほどの差がある。だからこそ、神の域へはどうやっても足元にさえもたどり着けない。人間が生きている時間などせいぜい数十年だ。何億年も生きている神の世界へ近づくのは、転生をして記憶をなくしてを、何度繰り返さなければいけないのだろう。


 ようやく釣り合える位置へやってきたころには、永遠に十八歳のままだった光命には孫もいて、気品高さも優雅さも輝きを増して、誰もが振り向く青の王子は健在なのだろう。老いることなく、若く美しいまま。


(落ち込むこともできない。恋愛対象にしてはいけない人なんだからさ。それを欲望というもので、無視したからこうなったんだ。自分の責任だ。恋愛対象にならないんだから、運命で結ばれるはずがない。理論で考えれば、それに気づいたはずなのに……)


 恋をする前に、恋愛をしてはいけない人だと知りたかったと、後悔しても過ぎてしまったことは変わらない。それならば、これから起きることを考えなくてはいけない。


 未だに止まらない涙を、手の甲でゴシゴシと拭って、世界で本当に一人きり、澄藍は忍び泣く。


(もう何ひとつ思ってはいけない。だって、心に思い浮かべたら、神さまには聞こえてしまうから。どこかで、光命さんが聞いてたら迷惑をかける。それが一番したくない。叶わないのに、好きになってはいけないのに、それを彼が知ったら困らせるだけだ。だから、間違っていたと反省して忘れよう)


 眠れない日々が続いていたが、今度は眠り過ぎるほどの睡眠時間になった。しかし、彼女はそれがおかしいと気づかないまま、しばらくすると、テレビゲームをプレイして、小説を書いての毎日をまた始めた。

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