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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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神の御前で恋は散って/3

 モデルとなっている神さまのキャラクターに興味を引かれた、澄藍は最近自作の小説を書いていた。ゲームプレイの合間を縫って、パチパチとキーボーを叩いていた手を止め、首を傾げる。


「何だか、最近おかしい気がする」


 ここ三ヶ月近くの出来事を、彼女の記憶なりに探ってみる。


「前は九時間も睡眠時間がないと、よく眠れてなかったのに、四時間で済んでる。しかも、頭が冴えてて、うつらうつらでも、朝六時に平気で起きられる。睡眠時間ってそんなに変わるものなのかな? 外に働きに行ってないから、疲れてないってことかな?」


 うとうとしか寝ていない。それは自覚している。あの眠りに入る寸前のような感覚。それが数日ではなく、数ヶ月単位。


 普通なら眠いはずだし、朝起きられないはず。それなのに平然と起きて、昼寝もすることもなく活動し続ける毎日。


 それでも、調子がいいのは確かで、何よりも事実と可能性を考えるのが楽しいし、光命をモデルとしたキャラクターの執筆をしていると、時間も何もかも忘れてしまう。できることなら眠らないで、彼の思考回路に三百六十五日、四六時中触れていたところだ。


 いつも通り、六時に目が覚め、先に眠っていた配偶者より、早く起きて書斎机のある部屋へ、パソコンを起動させるために入った。椅子の背もたれに手をかけながら、デジタル頭脳を展開する。


「あの可能性が高い。これは低い。その可能性もあるから、そうすると可能性の数値は変わって――」

「おい! お〜い!」


 どこか遠くから、誰かの声が聞こえてきた。起きているはずなのに、遠くからする。


「ん?」


 視界がいつの間にか真っ暗だった。それはまぶたを閉じていたのが原因。それなのに思考はずっと続いていた。


「気がついたか?」


 ぼやけていた視界に、赤と青のくりっとした瞳が映った。


「コウ……」


 見え方がおかしかった。どうやっても、澄藍とコウはお互い直角に立っている。左頬に冷たい感触が伝わる。


「あれ? どうして床が頬にっていうか、倒れてるんだろう?」


 起き上がってみると、手をかけたはずの椅子の背もたれはそのままだった。


「お前もバカだな。三ヶ月も寝不足で気絶しない方がどうかしてるだろう?」

「あぁ〜、考えすぎで倒れてしまった」


 真後ろに直接倒れず、クローゼットのある壁にぶつかり、ずるずると床に崩れ落ちたようだった。頭にではなく、お尻に痛みが残っているのだから。


「そんなに夢中になるなんてな」

「うん、面白い考え方だと思った。光命さんの理論は」


 よろよろと立ち上がって、また眠ろうとベッドに入ったが、澄藍の頭がクールダウンすることもなく、寝れそうにもなかった。


「理論は大切だから、まだまだ勉強しとけよ」

「うん、そうする」


 閉じたまぶたのままでも、霊視を使って銀の長い髪を眺める。


「理論で悪戦苦闘してるお前に、今日も朗報だぞ」

「何かまた動きがあった?」

「光命のことだ」

「うん、光命さんがどうしたの?」


 紺の長い髪に、冷静なカーキ色の瞳。青の王子という名がふさわしい、優雅な笑みと上品な物腰。あの神さまの朗報。澄藍は期待を胸に、コウの言葉を待った。


「彼女ができた――!」


 彼は息子に嬉しいことが起こったみたいに言った。衝撃的過ぎて、澄藍はパッと目を開けた。ベッドに横になっているはずなのに、ぐるぐると足元がおぼつかないように天井が回り出す。


 そばで話している存在は神だ。それは、人間の心の声が聞こえているということだ。だから、悟られないように心を真っ白にして、平常を装ってうなずいたが、どうやってもため息はまじってしまった。


「あぁ、そうか……」


 薔薇色の人生から一気に目が覚めた気分だった。神の御前みまえで恋は無残にも散っていった。ぼんやりしている澄藍の耳に、コウの嬉しそうな声が続いている。


「いや〜! なかなか彼女ができなかったが、やっぱり運命の出会いというものはあるんだな。人それぞれ出会う時期などは違うから、光命は少し遅かっただけなのかもしれないな」


 澄藍は微笑もうとしたが、うまくできなかった。だからせめて、自分に言い聞かせるように言葉を口にする。


「そうだよね。光命さんだって大人だもんね、彼女ができるよね」

「そうだ。どうした?」


 コウの無邪気な瞳。神の前で視界はにじみ出すが、それでも、澄藍は心の中で嘆きもせず、ただただ青の王子へ祝福を贈った。


「いや……。よかったなって。光命さんが幸せになることができて」


 コウは両腕を頭にやって、嬉しそうにぴょんぴょんと音を立てて、あたりを歩き回る。


「だろう? 母親に似てる人を彼女に選んだらしいぞ。かなりの天然ボケで、罠を張って悪戯しては喜んでるそうだ。結婚するのも時間の問題だろうな」


 青の王子が結婚する――。

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